
葛飾区亀有“両さんどら焼”で親子がつなぐ『こち亀』ファンの輪
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JR常磐線・亀有駅。改札口を抜けると、まず出迎えてくれるのが『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の人気キャラクター“両さん”の銅像です。破天荒な巡査長・両津勘吉が次々と騒動を巻き起こしますが、下町の愛されキャラとして親しまれています。

3代目の修平さん、2代目の佐藤尚吾さん
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
この春、亀有の話題といえば、3月22日にオープンする「こち亀記念館」。南口から歩いて3分……、商業ビルの間に、四角い箱を積み上げたようなユニークな形をした5階建ての記念館が現れます。下から見上げると、5つの大きな窓には漫画のひとコマがプリントされていてまさに『こち亀』をビルにしちゃった! そんな建物です。まだオープン前ですが、駅前や商店街、公園などには、大小合わせて15体の「こち亀の銅像」が設置されているので、漫画の世界に浸りながら散策するのも楽しそうです。

左:亀有駅南口の「両津・中川・麗子がお出迎え! 像」、右:『こち亀記念館』(3月22日オープン)
また、亀有は商店街が元気です。両さんの顔をデザインしたフラッグが揺れる南口の商店街「ゆうろーど」を歩いていると、ふと和菓子屋さんが目に留まります。豆大福、塩大福、草大福、焼きだんご、おはぎ、茶まんじゅう……。
どれにしようか迷っていると、その中に、なんと“両さんどら焼”を見つけました。何か面白そうなエピソードがあるかも……、ご主人にお話を伺いました。

「両さんどら焼」のほかに「両さんサブレ」や「両さんめんこ焼」も人気
「葛飾伊勢屋」さんが亀有で創業したのは、昭和40年2月1日。その一週間後、2月8日に2代目のご主人、佐藤尚吾さんが生まれます。つまり、お店も尚吾さんも今年60歳、還暦を迎えました。
子供の頃、尚吾さんはお店を継ぎたくないと思っていました。朝6時から夜10時まで働き続ける父親の姿を見て、この業界の厳しさを知っていたからです。そんな思いがあって勉強に励み、早稲田学院から早稲田大学・政経学部に進学、山崎製パンに就職します。
しかし、サラリーマンになると、逆に実家の経営が気になります。「父が始めた和菓子屋を一代で終わらせたくない」という思いが強まり、結婚を機に実家へ戻る決意をしました。

創業60周年を迎える葛飾伊勢屋さん
当時、バブルが弾け、何人もいた職人さんが次々と辞めていき、残ったのは一人の職人さんとアルバイトさんだけ……。和菓子がなかなか売れず、何か新たな商品を開発しようと焼き菓子“お花茶屋まんじゅう”を発売しますが、これがさっぱり売れない。
そんなある日、妻の実家がある岐阜に遊びに行くと「え、亀有から来たの? 公園ってあるの? そこに交番はあるの? 面白い街なんでしょう?」とあれこれ聞かれました。尚吾さんは、亀有に住んでいるにも関わらず『こち亀』がこんなに人気だとは知りませんでした。
そうだ! “両さんどら焼”を作ったら、これは売れる! そう思い立ったのが1999年、今から26年前、尚吾さん34歳の時でした。さっそく、『週刊ジャンプ』を出版する集英社を訪ねます。
担当者が早稲田大学のOBだったこともあり、これは好都合だと思ったら、「両さんどら焼? それは無理だな。大手のお菓子メーカーならともかくお宅みたいな小さな店じゃ……」とけんもほろろに断られ、尚吾さんはショックのあまり寝込んでしまいます。

店内のお食事処は「ラーメンとあんみつセット」が人気
ところが! その話が原作者・秋本治先生の耳に入り、「地元限定で、やらしてあげてよ」の一言で許可が下りました。こうして、両さんの笑顔が焼印された“両さんどら焼”を販売すると、それまで1日10個も売れなかったのが、なんと1日3000個の売上! 全国から「こち亀ファン」が、お店に押し寄せました。
中には、「私は“どこどこの両さん”と呼ばれているんですよ」や「両さんに憧れて警察官になりました」と話しかけてくるお客さんもいて、尚吾さんは、改めて両さんの影響力の大きさを知ります。
この“両さんどら焼”がきっかけとなって「銅像を作ろう」という話が持ち上がり、2006年、亀有駅北口に両津勘吉像が建立されました。2008年には3体目となる「少年両さん」が作られることになるのですが、尚吾さんは、当時の総理大臣、マンガファンとしても知られる麻生太郎さんが、自身のブログに「こち亀を読んで笑えないと体調が悪いのかな」と書いているのを知りました。

亀有公園の「ひとやすみ両さん像」
思い立ったらすぐに行動する尚吾さんは、早速、麻生さんの事務所に「除幕式にぜひ来て欲しい」と手紙を書いて送りました。
ところが、待てど暮らせど返事がない。「多忙な総理だから無理だろうな」と諦めてかけていたその時、秘書官から「都合がついたので除幕式に出席します」と連絡が入りました。「あの時は、商店街が大盛り上がりでしたよ!」と尚吾さんは振り返ります。
「こち亀の街」として全国的に知られるようになった葛飾区亀有。葛飾伊勢屋さんも亀有本店の他に6店舗を展開し、従業員は35人に増えました。さらに嬉しいことに、長男の佐藤修平さんが3代目を継ぐことになり、現在、親子で「こち亀記念館」のオープンを記念した新商品の開発に取り組んでいます。
・葛飾区亀有3丁目32番地17号
・JR亀有駅南口下車 徒歩3分
※入場するにはホームページから事前予約が必要です。
https://kochikame-kinenkan-official.jp