さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
東京都内にはさまざまな映画館がありますが、岩波ホールは私が好きな映画館のひとつ。
ミニシアターの草分け的な存在で、日本で初めて各回完全入れ替え制・定員制を実施。
また予告編上映の際に企業コマーシャルを流さない、予告された上映期間の途中打ち切りを行わない…といった、独自のポリシーを持った画期的なホールです。
上映される作品はどちらかというと“地味な”映画が多いですが、どれも作品性の高いものばかり。
それゆえ足繁く通う映画ファンも多く、連日満員となるほどの映画館です。
そこで今回の「しゃベルシネマ」では、岩波ホールで絶賛上映中!『めぐりあう日』を掘り起こします。
母と娘の運命的な再会を描くヒューマンドラマ
北フランスの港町、ダンケルク。
身体機能の回復をサポートする理学療法士のエリザは、自分の出生を知るために息子を連れてパリに引っ越してきた。
しかし匿名で出産した女性を守る法律に阻まれて、なかなか手がかりをつかめずにいた。そんなある日、息子の学校で働く中年女性アネットが、患者としてエリザの療法室にやって来る。
施術を繰り返すうちに、二人は不思議な親密感を覚えるようになる…。
自身の幼少期の体験をもとに描いたデビュー作『冬の小鳥』で注目された女性映画監督、ウニー・ルコントの6年ぶりの長編監督第2作。
親を知らずに育ったヒロインがまだ見ぬ母を思い、自身のルーツを探し求めるヒューマンドラマです。
ヒロインを演じるのは『君と歩く世界』『灼熱の肌』など、近年目覚しい躍進を見せる実力派女優セリーヌ・サレット。
物悲しくも凛とした眼差しは、言葉以上に観る者の心を揺り動かします。
自らの人生を見つめ「映画」という表現へと昇華していく
生みの親と暮らせない子どもを“我が子”として育てる「養子縁組」がテーマとなっている本作。
実はメガホンを取ったウニー・ルコント監督も、養子として韓国からフランスに渡った経歴の持ち主。
前作『冬の小鳥』は韓国人の孤児の少女が養子としてフランスに渡るまでを描いた、半自伝的な作品。
今作も、監督自身の体験が投影されています。
この映画が魅力的なのは、説明的な台詞を極力排除し、俳優の演技や表情、美しい映像によってストーリーを紡いだところ。
繊細な描写を積み重ねながら、まだ見ぬ母を想い真実を追い求める主人公の心の動きを丹念に映し出しています。
産み落したひとつの命を手放さなければならなかった母と、自分のアイデンティティを探す娘。
押しては引き、引いては押し寄せる波のように、二人の想いが交差する映画的表現の美しさは圧巻ですよ。
2016年7月30日より 岩波ホールほかにて全国順次ロードショー
監督:ウニー・ルコント
出演:セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノワ、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、フランソワーズ・ルブラン、エリエス・アギス ほか
©2015 – GLORIA FILMS – PICTANOVO
公式サイト http://crest-inter.co.jp/meguriauhi/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/