Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね【第1274回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は10月10日公開の『秒速5センチメートル』と『トロン:アレス』をご紹介します。

画像を見る(全12枚) (C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会
『秒速5センチメートル』時間の経過、距離の変化が、人生を変えていく
“新海誠ワールドの原点”との呼び声が高い劇場アニメーション『秒速5センチメートル』。公開から18年経った今でも世界中の人々から愛され続けている不朽の名作が、実写映画となりました。
メガホンを取ったのは、映像作家・写真家として注目を集め、本作が初の大型長編商業映画監督作となる新鋭・奥山由之監督。物語の生みの親である新海監督が「自分でも驚いたことに、泣きながら観ていた」という、生命力に満ちた新たな名作映画が誕生しました。
『秒速5センチメートル』のあらすじ
1991年、春。東京の小学校で出会った、遠野貴樹と篠原明里。徐々に心の距離を近づけていく2人だったが、卒業と同時に明里が引っ越しすることに。彼らは離れ離れになってしまう。
中学1年生の冬。文通を続けていた貴樹と明里は、栃木・岩舟で再会。雪が降る中、2009年3月26日に同じ場所で会うことを約束する。
そして、2008年。東京で働く貴樹は、人との関わりを避けながら、孤独な日々を送っていた。一方、明里もあの頃の思い出を胸に、静かな毎日を過ごしていたが……。
『秒速5センチメートル』のみどころ
主演を務めたのは、新海誠が“もっとも信頼している俳優”と評価する松村北斗。『すずめの戸締まり』に声優として参加するなど、新海作品とは縁が深い彼ですが、本作が初の単独主演映画となります。上田悠斗(幼少期)、青木柚(高校生時代)が演じた“遠野貴樹”を受け、明里への想いを胸に秘め続ける青年を好演。その繊細な演技に心を打たれる人も多いことでしょう。
そして篠原明里役は、話題作への出演が続く高畑充希。静かな中にも芯の強さが垣間見える佇まいが魅力的で、強く印象に残ります。また、明里の幼少期を演じた白山乃愛の初々しい姿も必見ですよ。
共演には森七菜、木竜麻生、宮﨑あおい、吉岡秀隆といった豪華俳優陣が集結。時間の経過や距離によって、幼い頃から惹かれ合ってきた男女の関係性が変化していく。貴樹と明里の物語が美しく、そして優しく綴られています。
桜並木に踏切、打ち上げられたロケット。しんしんと降り積もる雪。そして、“秒速5センチメートル”で落ちていく桜の花びら。新海ワールドの特徴である映像美や詩的でセンチメンタルな世界観を踏襲しつつ、新たな息吹をもたらして“奥山版『秒速5センチメートル』”を見事に構築させた本作。
観終わった後、じわじわと切なさが込み上げてきて、登場人物たちに思いを馳せてしまうのは、過去への未練、未来への不安、焦りといった誰にでも覚えがある感情が内包された作品だからこそでしょう。
深い余韻が残る、この秋いちばんの感動作です。
『トロン:アレス』主人公は、“戦の神”の名を持つAI兵士
映画史上、初めて本格的にCGI技術を導入して製作されたSFアクション映画『トロン』(1982年)。当時の最先端映像と音楽で観客を魅了した『トロン:レガシー』(2010年)。常に映像革命を起こし続けている『トロン』シリーズに、待望の新作が誕生しました。
それが、『トロン:アレス』。
圧倒的な力とスピード、優れた知能と何度でも再生できる能力を持つAI兵士のアレス。しかし、現実世界で人間を知ったことで、彼の中にある異変が起きる。やがて、制御不能となったAIたちが暴走。デジタル世界が現実世界を侵食していくが……。
前作、前々作では「人間がデジタルの世界に入っていく」という設定でしたが、今作では、まったく逆。デジタル世界から超高度AIプログラムが実体化されて、現実世界に現れるという設定で、これが実に斬新です。
パトカーを真っ二つにしてしまうほどのレーザー光線を放つ赤いライトサイクル。無数の光を発しながら人型のプログラムが形成され、命が吹き込まれていく描写など、『トロン』シリーズならではの映像は、思わず息を呑んでしまうほど迫力たっぷり。
AI時代の今だからこそ観たい一作。映像エンターテイメントの歴史を塗り替える時を、スクリーンで目撃して。

(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会
<作品情報>
秒速5センチメートル
2025年10月10日(金)から全国東宝系にてロードショー
出演:
松村北斗 高畑充希
森七菜 青木柚 木竜麻生 上田悠斗 白山乃愛
岡部たかし 中田青渚 田村健太郎 戸塚純貴 蓮見翔
又吉直樹 堀内敬子 佐藤緋美 白本彩奈
宮﨑あおい 吉岡秀隆
原作:新海誠 劇場アニメーション『秒速5センチメートル』
監督:奥山由之
脚本:鈴木史子
音楽:江﨑文武
主題歌:米津玄師「1991」(Sony Music Labels Inc.)
劇中歌:山崎まさよし「One more time, One more chance 〜劇場用実写映画『秒速5センチメートル』Remaster〜」(ユニバーサルミュージック)
製作:フジテレビジョン コミックス・ウェーブ・フィルム 東宝
制作プロダクション:スプーン
配給:東宝
(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会
公式サイト https://5cm-movie.jp

(C)2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
<作品情報>
トロン:アレス
2025年10月10日(金)日米同時公開
出演:ジャレッド・レト グレタ・リー エヴァン・ピーターズ ジョディ・ターナー=スミス ジェフ・ブリッジス
日本版声優:諏訪部順一 内田真礼 石川界人 田村睦心 磯部勉
監督:ヨアヒム・ローニング
音楽:ナイン・インチ・ネイルズ
原題:Tron:Ares
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト https://www.disney.co.jp/movie/tron-ares
連載情報

Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/