あけの語りびと

目の不自由な防災士、防災には「近くの人同士で助け合う“近助”を」

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ニッポン放送では、3月8日から14日まで「防災ウィーク」をお送りしています。期間中は、ニッポン放送の各番組で、様々な防災に関する放送や企画を実施します。この「あけの語りびと」の時間に、ひとつお話をご紹介します。兵庫県神戸市にお住まいの、目の不自由な「防災士」の方のお話です。

榊原道眞さん

榊原道眞さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

兵庫県神戸市で鍼灸院を営む榊原道眞さんは、1953年、岡山県生まれの71歳。榊原さんは、目の病気によって視力を失いましたが、すでに20年以上にわたって、防災に関する活動を、ライフワークとして続けていらっしゃいます。

30年前の阪神・淡路大震災では、同じ兵庫県の西宮市にお住まいで、阪急・西宮北口駅近くにあったお勤めの会社の社宅で、激しい揺れに見舞われました。

「枕の下のほうからドーン! という音がしたんです。途端にガタガタガタッときました」

幸い、奥様と当時小学生だった2人のお子さんは無事で、家の電気も比較的早く復旧。阪急神戸線は、梅田から西宮北口まではすぐに運転が再開されたこともあって、榊原さんも地震の翌日から、大阪の勤め先へ出勤することができました。

ところが震災によって、夜に街の灯りが消えたことで、榊原さんは目の異変に気付きます。

『あれ、今までより、モノが見えにくい……、どうしてなんだろう?』

翌年には、文字がゆがんで見え始めたことで、榊原さんは病院に駆け込みました。診断は「網膜色素変性症」、だんだんと視力が落ちていく進行性の難病でした。

そこで榊原さんは、勤めていた会社を辞め、鍼灸師の資格を取る勉強を始めます。2000年には、神戸市内に自らの鍼灸院を開業しました。

数年後、阪神・淡路大震災から10年の節目を前に、メディアで様々な特集が行われると、榊原さんは大きな不安に襲われました。

『もしもまた、阪神・淡路と同じ揺れがきたら、あの時より視力が落ちている自分は、一体どうしたらいいのだろうか?』

不安を少しでも解消したいと、榊原さんは「防災」に関心を持つようになります。榊原さんは障害のある方をはじめ、様々な事情を抱えた方と一緒に、防災の専門家を招いたり、ワークショップやシンポジウムなどを開催していきました。

しかし、ある時、榊原さんはハッと気づきました。

『イベントはあれこれやっているのに、自分は何一つ、防災の勉強をしていないじゃないか』

そう思った榊原さんは、自ら行動を起こします。

2019年、榊原さんは、「ひょうご防災リーダー養成講座」に通い始めました。この講座に8割出席できれば、「防災士」の受験資格が得られるといいます。

最初は「防災士」の資格にあまり興味がなかった榊原さんですが、自宅から片道およそ2時間をかけて講座に通ううちに、ちょっぴり欲も出てきました。

『もしかしたらイベントでも、防災士資格のある視覚障害のおっちゃんがしゃべったほうが、みんな聴く耳を持ってくれるんじゃないか』

そう思った榊原さんは、講座の受講と並行して防災士試験の受験勉強も始めます。ただ、試験を受けるためには、およそ350ページの本を読み込まなくてはなりません。主催する団体と交渉して、パソコンに取り込んで読み上げられるデータにしてもらうと、なんと500ページを遥かに超える膨大な量となりました。

それでも、榊原さんはおよそ半年間の猛勉強を経て、防災士の試験に臨みます。ほかの受験者とは別室で、試験官の方が読み上げて答える試験に対応してもらいました。榊原さんの手応えは、もちろん十分!

2020年春、榊原さんに届いた防災士試験の結果は……、見事合格! 自然と嬉しさが込み上げてきました。

それから5年、榊原さんは今、各自治体が防災対策として作っているハザードマップを目の不自由な方に合わせて、理解できるものにする活動に取り組んでいます。たいていのハザードマップは、災害が起きたら危ない場所が危険度に合わせて色で塗り分けされていますが、目の不自由な方には、エリアも危険度も分かりません。

「究極の防災対策は、ひとりひとりがハザードマップをよく知ることなんです。ハザードマップを読めば、災害が起きたときに、自分が何をすればいいかが分かります」

そう話す榊原さんは、とくに目の不自由な方には、「確認」の大切さを訴えます。自分のいる場所から避難所まで移動にどれだけかかるのか、自宅に留まった方が安全か、非常食の作り方、防災グッズ、トイレの使い方など、紙の説明書を渡されただけでは読むことができない以上、事前に体験して、体が憶えている状態にしてほしいと言います。

その上で、榊原さんはこう話してくれました。

「防災は地域が世代を超えて繋がることができます。よく自助・共助・公助といいますが、自助と共助の間に、ぜひ近くの人同士で助け合う“近助”を加えて下さい」

目の不自由な方、耳の不自由な方、車いすの方、認知症の方、赤ちゃんと親御さん……。いろいろな人が避難所に集まることを思い浮かべて、近所で助け合える関係を作るため、榊原さんの防災への取り組みに終わりはありません。

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