中枢神経に炎症が起こる病気『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』の症状と治療法を解説「急性期の治療と再発予防が重要」

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12月24日(火)、聖マリアンナ医科大学脳神経内科・櫻井謙三氏が、ニッポン放送のラジオ特別番組『第50回ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』にゲスト出演。視神経・脊髄・脳といった中枢神経に炎症が起こる病気『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』(以下、『NMOSD』)について、症状や治療法などを解説した。

中枢神経に炎症が起こる病気『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』の症状と治療法を解説「急性期の治療と再発予防が重要」

『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』について解説する聖マリアンナ医科大学脳神経内科・櫻井謙三氏

『NMOSD』とは、どのような病気なのか?

視神経・脊髄・脳といった中枢神経の病気で、「視力の低下」「手足の麻痺」など様々な症状が表れます。女性に多いというのが特徴で、患者さんの約9割が女性と言われております。

30~50代で発症することが多く、もちろん若い方や年配の方も発症しますが、働き盛りの方に多く見られます。国内では約6,500人の患者さんがいると言われていて1)、国の指定難病の1つとされております。

1)多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023 p7.

病気のメカニズムは解明されているのか?

「なぜこの病気になるのか?」といった原因に関しては不明確ですが、ある程度のことは分かっていて、免疫の異常です。免疫というのは、本来、細胞やウイルスといった感染やガンといった異物から体を守る仕組みですが、この仕組みが自分の細胞を攻撃してしまうという、いわゆる「自己免疫疾患」と呼ばれるグループの1つになっています。

『NMOSD』に関しては、主に「アクアポリン4」という血液や髄液といった液体の出し入れに関連しているタンパク質を、敵と誤って認識し攻撃してしまい、その結果、神経障害が表れます。

中枢神経に炎症が起こる病気『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』の症状と治療法を解説「急性期の治療と再発予防が重要」

どのような症状が起きるのか?

視神経・脊髄・脳、どこに起きるかによって違いますが、視神経に炎症が起きれば、視力が低下したり視野が欠けたり、目の奥が痛くなるといった症状が出てきます。これらの症状は、数日から1週間ほどかけて進行することが多く、場合によっては失明に至る場合もあると言われております。

脊髄においては、手足の麻痺や脱力、体の痛みといったことが急激に起こります。排泄に関しての影響もあって、尿が出にくくなったり便秘になったりといったことも、出てくると言われております。

脳に炎症が起こると、止まらないしゃっくり、止まらない吐き気、日中の耐え難い眠気といった、日常的にも起きそうな症状が発症することがあり、幅広い神経症状を起こしてくると言われております。

脳に起こる症状に関しては、『NMOSD』かどうかの判断が非常に難しいと思います。ただ、しゃっくりがあまりにも長く続くようなときは、「あれ?」という思いを持って、一度病院に受診していただくのがよろしいのではないかと思います。

『NMOSD』は様々な症状をもたらす病気である

病名のスペクトラム障害とは、様々な症状や重症度の幅を持つことを意味していて、患者さんごとに表れる症状や障害の程度が異なるのも特徴です。また、「ウートフ現象」と呼ばれる症状も、この病気の特徴であると言えます。

「ウートフ現象」とは、運動や入浴などによって体温が上昇したときに、一時的に症状が表に出てくることです。例えば、「入浴して体温が上がると目が霞んでくる」「運動すると足が痺れてくる」といった症状が、「ウートフ現象」です。

再発と異なる点は、体温が下がることによってもとに戻ることです。体温が上がることによって、神経の伝わり方が悪くなることが原因であると言われております。

「ウートフ現象」の症状が出る方に関しては、体温が上がらないように長風呂を避けたり運動を控えめにしたりすることもあります。『NMOSD』の患者さんの多くは、今述べたような症状の後遺症に悩まされていることが、しばしばあります。

痺れ・痛み・疲労や倦怠感・便秘・排尿障害・失禁など、いわゆる運動麻痺のようなものがあると外からも判断しやすいですが、なかなか外からは見えません。そして、自分でも表現しにくいような症状が、患者さんにとって負担になっているのではないかと考えております。

中枢神経に炎症が起こる病気『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』の症状と治療法を解説「急性期の治療と再発予防が重要」

どのような検査をおこない、診断されるのか?

