あけの語りびと

「自分を待っていてくれる人がいる……」根気強く1対1で向き合う、外国人の子どものための学習支援

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日本の少子高齢化に伴う人手不足を補うため、多くの企業が外国人労働者の受け入れを進めています。その中には、日本での生活に親しみを感じ、妻や子を呼び寄せるための在留資格を取って、日本に定住する外国人も増えています。

外国籍の子どもでも、日本の義務教育を希望する場合、国際人権規約に基づき、日本の子どもたちと同じ教育を受ける権利が、保障されています。しかし、公立の小中学校では、外国人の子どもを受け入れてはいるものの、特別に日本語を教えるための体制が十分に整っていないのが現状です。

そこで、外国籍の子どもに日本語教育や学習支援活動を行うことを目的に、1996年、千葉県松戸市で『認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会』を立ち上げた方がいらっしゃいます。

マンツーマンで学習指導が行われる「定例勉強会」(新松戸教室)写真提供:認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会

マンツーマンで学習指導が行われる「定例勉強会」(新松戸教室)写真提供:認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

この会を立ち上げた代表の海老名みさ子さんは、こう話します。

「外国にルーツをもつ子どもは、自分の意思で来日した訳ではありません。全て親の都合でやってきます。1年もすれば、日本語を聞くこと、話すことができるようになりますが、日本語の教科書を読み、理解し学力をつけることに多くの子どもが苦労しています。そういった子どもたちに『こうすれば読む力がつくよ』『こうすれば書く力がつくよ』と支援しています」

この『勉強会』は、新京成線の駅前にある「常盤平教室」、松戸駅が最寄り駅の「文化ホール教室」、そして、新松戸駅が最寄り駅の「新松戸教室」の3か所で、定例勉強会を開催しています。

そのうちの1つ、「新松戸教室」は、5年前に松戸市の支援を受けて立ち上げ、現在生徒は、中国、スリランカ、ナイジェリア、ネパール、ベトナム、フィリピンから来た小学生6人と中学生10人が通っています。

1対1の学習支援を行うので、スタッフも16人。メンバーは元教員、元会社員、海外生活経験者、主婦など様々です。「新松戸教室」を立ち上げた一人で、現在リーダーの森田貴彦さんは元商社マンです。

高校入試対策のために開かれる「集中勉強会」写真提供:認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会

高校入試対策のために開かれる「集中勉強会」写真提供:認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会

6年前からこの勉強会で学習支援を行っていますが、はじめは日本語の基礎がない子どもへの指導に戸惑い、気持ちを通わせる手段も見つからず、何を考えているのかも分からず、試行錯誤の日々が続いたといいます。

親の都合で日本にやって来た子どもたちは、学校の授業を受けても、教科書が全く読めません。数学が得意でも問題が読めないのです。クラスの同級生とも馴染めず、いつもひとりぼっち……。勉強会でも、なかなか心を開こうとはしません。

「なんでこんなところに来なくちゃならないんだ」とむくれて、机に顔を埋め、ふて寝する子がいました。また、中学校に入っても『九九』ができない子もいました。

勉強会は週に一回なので、家に帰ったらしっかり予習復習をするようにと言っても全くやって来ないんです。一週間後、また一から九九を始める、そんな日々の繰り返し……」スタッフは教室で困り果てていた、とリーダーの森田さんは振り返ります。

マンツーマンで学習指導が行われる「定例勉強会」(新松戸教室)写真提供:認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会

マンツーマンで学習指導が行われる「定例勉強会」(新松戸教室)写真提供:認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会

新松戸教室の「定期勉強会」は毎週水曜日の夕方5時30分から2時間です。

ところが、時間になってもやって来ない生徒もいます。1対1の指導なので、生徒が来るのをジリジリしながら待ち続けます。

しばらくして遅刻した子どもが姿を現すと、「わぁ、待っていたのよ!」とスタッフが笑顔で迎え入れます。「ああ、自分を待っていてくれる人がいる……」言葉が通じなくても心を通わせ、小さな絆を生んでいくのだそうです。

「とにかく根気よくコミュニケーションをとるように心がけました。日本語がだんだん分かってくると、勉強の中身も分かってくるんです。このきっかけを作ってあげるのが、わたしたちの使命かなと思うんですよ」

心を開かず、ふて寝していた中国人の女の子……、九九ができなかったスリランカの男の子……、今では日本の高校を目指して勉強に励んでいます。

ところが、この勉強会に対して、「日本で悪いことをする外国人、その子どもに、なんで勉強を教える必要があるんだ、けしからん!」こんなことを声にする日本人もいます。

左:進級進学をお祝いして行う「日帰りバスハイク」右:高校生になった先輩を招き、受験のアドバイスや高校生活などを聞く 「先輩と話そう会」 写真提供:認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会

左:進級進学をお祝いして行う「日帰りバスハイク」 右:高校生になった先輩を招き、受験のアドバイスや高校生活などを聞く 「先輩と話そう会」 写真提供:認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会

しかし、この会のスタッフは全員、外国人への偏見はありません。

というのも、新しく日本の住民になった子どもたちが、いずれは日本で、あるいは母国や他の国で、グローバルに日本にかかわり、日本の底上げに尽くしてくれる大人になってくれるはずだから……、それを信じて、スタッフは日本語を教え、学習支援の活動をしています。

「実際にこの会を巣立ち、専門学校で介護の勉強をして、福祉施設で働く夢を追いかけている子や、大学を卒業し、エンジニアになり、日本の企業で頑張っている子など、私たちの願い通りに育っている子たちが大勢います」リーダーの森田さんは子供達の成長に嬉しそうな表情を浮かべていました。

『認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会』……、日本にとっても、外国人の子どもにとっても、未来を切り拓く大切な一歩となる勉強会です。

「認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会」HP
https://www.esco-matsudo.org/

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