障害を負った保護犬・ひばりちゃんとの運命の出会い
今から約4年前の2012年秋。動物愛護団体Wonderful Dogsの保護犬譲渡会でひときわ人気を集める小さな柴犬の子犬がいました。
子犬の名前はひばりちゃん。ひばりちゃんは、当時生後2カ月くらい。ブリーダーから放棄され、処分寸前だったところをレスキューされた保護犬でした。
真っ黒なつぶらな瞳が愛らしいひばりちゃんは、まるでぬいぐるみのようなかわいらしさ!譲渡会に訪れた人はみんな「わあ!かわいい!」「この子を連れて帰りたい!」と口々に言っては、ひばりちゃんを抱っこするのですが、誰もひばりちゃんを引き取ろうとはしませんでした。
なぜなら、ひばりちゃんには先天性の重い障害があったからです。
両前足が生まれつき内側に曲がっているため、当時のひばりちゃんは歩くことができず、ほふく前進のような形で這いまわっていたのです。「治療法はないので、大きくなって外を散歩させるには車いすが必要。なんらかの治療も必要になるかもしれない」と聞くと、みんな「残念だけど、うちでは無理…」と飼うのを諦めてしまうのでした。
しかし里親を探し始めてから数週間経ったある日、ひばりちゃんの運命を大きく変える出来事がありました!
Wonderful Dogs代表の岩渕友紀さんがひばりちゃんのことを、同じく犬のレスキュー活動をしている鳥居礼子さんに相談したのです。
「もちろんすぐにでも家に引き取ってあげたいと思いました。でも、うちにはすでにセントバーナードのような大型犬をはじめ複数の犬がいたので、車いすの犬を飼う自信がなく、迷ってしまいました。そしたら、横で聞いていた主人が『誰も引き取る人がいないのなら、ひばりちゃん、うちに来たらいいよ』って、ごく当たり前のことのように言ってくれたんです。その言葉に背中を押されるようにして、ひばりに会いに行き、うちの家族として迎えることを決意しました」と鳥居さん。
こうしてひばりちゃんは、中野区にある鳥居さんの自宅にやってきたのです。
■4年間で7回もの手術に耐えたひばりちゃん
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最初の検査を受けるひばりちゃん。まだ小さいですね。
ひばりちゃんと一緒に暮らし始めた鳥居さんは、あらためてひばりちゃんの様子を観察し、「車いすに頼る生活はさせたくない」と思いました。
「もし障害があるのが後足であれば車いすでも大丈夫だと思います。でもひばりの場合は前足に車いすをつけなくてはいけません。前に車いすがあると、まっすぐには進めるかもしれませんが、角を曲がったり方向転換をしたりするのがとても難しい。長い目で見たら、車いすではなく自力歩行ができたほうがいいと思ったのです」。
そこで鳥居さんは情報収集を開始。紆余曲折の末、ひばりちゃんは渋谷区にある日本動物医療センターで手術を受けられることになりました!
手術は、まずひばりちゃんの前足の骨を曲がったところで切り離し、別の部位から移植した骨を繋ぎ、幹細胞によって骨を再生させることによって、前足をまっすぐ長くするという大がかりなもの。骨の再生具合を見ながら、少しずつ治療していく必要があるため、手術は1回では終わりません。ひばりちゃんはこの4年間でなんと7回もの手術に耐え、少しずつ少しずつ、でも着実に前に進んできたのです。
手術後は検査などのため数日間入院することになりますが、鳥居さんは、その間毎日、ひばりちゃんのために手作りのごはんを持参するなどして、献身的に看病を続けています。

お世話になっている獣医さんと。とっても仲良しだよ!
「1回の手術で伸びるのは、ほんの1~2cm。でも手術前に比べると8cm以上足が長くなって、今では少しの距離なら自分で歩けるようになりましたし、お気に入りのソファに上り下りできるようになりました。子犬の頃に『治療法はない』といわれていたひばりの足が、ここまで回復するなんて、本当に感無量です。熱心に治療に取り組んでくださる担当の獣医師の先生をはじめ日本動物医療センターのスタッフの皆さんには心から感謝しています」と鳥居さん。
メスを使う手術だけに当然痛みも伴うはずですが、獣医師やスタッフの皆さんに可愛がってもらえるのが嬉しいからか、ひばりちゃんは病院が大好き。いやがるそぶりを見せたことはないそうです。
また、1回あたり約75万円かかる手術代は本来全額が鳥居さんの自己負担ですが、病院側の好意で、その一部を病院が負担してくれています。
「障害があるためにブリーダーのところで処分される運命にあったひばりが、こうしてたくさんの皆さんに可愛がっていただいていることが、夢のように思えます。その意味でひばりはとても運の良い子ですよね」。
■残りの人生を犬たちの幸せのために使いたい
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入院中、面会に来た鳥居さんと。
こうしてひばりちゃんの治療や日常のケアに取り組むだけでなく、家では先住犬4頭と暮らし、同時に飼養放棄されたセントバーナード犬のレスキュー・保護・里親探しの活動にも取り組んでいる鳥居さん。ここまで犬のために尽力する理由はどこにあるのでしょうか。
実は鳥居さんは数年前、乳がんを患いました。乳房切除の大手術を受けて、一命は取り留めましたが、がんの転移・再発の可能性は否定できない状況が続いています。
「私は本来、もう死んでいてもおかしくない人間。今は、神様が私に与えてくださった『おまけ』の期間だと思っています。じゃあ、なんで私は生かされているんだろう?何か役割があるはずだけど、私に何ができるんだろう?って考えて、みつけた答えが『犬たちの幸せのためにできることをする』ということでした。私はこれまで長い間犬と一緒に暮らしてきて、犬たちにたくさんの幸せをもらってきたのだから、今度は私ができるかぎり犬たちを幸せにしてあげようって決めたんです」。
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一緒に暮らしているセントバーナードの永久(とわ)と。
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装具の採寸をしてもらうすみれちゃん
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WonderfulDogsの岩渕さん(右)に会いに行ったよ!
子どもたちが巣立った鳥居家は今、鳥居さんとご主人の2人暮らしですが、ひばりちゃんたち5頭の愛犬がいるおかげで、とても賑やか!
「ひばりの通院や他の犬たちのお散歩、そしてレスキュー活動に…と、毎日が大忙し。でも、とても充実しています。私が病気を抱えているわりに元気にやっているのも、犬たちのおかげかもしれませんね」と目を細める鳥居さん。
ひばりちゃんの足の手術は、あと1~2回は必要とされていますが、今のところ経過は順調。上手くいけば、他の犬たちと一緒にお散歩や旅行に出かけるのも夢ではありません。
「ひばりの足は、これまでひばりのために力を貸してくださった、みなさんの愛情がつまった足。その足で一歩一歩前に進むひばりの姿を、たくさんの人に見てもらいたいと願っています」。
https://youtu.be/9ZOWb_jJpuI