【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1164回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は、3月1日公開の『52ヘルツのクジラたち』と『コットンテール』をご紹介します。
映画館で観たい!『52ヘルツのクジラたち』 ~“声なき声”に耳を傾ける感動作
2021年本屋大賞を受賞した町田そのこの傑作小説を実写映画化した『52ヘルツのクジラたち』。
タイトルになっている“52ヘルツのクジラ”とは、他のクジラが聞き取れないような高い周波数で鳴く、世界で一頭しかいないクジラのこと。
どんなに近くにいても、どんなに鳴いても、その声は仲間には届かない。そんな“世界でもっとも孤独なクジラ”をモチーフに、切なくも愛おしい物語が誕生しました。
『52ヘルツのクジラたち』のあらすじ
かつて家族に虐待され、人生を搾取されてきた三島貴瑚。東京から海辺の町に建つ一軒家へと引っ越してきた彼女は、ある日、親からの虐待が影響で声が出なくなってしまった少年と出会う。
“ムシ”と呼ばれる少年に過去の自分自身を重ね合わせた貴瑚は、やがて彼と一緒に暮らすように。そして、貴瑚は思い出す。自分の“声なきSOS”に気づき、窮地から救い出してくれた岡田安吾のことを。
貴瑚の幸せを一身に祈ってくれた、トランスジェンダー男性。“アンさん”との日々に思いを馳せる彼女は、少年のために立ち上がることを決意する……。
『52ヘルツのクジラたち』のみどころ
三島貴瑚を演じたのは、杉咲花。複雑な家族関係から解き放たれようと人生を模索する主人公を、抜群の演技力で体現しています。
そして岡田安吾役には、志尊淳。精神的にも肉体的にもギリギリの状態だった貴瑚と出会い、“新しい人生”を提案する“アンさん”を全身全霊で演じる姿は必見です。
共演には宮沢氷魚、小野花梨、余貴美子、倍賞美津子などの実力派キャストが集結。さらに、物語の重要なパートを担う「ムシ」と呼ばれる少年を演じたのは、オーディションで100人以上のなかから選ばれた桑名桃李。映画初出演とは思えない、その堂々たる存在感から目が離せませんよ。
虐待、ヤングケアラー、そして性的マイノリティといった現代社会における課題と正面から向き合った本作。登場人物ひとりひとりの機微が丁寧に描かれていて、彼らが内包する痛みや切なる希望に触れるたび、心を揺さぶられるばかり。
そして「ひょっとしたら“世界でいちばん孤独なクジラ”のような存在は、私たちのすぐそばにもいるかも知れない」と、気づかされる人も多いのではないでしょうか。
多様な愛の形に希望の灯火を感じずにはいられない感動作。一辺倒には語りきれない物語を、あなたの魂で受け止めて。
コチラも映画館で観たい!『コットンテール』 ~第18回ローマ国際映画祭で、最優秀初長編作品賞を受賞!
「私の遺灰を、ウィンダミア湖にまいてほしい」。亡き妻の遺言を叶えるために、長らく疎遠だった息子ファミリーと共に、東京からイギリスへ向かう大島兼三郎。それは、最愛の妻に導かれるような、人生でいちばん大切なものと向き合っていくための旅だった……。
「ピーターラビット」発祥の地として知られるイギリス・ウィンダミアを舞台に、家族の愛と再生の軌跡を描いたロードムービー。
長年人生を共に歩んできた妻の死を受け止めきれず、やるせない迷走を繰り返す主人公をリリー・フランキーが好演。愛と喪失の狭間で揺らめく心模様と、風光明媚な旅情豊かな景色が見事に溶け合った珠玉の一作です。
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『52ヘルツのクジラたち』
2024年3月1日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
出演:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李、金子大地、西野七瀬、真飛聖、池谷のぶえ、余貴美子、倍賞美津子
監督:成島出
原作:町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社刊)
主題歌:「この長い旅の中で」Saucy Dog(A-Sketch)
配給:ギャガ
(C)2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会
公式サイト https://gaga.ne.jp/52hz-movie/
『コットンテール』
2024年3月1日(金)から新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演:リリー・フランキー、錦戸亮、木村多江、高梨臨、恒松祐里、工藤孝生、イーファ・ハインズ and キアラン・ハインズ
監督・脚本:パトリック・ディキンソン
製作プロダクション:マグノリア・マエ・フィルムズ、オフィス・シロウズ
製作総指揮:ガブリエル・タナ
プロデューサー:押田興将、キャロリン・マークス・ブラックウッド、エレーヌ・テオドリー
原題:COTTONTAIL
配給:ロングライド
(C)2023 Magnolia Mae/ Office Shirous
公式サイト https://longride.jp/cottontail/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/