神奈川県相模原市の、かつて「津久井」と呼ばれていた地区で、代々生産されてきた伝統の大豆「津久井在来大豆」
一般の大豆に比べて糖質が多いのが特徴で、味噌の原料にすると、甘みの強いおいしい味噌ができあがります。
ところが、安い輸入大豆が入ってきたことで、だんだん生産農家が減り、一時は消滅の危機に陥りました。
“幻の大豆”と呼ばれていたこの津久井在来大豆を、なんとかもう一度よみがえらせようと、栽培農家を増やし、普及のために様々な活動を行っているのが、相模原市内で「ねごやファーム」という農場を営む、石井好一さん、67歳。
「津久井の地名は、市町村合併で消えてしまったんです。この大豆には、“津久井”の名前が残っていますし、地元が誇る名産が消えてしまうのはしのびないですからね」
石井さんは2000年に、地元の有志を集めて「大豆の会」を結成。
神奈川県と協力して旧・津久井地区の使われていない農地を利用し、津久井在来大豆の栽培を始めました。
ここに「体験農園」を作り、栽培する人を公募で募集。農業の経験がない人でも受け入れ、その中から、新たに農家になり、大豆の生産を始める人も現れました。
地元では50軒近い農家が津久井在来大豆を栽培。出荷量も年々増えています。
石井さんの活動はそれだけではありません。
やっぱり、生産を増やすには、買ってくれる人を増やさないといけない。
そのためには、そういう大豆が地元にあるんだ、ということをもっと知ってもらわないとね。
そこで石井さんが始めたのが、地元の小学校に赴き、学校の花壇を利用して、子供たちに直接、大豆の栽培を指導すること。
普段食べている大豆が、いったいどうやって栽培されるのか?
大豆一粒を植えると、そこから芽が出て、すくすく成長し、新たな実がなって、大豆がどんどん増えていく・・・
農家の人には当たり前のことですが、農業を知らない子供たちには新鮮な体験で、収穫された大豆を石井さんたちが引き取り、糀を加えて味噌にします。
子供1人につき1kgの大豆を渡すんですが、これを自分の手で育ててもらい最終的にそれが1人あたり3kgの味噌になります。
これを持ち帰ってもらって家で味噌汁を作ってもらう。
甘くておいしいから、家の人もファンになるんですよ。
父兄の方が『私も栽培したい!』と体験農園にやって来ることもあります。
うまく育てられない子を、他の子が助けてあげたり、台風が来たときにみんなで大豆を守ったり・・・栽培を通じて、チームワークも学べます。
小学校での体験指導を始めてから15年ほど経ちますが、最初は1校から始めたこの活動は、現在8校にまで拡がり、町で「石井さーん!」と子供たちに声を掛けられることも。
地元の子供たちの間では、「大豆のおじさん」としてすっかり有名人になりました。
この活動に、ある大手味噌メーカーが注目。
宇宙ステーションに大豆を持って行き、宇宙環境に置くことで豆の味がどう変わるか?という実験に、津久井在来大豆も参加することになりました。
石井さんはこの「宇宙に行って戻って来た大豆」を学校での栽培に使っています。
宇宙に行った大豆が、子供たちのお陰でどんどん増えて、それでおいしい味噌ができる。
“宇宙みそ”ということで話題になったし、津久井在来大豆のいいPRになりました。
今では、他の地域で「津久井在来大豆を育てたい」という農家も現れているそうで、どんどん広がっていく大豆の輪。石井さんはこう言います。
豆一粒で、子供たちだったり、そのご両親だったり、県外の人だったり、付き合いが広がっていく。
農業の楽しさ、面白さをこれからも子供たちに伝えていきたいですね。
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