景気低迷でも「自由化」できない中国共産党のジレンマ

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が2月9日、ニッポン放送「小永井一歩のOK! Cozy up!」に出演。低迷する中国経済について解説した。

中国の習近平国家主席(中国・北京)=2023年9月28日 AFP=時事 写真提供:時事通信

中国の習近平国家主席(中国・北京)=2023年9月28日 AFP=時事 写真提供:時事通信

2月10日から春節も中国の景気は低迷

中国では2月10日の春節(旧正月)前後に帰省や旅行が盛んになるが、景気は低迷しているようだ。中国国家統計局が8日に発表した1月の消費者物価指数は、前年同月比0.8%下落。4ヵ月連続のマイナスで、下落幅は2009年9月以来、14年4ヵ月ぶりの大きさ。中国では不動産不況を背景に消費が低迷し、物価が上がりにくい状況が続いている。

小永井)なかでも食品価格が5.9%下落しています。

宮家)コロナが明けて、中国経済はV字回復するという期待が市場では高かったようです。でも、現地では思ったように景気が回復しない。何故かと思っていたら、先日、中国に住む友人と話す機会があったのですが、「なるほど」と思ったことがあります。確かに不動産不況やデフレ等々問題はあるけれど、コロナ禍の最中はみんな経済活動を自粛していたのかと思ったら、実は中国の一般庶民も決して消費しなかったわけではなく、かなりお金を使っていたのだそうです。

途上国の経済から先進国型に転換する曲がり角の中国

宮家)電気自動車ブームなどもあって消費はそれなりにあった。しかも、コロナ禍中はみんな食べものを買い込み、いつ何が起こるかわからないから色々備蓄もしていた。そこでコロナ禍が明けたら、今は「さて何を買おうか」という感じらしいです。そういう感覚は現地に住んでいる人でないとわからないと思い、なるほどなと思いました。それに加えて、不動産バブルが弾けた。若い人の失業率がとても高く、しかも中国社会は高齢化が進んでいます。1990年代以降の日本のようなバランスシート不況にもなっています。日本でもありましたが、いま中国はデフレの始まり、一種の曲がり角なのです。

国民1人当たりのGDPが1万ドルを超えるためには内需拡大、国有企業の改革、規制緩和等々のイノベーションが必要

宮家)中国経済も当然、途上国の経済から先進国型に転換しなくてはいけない。「中所得国の罠」という言葉がありますが、1人当たりのGDPが1万ドルを超えるか超えないかになると、途上国の経済は壁に突き当たります。その壁をぶち抜くためには、例えば内需拡大、国有企業の改革、規制緩和、イノベーションなどが必要になります。

小永井)イノベーション。

宮家)日本も韓国も台湾も、みんなそれで1人当たりGDP1万ドルの所得を超えていったわけです。もちろん、いまの中国だと沿岸の方では2~3万ドルのところもあるけれど、基本的には1万ドル前後ですよね。

規制緩和や国有企業改革をすれば中国共産党が成り立たなくなる

宮家)逆に言うと、まだ中国経済には伸びしろがあると思います。中国経済が終わったとは思っていません。問題は、「中所得国の罠」から脱出するために必要な「マクロ経済的政策を打てるのかどうか」ということです。でも、規制緩和や国有企業改革をしたら、中国共産党は終わりです。内需拡大も、習近平さんが「浪費してはいけない」などと言っているらしいので、これもダメです。イノベーションは他の国から取ってくるだけなので、これもうまくいかない。

小永井)なるほど。

宮家)普通の国のような、普通の経済政策ができれば、中国には伸びしろがまだあると思います。でも、残念ながらいまはオウンゴールになっている。10日から春節が始まるけれど、景気低迷は一時的なものとは思えません。旅行については、コロナ明けで春節にすぐ旅行するわけにはいかないだろうから、秋以降、国慶節の時期にはよくなると言われています。それ以外については、なかなかいい兆候がないようです。

中国の習近平国家主席(中国・北京)=2023年9月28日 AFP=時事 写真提供:時事通信

中国の習近平国家主席(中国・北京)=2023年9月28日 AFP=時事 写真提供:時事通信

世界の資金が中国から中国以外の国へ流れている ~それを止めるためには中国共産党が政策を変えなければならないが、できない

小永井)中国の中央銀行が預金の比率を引き下げ、金融緩和を行うと発表しましたが、株式指数も1月は6.3%下落と、デフレが進んでいます。

宮家)逆に日本株が上がっている。基本的には世界の投資に回る資金が、中国から撤退しているのです。理由はそれだけではありませんが、円も安いから日本に流れている。インドも含めて、中国から中国以外へと金の流れ方が変わりつつあります。それを止めるには、中国共産党が今政策を変えなくてはいけないし、いまのような喧嘩腰の外交でもダメです。本当は昔のような状態に戻らなくてはいけないけれど、できない。それができれば、中国は中国ではなくなってしまいます。

共産党の指導力が衰えるのではないかという強迫観念から自由化できない中国

小永井)中国国内で経済状況が悪化すると、国民の不満を外に移すような姿勢に変わりますか?

宮家)それはあると思います。ただ、いまの段階で外に喧嘩を売るとなると、ますます自分の首を絞めるわけです。中国経済は国際経済の一部として、初めて成り立っているからです。中国が「自由貿易だ」と言っているくらい、国際経済のなかの一部になっているから、今の中国に対外的な喧嘩はできないはず。本当は政策を変えなくてはいけないけれど、政策を変えたら「共産党の指導力が衰えるのではないか」という恐ろしい強迫観念があり、なかなか自由化できない。となると、いまのような状況が当分続くのではないでしょうか。

小永井)そういう状態であれば、中国も水産物の輸入規制などをやめればいいと思うのですが。

宮家)やめればいいのです。しかし、必要な政策変更ができないところが中国の特徴なのです。

小永井)なかなか変えられない。中国のデフレは、物価上昇のサイクルをつくろうとしている日本に対しても、水を差す部分があるのでしょうか?

宮家)多少あるかも知れません。でも中国は中国、日本は日本で、それぞれ新しい政策を取るべき時期に来ていると思います。

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