番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今日は、半導体関連会社の工場長から転職、介護タクシー事業を始め、奥さんと二人三脚で地域の福祉に貢献している男性の、グッとストーリーをご紹介します。
「すみません、ちょっと父の具合が悪くなったので、今から病院までお願いできますか?」
自力で動けない高齢者や、介護が必要な人が外出する際に、ヘルパーの資格を持った運転手がベッドから車までの移動を手伝ってくれて、目的地まで行ってくれる…それが「介護タクシー」。
車椅子やストレッチャーに乗ったまま乗車することができるので、要介護の家族を抱える人たちにとっては、とてもありがたい存在です。
「お客様の所に伺うと、必ず感謝されます。こんなにやり甲斐のある仕事はありませんよ」
そう語るのは、山口県・山陽小野田市(さんようおのだし)で「介護タクシーつばさ」を営む今村広宣(いまむら・ひろのぶ)さん・58歳。
去年の春に開業したばかりで、社員は今村さんと、妻・昌子(まさこ)さんの二人だけですが、緊急の電話にも対応し、すぐに利用者のもとへ駆け付けます。
その今村さん、元々は神奈川の自動車部品メーカーに勤務していました。真面目な仕事ぶりを買われて、37歳の時にヘッドハンティングを受け、山口県の半導体関連の会社に転職。
3人の子供を養うため、無我夢中で働き、200人以上が働く工場の工場長に昇進しました。
「その会社は、社員との会話を大切にする会社で、私も部下と常に話をしていました。すごく家族的な会社でしたね」と言う今村さん。ところが…
2008年、リーマンショックが日本経済を襲い、半導体業界も大きな打撃を受けました。大手家電メーカーからの発注も激減し、2012年、今村さんは会社からこんな通告を受けます。
「残念だが、工場を閉鎖することになった…」
200人を超す従業員は、今村さんを含め全員が解雇。
「もちろんショックでしたが、自分のことよりも、不況の中、懸命に頑張ってくれた社員たちのことを思うと、胸が張り裂けそうになりました」と言う今村さんは、部下の受け入れ先を探すため、あちこちの会社を廻りました。そんな工場長の姿を見て、社員の7割がすぐに退職せず、ギリギリまで工場に残ってくれたそうです。
本当にありがたく、また全員に就職先を世話できず、申し訳なかったと言う今村さん。
工場閉鎖後、残務処理を済ませ、今度は自分の再就職先を決めないといけません。
さて、何をしようか…と考えていたときに、妻の昌子さんがこんな提案をしました。
「あなた、介護タクシーをやってみない?こんなに感謝される仕事はないわよ」
今村さんが、工場の仕事で多忙を極めているとき、両親の介護に尽くしてくれた昌子さん。
10年前にヘルパーの資格を取り、介護タクシーの重要さをよく知っていました。
「妻には本当に苦労を掛けましたし、地元の人たちにも、いろいろ助けてもらいました。介護の仕事は未経験でしたが『これで恩返しができる。やってみよう』と思ったんです」
今村さんは猛勉強を重ね、開業に必要なヘルパー資格と、第二種運転免許を取得。タクシー事業を始めるための法令試験にも合格し、去年4月に「介護タクシーつばさ」をスタートさせました。
息子さんがパソコンで作ってくれたパンフレットを片手に施設や病院を廻る一方、よその介護タクシーから回してもらった仕事をきっちりとこなして、実績を積んでいった今村さん。
その誠実な仕事ぶりが評価され、利用件数は毎月、右肩上がりで成長。第二の人生もようやく軌道に乗りましたが、最近嬉しいことがありました。妻の昌子さんに、こう言われたそうです。
「あなた、乗務員証の顔と、今の顔、まったくの別人ね」
工場閉鎖以来、厳しい日々が続いたため、開業のとき撮った写真は、どこかこわばっていました。
ところが、利用者に毎回「ありがとう」と感謝されるうちに、いつしか笑顔が戻っていたのです。
「いつもニコニコしているあなたを見ることができて、幸せよ」
…何より嬉しい、妻の一言。
地域のため、介護タクシーを待つ利用者のため、今日も笑顔で、今村さんは車を走らせます。
番組情報
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