番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今日は、ぜひ読んでほしい本に、あえてカバーを付け、タイトルを隠して販売。
大勢の読者を獲得に成功した、ある書店員さんのグッとストーリーです。
「申し訳ありません。僕はこの本を、どう勧めたらいいのか分かりませんでした。どうやったら『面白い』『魅力的だ』と思ってもらえるのか、思い付きませんでした。だからこうして、タイトルを隠して売ることに決めました…」
そんな推薦文が、手書きの文字で書かれたカバーが付けられ、タイトルを隠したまま販売されている文庫本が、今ひそかに話題になっています。その名も「文庫X(エックス)」。
推薦文に書いてある情報によると、この文庫本は「500ページを超えるノンフィクション」で、価格は「税込810円」。あとは著者の名前も、出版社も、すべて秘密。本はビニールで包装されているので、この本の正体が知りたければ、実際に買って読んでみる以外にありません。
「文庫X」のアイデアを思い付き、推薦文を書いたのは、JR盛岡駅の駅ビルにある「さわや書店・フェザン店」の店員、長江貴士(ながえ・たかし))さん・33歳。
書店員歴は10年以上、大学生の頃から熱心に本を読むようになったという長江さんは、去年まで神奈川の書店に勤務していましたが、本への情熱を買われ、スカウトされる形で、盛岡に本拠を置く老舗・さわや書店に入社。盛岡には何のゆかりもありませんでしたが、さわや書店が遊び心にあふれた、店員発の企画を積極的に打ち出し、本が好きな人たちの熱い支持を受けているところに惹かれました。
「とにかく自由で、何でも好きにやらせてくれるんです。限界がない書店ですね」
「文庫X」のアイデアを思い付いたのは、ある日、ノンフィクションの文庫本に出逢ったのがきっかけでした。
一見、取っつきにくそうなタイトルで、かなり分厚い本でしたが、いざ読み始めるとグイグイ引き込まれ、あっという間に読破。
「これは面白い!お勧めの本として売りたいけど、タイトルからして、ちょっと手に取りにくい本なんだよな・・・何とかして、読んでもらう方法はないかな?」
あれこれ考えた末に、思い付いたのが、表紙を隠して、カバーに手書きの推薦文を載せた「文庫X」でした。
7月21日に、文庫本コーナーの一角で販売を始め、店のツイッターやSNSで告知した以外、特に宣伝をしなかったにもかかわらず、発売から3ヵ月経った現在、3,500冊を突破するヒット作品になりました。
「そんなに売れると思っていなかったので、あまりの反響にビックリしました」と驚く長江さん。
文庫本としては高めの810円という価格を考えると、異例の売れ行きです。
「文庫X」は口コミで評判が広がり、そのうち全国の書店から「うちも同じカバーを付けて、この本を売ってもいいですか?」という問い合わせが来るようになりました。思いを分かってくれる書店には販売の許可を出し「文庫X」は全国へと広がっていったのです。
長江さんがもう一つ、驚いたことがあります。
「今回、“ネタバレ”が、ほぼなかったんですよ。」
これだけ多くの人が買っていると、中には「文庫Xの中身って、この本だよ」とSNSなどに書名を書き込む人が現れ、企画が成立しなくなるのでは?という懸念がありました。
しかし、購入して読んだ人のほとんどは、タイトルをあえて隠している意図に気付き、長江さんのこの本に対する思い入れを汲み取って、黙っていてくれました。さらに、こんなサプライズもありました。「文庫X」の著者が、さわや書店を突然訪れ、発案者の長江さんに、お礼を言いに来てくれたのです。
とはいえ、これだけ話題になると、いずれは“ネタバレ”も避けられなくなります。
そこで長江さんは、12月に「X文庫開き」というイベントを企画。書名を公開する予定ですが、盛大にはやらず、この本を買ってくれた人たちが集まって、小ぢんまりとやるつもりだとか。
長江さんはこう言います。
「『文庫X』がこれだけ反響を呼んだのは、あくまで作品の力で、自分はそのお手伝いをしただけです。これからも、いい本と、本好きの人をつないでいきたいですね」
番組情報
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