首都圏を走るJRの主要路線の1つ「常磐線」。
松戸、柏、我孫子といった千葉県の東葛地区から東京都心への通勤通学には欠かせない路線です。
エメラルドグリーンの快速電車や地下鉄千代田線直通の各駅停車に混じって活躍しているのがブルーの帯を巻いた「普通列車」。
別名「中電」とも呼ばれ、利根川を越えて取手の先、土浦、水戸、勝田といった行先を掲げている列車です。
この中電の一翼を長年担ってきた「415系」電車が6月25日土曜日、ついに東日本エリアでは最後の営業運転を迎えました。
6月25日土曜日・午前11時前、福島県浜通り地方の代表駅「いわき駅」には、多くの鉄道ファンが詰めかけました。
「415系」電車最後の営業運転は、ツアー形式の団体専用列車「ありがとう415系電車号」。
4両編成を2つ繋いだ8両編成として、常磐線のいわき~竜田(福島県楢葉町)間を往復します。
JR東日本水戸支社によれば、5月26日14時からJR東日本「びゅう」のサイトなどで売り出され、当日のうちに200名分の席が「完売」。
そんな貴重な「200名」の1人として、望月もツアーに参加してきました。
JRいわき駅に降り立てば、橋上駅舎へ登る階段には、ヘッドマークにもなった記念のイラストが・・・。
駅舎各所にも「ありがとう415系」の文字が躍り、社員の皆さんの「415系」電車への温かい思いが感じられます。
※画像は今回引退した車両の前身、鋼製車体の「403系&415系」電車。2004年、茨城県内にて筆者撮影。
「415系」電車は直流電化区間、交流電化区間の両方を走ることが出来る車両として昭和46(1971)年にデビュー。
常磐線(上野~原ノ町間)・水戸線の普通・快速列車として活躍しました。
常磐線・水戸線には、直流・交流の切替区間(デッドセクション)があり、両方の電化区間を走る列車が必要とされています。
これは茨城県石岡市に「気象庁地磁気観測所」があり、首都圏では一般的な直流電車では、周辺35キロの地磁気観測に影響を及ぼしてしまいます。
このため常磐線は取手の先で影響の少ない交流電化に切り替わり、「415系」電車などではバサッという音と共に消灯して車内が暗くなっていました。
(参考:気象庁地磁気観測所HP)
昔は小豆色だった車体も、昭和60(1985)年の「つくば科学万博'85」の時期に白に青帯を巻いたカラーリングにイメージチェンジ。
鋼製車体の「415系」電車は、9年前の平成19(2007)年に引退しました。(一部車両はJR九州に譲渡)
ステンレス車体の「415系1,500番台」はその後も残り、水戸周辺で引き続き活躍していましたが、今年3月のダイヤ改正で定期運用は終了。
「415系1,500番台」も昭和61(1986)年製といいますから、万博の翌年に投入されてから、ちょうど30年の活躍だった訳ですね。
当時は常磐線のラッシュが激しく、従来形のボックス席に代わって、通勤電車同様のロングシートで造られたのも大きな特徴です。
1980年代生まれの鉄道車両らしいブラックフェイスの顔、車内も平らな天井が特徴的な「415系1,500番台」。
中吊り広告のスペースには、社員の皆さんがプライベートで撮影した「415系」電車の写真が展示されました。
常磐線・水戸線向けに作られたこのタイプの車両は、全部で「89両」。
うち1両は2階建ての試作車で、常磐線の上野~勝田間で使用されました。
現在は4両編成10本(40両)が残っていますが定期運用はなく、今回の運転がラストランになるものとみられます。
JR東日本「いわき運輸区」の社員の方の司会で午前11時30分過ぎ、いわき駅5・6番ホーム線で「ありがとう415系」号の出発セレモニーがスタート。
まずは福島県有数の進学校「福島県立磐城高等学校」の吹奏楽部の皆さんによる演奏が行われます。
数々のコンクールでも優秀な成績をおさめているという”イワコー”の吹奏楽部、昭和の名曲からオリジナル曲まで数曲を披露。
「415系」電車デビューの年、昭和46(1971)年のレコード大賞受賞曲「また逢う日まで」も演奏され、「415系」のラストランに素晴らしい選曲でした。
まさか「415系」電車、「また逢う日まで」・・・なぁんてこたぁ無いですよね!?
セレモニーにはいわき市のPRにあたる「サンシャインガイドいわき」の方や、市のゆるキャラ「フラおじさん」なども登場。
このほか、JR東日本水戸支社の鉄道少年団の皆さんも、車内装飾に協力、列車の見送りにも参加されていました。
午前11:50、いわき駅の川畑亨(かわはた・とおる)駅長によって「出発合図」が行われます。
川畑駅長も7月の人事異動でいわき駅長の退任が決まっており、いわき駅ホームでの「出発合図」もこれが最後になるとのこと。
長い警笛と共に「ありがとう415系」号が出発、常磐線415系電車”最後の旅”の始まりです。
いわき駅を出発すると、まずは左手の「いわき運輸区」の皆さんが垂れ幕を作ってお見送り。
常磐線などの運転士さん、車掌さんが所属する「いわき運輸区」ですが、皆さん手の振り方がすごい!
