■憧れのバーニーズが我が家に!
「大人になったら、あの犬と暮らしたい」「広い家を持ったら、あの犬を飼いたい」‥等、犬好きならそれぞれ、1度は飼ってみたい憧れの犬種がありますよね!
埼玉県にお住いの竹入清志さんご夫妻の場合、「憧れの犬」はバーニーズ・マウンテンドッグでした。
バーニーズは、もともとスイスの山岳地方で作業運搬犬として飼われてきた犬種で、賢くて人懐っこい性格、愛らしい表情、そして美しい毛並みが魅力の大型犬。
竹入さんご夫妻は、結婚前から二人で「いつか、バーニーズを飼おうね」と話していたそうです。
その夢が叶ったのは、今から約7年半前。
すでにミニチュア・ダックスフントのマイロ(メス・現在11歳)を飼っていたご夫妻ですが、家を建て直したのを機に念願のバーニーズも家族に迎えることにしたのです。
まずは信頼できるブリーダーを探すことからスタート。
ネットで探した群馬のブリーダーまで会いに出かけ、そこで一目ぼれしたのが当時まだ生後2か月のヴィッキー(メス)でした。
「ヴィッキーはバーニーズらしい素晴らしい犬でした。優しくて穏やかで、人が大好き。ちょうど同じ時期に生まれた長男の面倒も本当によく見てくれましたね」と竹入さん。
「初めての子育てで慣れないことが多く、妻とちょっとした言い争いになることもあったのですが、そんなときに限ってヴィッキーが変なことをするんですよ。例えば、すっごく臭いおならをするとか(笑)。僕も妻も思わず吹き出してしまって、言い争いもそこでおしまい。今にして思えば、ヴィッキーは僕らに仲直りのきっかけをくれていたのかもしれません」。
■東日本大震災で実感した「犬友」の素晴らしさ
このほかにも、ヴィッキーは竹入家にたくさんのプレゼントをくれました。
中でも竹入さんが最も感謝しているのは、ヴィッキーがくれた「人の輪」です。
ヴィッキーとの日々をブログやface bookで発信したところ、みるみるうちに人の輪が広がり、ネット上での情報交換はもちろん、オフ会や大型犬とその飼い主だけが集まるキャンプなどで楽しい時間を過ごせるようになったそうです。
「本当に不思議ですが、『犬が好き』という共通項があるだけで、年齢や性別、職業などに関係なく、心を開き合うことができるんですよね」と竹入さん。
2011年の東日本大震災のときには、中国地方に住む犬友が「原発事故が落ち着くまでうちにおいで」と声を掛けてくれ、一家で身を寄せさせてもらったこともあるそうです。
「その方とはネット上の交流だけで実際に会ったことはありませんでした。なのにあんなに親身になってくださって…。改めて人と人を結びつける犬の力のすごさを実感しました」。
こうして竹入さん一家とヴィッキー、そしてマイロの生活は楽しく、穏やかに過ぎていきました。
でも、ヴィッキーが7歳を過ぎたころ、その楽しい生活に陰りが…。
あんなに元気いっぱいだったヴィッキーが、不治の病に侵されてしまったのです。
■お月さまになったヴィッキー
ヴィッキーに現れた最初の異変は食欲不振でした。
ただし、最初のころはヴィッキーも普段通り元気に見えたため、「一時的なものだろう」と思っていたという竹入さん。
しかしヴィッキーの様子を実際に見てくれたブリーダーさんから「尿の匂いがおかしい。できるなら病院に連れて行った方がいい」と言われ、半信半疑で動物病院につれて行くことにしたそうです。
検査の結果、竹入さんに告げられたヴィッキーの病名は「悪性リンパ腫」。
既に末期で有効な治療法はなく、余命は数か月…という厳しい宣告でした。