『NMOSD』では、「頭あるいは脊髄のMRI検査」「血液検査」の2つが軸になっていきます。視神経の障害が出た方に関しては、眼科での眼底検査や視神経のチェックといったことも必要になります。

診断でもっとも重要なことは、『NMOSD』の患者さんにしか見られない自己抗体「アクアポリン4抗体」の有無です。これは血液検査をすることで、陽性か陰性かを評価することができます。

すなわち、『NMOSD』らしい症状があって、その患者さんにおいて「アクアポリン4抗体」が陽性であれば、『NMOSD』の確定診断ということになります。

『NMOSD』は、どのように進行するのか?

治療をしないと再発が多い疾患で、平均して年に1~2回、再発をすると言われております。一般的にはこの『NMOSD』というのは、病気がだらだら進行するものではなくて、再発の進行によって蓄積すると言われます。

目に炎症が起きたら視力が落ち、足に炎症が起きたら足が動かなくなるといった、障害の蓄積ということになりますので、逆に言えば、再発を止められれば障害の進行を止められる可能性があります。

中枢神経に炎症が起こる病気『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』の症状と治療法を解説「急性期の治療と再発予防が重要」

どのように治療するのか?

「目が見えなくなった」「足が動かなくなった」といった炎症によるトラブルに関して、まずは症状を治すことをしていきます。これが急性期の治療と呼ばれるもので、炎症を消すということです。

炎症を早く消してあげて、「目が見えるようになる」「足が動くようになる」といったことをする、急性期の治療が重要です。この時期においては、リハビリテーションも併せて機能の回復を図るということが1つです。

そして、急性期の治療を経たあとに、次の再発を防ぐ、再発予防が重要になってきます。残念ながら『NMOSD』は、現状病気を完治させる治療法は確立されておりませんし、90歳になっても発症する方がいますので、一度発症したら、生涯に渡り再発を予防するということが大切になってきます。

後遺症の治療も大切

予防のほかにも、後遺症に対しておこなう対症療法も大切になってきます。『NMOSD』では、後遺症として視力障害・痛み・脱力などが出てきますが、例えば痛み止めを使うなど、これらの症状を軽くするための治療も対症療法に入ってくると思います。

生活の質を上げていくためには、これらの治療も重要な治療手段となってきます。また、この時期においてもリハビリテーションは非常に重要ですので、継続していただくことになります。

中枢神経に炎症が起こる病気『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』の症状と治療法を解説「急性期の治療と再発予防が重要」

インタビューを担当した東島衣里アナウンサーとの2ショット

かつて『NMOSD』は、発症したあとに、失明をしたり寝たきりになったりする可能性のある疾患でしたが、現在は治療薬の選択肢が増えたことで、再発を防ぐことが可能なところまできました。

その先には、再発が止まって、患者さんの生活の質がぐっと上がっていくという、そういった世界が見えてきています。

患者さんの中には、治療に悩んだり副作用に悩んだり、様々な悩みがあると思いますので、主治医の先生に遠慮なく相談していただければと思います。

また、これだけ専門性の高い疾患ですので、主治医の先生の専門とずれている場合には、セカンドオピニオンなどを活用していただくのもよろしいかと思います。

そして、この『NMOSD』はまだまだ知られていない病気であるため、例えば先程お話したしゃっくりなどは、発症しても我々脳神経内科まで辿り着くのに時間がかかるという特徴もあります。

今回このような機会をいただいたことで、1人でも多くの方にこの『NMOSD』を知っていただければ嬉しいです。

(聖マリアンナ医科大学脳神経内科・櫻井謙三)

記事監修:中外製薬株式会社

番組情報

ラジオ・チャリティ・ミュージックソン

12/24正午 ~ 12/25正午 24時間生放送

番組HP

ニッポン放送「ラジオ・チャリティ・ミュージックソン」は、“目の不自由な方へ音の出る信号機”を贈るためのチャリティキャンペーンで、毎年11/1~翌年1/31に展開しています。

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