セレモニーでも若手運転士さんが最初の研修で乗った思い出の車両と話すなど、「415系」電車が現場に愛されていた様子が伺えます。
ちなみに「415系」電車の後継車両となるのが、手前に停車中の「E531系」交直両用電車。
すでに常磐線・上野東京ラインの電車として東海道線・品川まで乗り入れていますので、有楽町でもおなじみの電車です。
オールロングシート8両編成に「200人」の参加ですので、1人当たり2~3席相当の余裕ある車内。
先頭と最後尾の1・8号車はフリースペースとされ、参加者に自由開放されました。
今回のツアーでは、乗車の記念品として「記念乗車証」や「乗車記念品(サボのレプリカ)」がプレゼントされました。
しかも、巾着袋は「415」の文字がプリントされたオリジナルのもの。
なかなか手の込んだ記念品で嬉しくなりますね。
ツアー列車では「車内改札」も1つのイベントになります。
最近は「Suica」などのICカード乗車券が普及したことで「きっぷを拝見しま~す」も過去のものに・・・。
でも、古い車両のラストイベントだからこそ「車内改札」が、とても懐かしい気分にさせてくれますよね。
レトロ系の観光列車、イベント列車では、ぜひ「車内改札」をどんどんやってほしいと思います。
スタンプも「ありがとう415系」オリジナルのものを押していただきました。
415系電車は最後こそロングシート車ばかりでしたが、2000年代半ばまではボックスシートの車両や長距離運行の列車も多くありました。
学生時代「青春18きっぷ」で東北を行き来する時は、ロングシートで乗換の多い東北線より、ボックスが多く乗換の少ない常磐線をよく使っていました。
上野~いわき間が「415系」のボックス、いわき~仙台間が元・急行用の「455系」のボックスで、空いていれば足を伸ばしてというのが定番中の定番。
今回はそんな昔の旅を思い出しながら、いわき~竜田間を2時間ほどかけて1往復します。
走り始めておよそ20分、まだいわき市内の末続駅(すえつぎ・えき)で10分の小休止。
待避線も無い無人駅での長時間停車というのは、本来の常磐線ではありえないコト。
今も常磐線・竜田以北は運転を見合わせており、運行される列車も少ないままです。
このため直線区間にあって「長編成を比較的安全に撮影できる」末続駅での長時間停車が可能になったともいえそう。
今回のツアー、結構マニア寄りの構成です。
末続駅は「あじさい」の花が見ごろを迎えていました。
あじさいと「415系」のジョイントもこれが最後となります。
地元の皆さんによる獅子舞などもあって、撮影を含めて10分の停車時間はあっという間でした。
そんな「ありがとう415系の旅」の参加者限定に作られたのが「ありがとう415系記念弁当」。
水戸駅をはじめ、JR東日本水戸支社エリアの駅弁を手掛けている「しまだフーズ」調製の幕の内弁当です。
「しまだフーズ」は平成元(1989)年創立、茨城県内で飲食店を展開しており、水戸の駅弁には平成23(2011)年から参入した比較的新しい会社です。
ただ、駅弁屋さんの団体「日本鉄道構内営業中央会」にも加盟、駅弁文化の継承にも本腰を入れている様子が伺えます。
今回の掛け紙もオリジナルのもので、懐かしい小豆色から2階建の「415系」電車まできちんと入れてくれました!
フツーはロングシートの通勤タイプの車両で「駅弁」・・・なかなか出来ないですよね。
私も空いているとき以外はやりませんが、今回は「通勤電車で大っぴらに駅弁を食べてもイイ」滅多にない機会!
参加された皆さんも、ロングシートでの「駅弁」を満喫されていました。
鮭の塩焼き、鶏の照り焼きをメインのおかずにシュウマイ、湯葉の煮物、牛蒡サラダなど安定の構成ですが・・・。
なぁんで、もう旬は終わってきている「いちご」が真ん中に???
もしかしてコレ・・・「いちごが4つ」で「415」!!!
JR東日本水戸支社によりますと、記念弁当の構成は「しまだフーズ」さんにおまかせしたとのこと。
イイです「しまだフーズ」さん! こういう遊び、大好きです。
恐らく5月の連休を過ぎると「いちご」の産地の多くは、終わってしまっている所も多いハズ。
仕入れの手間をかけても「415系」のために「1人4個」も・・・今日は「415系」電車で「4個のいちご」が食べられただけでお腹いっぱい大満足です!
JR東日本エリアの「415系」電車のラストラン「ありがとう415系」号は、定刻通り12:38に竜田駅に到着。
30分の停車の後、再びいわき駅に戻ります。
後編の模様は、また次回。
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
「ライター望月の駅弁膝栗毛」
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/