「飼い主としてどうすればいいのか、悩み抜きました。治る見込みはなくとも延命治療をするか、それとも残りの日々をヴィッキーの好きなように過ごさせてやるのがいいのか…。妻と話し合って出した結論は後者。好きなものを食べさせて、ゆっくりと家で天寿を全うしてほしいと思ったのです」。
そしてヴィッキーの自宅での療養生活が始まりました。
痛み止めのステロイドを投与するほかは治療もせず、好きなものを食べさせ、できる限り家族一緒に過ごす時間を増やしたそうです。
そして余命宣告から約1か月半後の2016年2月24日夜、ヴィッキーは竹入さん夫妻に見守られるなか、7歳半の一生を全うしました。
「翌朝、目を覚ました6歳の息子に『ヴィッキー?どこ?どこ?ヴィッキー!』と聞かれたのが本当につらかったですね」と竹入さん。
まだ死を理解できない息子さんに「ヴィッキーはお月様に行ったんだ。お月様になったんだよ」と苦し紛れの説明をしたそうです。
「でもヴィッキーが死んでしばらくの間、息子はふとした瞬間に『ヴィッキーがいるよ』『ヴィッキーがこっちにいるよ』と言うことがよくありました。
もしかしたらヴィッキーは息子を案じて見守りに来てくれていたのかもしれませんね。
ヴィッキーと息子は本当に仲良しでしたから…」。
■ジーニーと運命の出会い
最愛のヴィッキーを亡くして、しばらくの間、心にぽっかりと穴が開いたような日々を過ごしていた竹入さん。すると、そんな竹入さんを励まそうと、京都にいる有名なブリーダーMさんがイベントに誘ってくれたのです。そこで竹入さんはMさんのご自宅で生まれたばかりの子犬たちに出会いました。どれも素晴らしい子犬たちでしたが、その中に際立って大きく、愛くるしい瞳をした1頭が。
「ヴィッキーを亡くしたショックからまだ立ち直れていない状況だったので、次の犬を飼うつもりなんて全くありませんでした」という竹入さん。
「でも帰宅してからもずっと、その子犬のことが頭から離れなくて…(笑)。妻と話し合って、ヴィッキーの49日が終わってからその子を迎えることに決めました。これが我が家の2代目のバーニーズとなったジーニー(メス・現在7か月)です。後になって聞くとジーニーはヴィッキーの亡くなった日の前々日に生まれたということ。ジーニーはヴィッキーの生まれ変わりなのかな…なんて思っています」。
こうして竹入家にやってきたジーニーは、ヴィッキー以上に天真爛漫で明るい性格。
すぐに家族になじみ、最近はヴィッキーと同じように竹入さんのお子さんの良き遊び相手にもなってくれているそうです。
「以前、何もないところを見て『ヴィッキーがいる』と言っていた息子ですが、最近は言わなくなりました。もしかしたらヴィッキーはジーニーと息子の様子を見て『もう大丈夫』と安心して、天国に行ったのかもしれません」。
他にも、ジーニーとヴィッキーには共通点がいくつも。
「ヴィッキーもそうでしたが、僕が仕事から帰ってくると普段は大喜びのハイテンションで迎えてくれるのですが、心身ともにへとへとに疲れ果てて帰った日は不思議なことに静かに迎えてくれるんです。そして僕にピタッと体をくっつけて一緒にいてくれるんですよ。これもヴィッキーがジーニーに教えてくれたのかな…」。
そんなジーニーも生後7か月を過ぎて必要な予防接種も終わり、そろそろドッグラン・デビューが可能な年ごろです。
かつてヴィッキーと仲良く遊んだ犬たちの飼い主も「ジーニーに会えるのが楽しみ」と言ってくれているそう。
「ヴィッキーがたくさんの人や犬との縁を繋いでくれたように、きっとジーニーも私たちにたくさんの縁をもたらしてくれると思います。ジーニーと一緒にどんな人と出会い、どんな経験ができるのか、今からとても楽しみです。人も犬も命は有限ですが、与えられた日々を家族みんなで精いっぱい豊かに有意義に過ごしていきたいと思っています」。