米ハドソン研究所研究員の村野将氏が3月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米大統領選について解説した。
米大統領選スーパーチューズデー
秋のアメリカ大統領選挙に向けた野党・共和党の候補者選びは3月5日、全米15の州で予備選挙などが一斉に行われる大きな山場「スーパーチューズデー」を迎え、投票が行われた。
飯田)スーパーチューズデーを迎えて、周りの雰囲気や報道の様子はどうなっていますか?
村野)実際のところ、「そんなに盛り上がっていない」というのが現状です。民主・共和両党から何人も候補者が残り、接戦になっていれば盛り上がると思いますが、今回はスーパーチューズデー前から共和党はトランプ氏の大幅リードで、民主党は現職のバイデン大統領でほぼ決まりです。ですので、それほど盛り上がっていない印象です。
飯田)トランプさんがいろいろなところで圧勝する一方、首都ワシントンではヘイリーさんが一矢報いたとも報道されています。ワシントンは他とは違う特徴があるのでしょうか?
村野)ワシントンはいわゆるエスタブリッシュメントの街と言いますか、共和党内でも過激な路線というよりは、さまざまな意見があるなかでバランスの取れた伝統的・中道的な路線の人が多いのです。得票率でもヘイリー氏が6割以上でした。トランプ氏が3割獲ったのを「多い」とする見方もありますが、「このぐらいだろう」という感じです。ワシントンは全米のなかでも例外的な街だと思います。
トランプ前大統領が共和党候補になった方が「戦いやすい」と見るバイデン陣営
ジャーナリスト・佐々木俊尚)バイデン陣営としては、トランプ氏になった方が選挙戦を戦いやすいという話も出ているようですが、どういう構図なのでしょうか?
村野)仮にヘイリー氏が共和党の候補になると、この4年間におけるバイデン氏の対応の不十分さから、民主党の中道派がヘイリー氏に流れかねない。あるいは、いわゆる無党派層がヘイリー氏に流れて苦戦する可能性もあります。トランプ氏ならやり合ったこともあるし、常識票がバイデン側に入るかも知れないので、「組みやすい相手」だと思っているのではないでしょうか。
日本の安全保障にとって、バイデン氏、トランプ氏のどちらがいいのか
飯田)日本の安全保障を考えると、バイデン氏とトランプ氏のどちらが日本にとって「いい、悪い」という見方はありますか?
村野)あまり面白みのない答えになってしまいますが、どちらが大統領になったから「日本が政策を変える」という話ではなく、まず最初に「日本としてアメリカ大統領に何を期待するのか」というところから出発するべきだと思います。
飯田)日本として。
村野)ここ数年、アメリカの外交・安全保障政策において、対日政策はほとんどなくなっています。アメリカ側は「日本と一緒に何をするか」、また日本側も「アメリカと一緒に何をするべきか」という議論になっている。そういう意味で言うと、トランプ政権になった場合、対中政策はより鮮明になるでしょう。軍事やお金の面など、「限られたリソースをいかにインド太平洋地域、つまり中国対処に集中させるのか」という論点になり、そのなかで「ウクライナ戦争の問題をどう扱うか」が議論になるという感じです。
今後、アメリカから武器が入ってこなくなれば停戦は厳しくなる
佐々木)トランプ氏が大統領になったら、ウクライナへの支援は変わるでしょうか?
村野)変更は十分あり得ると思います。支援はするけれど無償援助ではなく、有償援助で「払ったものはいずれ返してくれ」という形にするのか、あるいは支援をまったくしなくなる可能性もあります。いろいろなバリエーションが考えられると思います。
飯田)トランプさんの「私なら24時間以内に戦争を終わらせる」という言葉を考えると、「即座に停戦させる」というところまでいくのでしょうか?
村野)現在でもアメリカからのウクライナ軍事援助は滞ってきているので、数日のうちに現状が急激に変わることは、まずありません。「戦場でどこまでウクライナが粘れるか」という政治的な継戦能力と、どれだけの軍事物資が入ってきて、戦場でいかに戦えるかという軍事的な継戦能力は、相互補完的な関係にあります。今後、アメリカから武器が入ってこなくなると、前線でウクライナ兵が劣勢に立たされるのはウクライナ兵自身もわかるでしょうし、ロシア側にも伝わると思います。その場合、停戦は厳しくなると思います。
米のトレードオフをどう管理するか
飯田)それが世界全体に対して「力による現状変更をしてもいい」というメッセージになってしまうと、日本にとってもまずいですよね?
村野)よくないと思いますが、非常に複雑な問題もあります。果たしてウクライナの敗北が、例えば「中国による台湾侵攻を刺激するか」と言うと、どうでしょうか。逆にアメリカが、これまで以上にウクライナ戦争に踏み込んでしまい、本来ならインド太平洋地域、台湾有事で使われるべき軍事物資を大量に消耗してしまったら、日本にとってもよくないわけです。トレードオフがない状態はあり得ないので、それをどう管理するかが問題だと思います。
「衛星画像を用いた中国の戦略核戦力増強の現状に関する分析」で判明した中国の核戦力
飯田)村野さんも関わっておられますが、東大先端研と笹川平和財団で、中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)基地建設についてレーダーなどを使って研究されています。現状、どのように見ていますか?
村野)これまで米国防総省は「中国がICBMサイロを300ヵ所以上つくり、急速な軍拡を行っている傾向がある」と言っていたのですが、一部の研究者からは「アメリカが軍拡するための口実ではないか」とも見られていたわけです。今回の研究では、民間の衛星を使うことでそれを客観的に検証し、アメリカが大げさなことを言っているわけではなく、実際に中国はICBMサイロに実弾を装填できるよう準備しており、それを明らかにしたのが新しいところだと思います。
飯田)ダミーでも何でもなかったことがわかったのですよね。
村野)アメリカの報告書では「2030年までに核戦力が1000発、あるいは2035年までに1500発の水準に達する」と言われていたのですが、実際にそれを運ぶための運搬手段、つまりミサイルをそこに装填し得る可能性を、客観的に検証した形になります。
トランプ政権になれば、「核軍拡に舵を切ることもやむを得ない」ということに
飯田)複雑な安全保障環境にあり、我々は自分たちでどうするか考えなくてはいけない。「もしトラ」などと言っている場合ではないのですね。
村野)もちろん、「トランプ政権になったらどうするか」は考える必要があります。トランプ政権とバイデン政権で最も大きく異なるのは、アメリカの核政策です。バイデン大統領はオバマ政権のときから核軍縮に熱心で、中国の脅威がありながらも「核軍拡はしない」と言っていました。しかし、トランプ政権になれば「核軍拡に舵を切ることもやむを得ない」という方針になると思います。
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