八木亜希子 LOVE & MELODY
番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今日は熊本からの放送ということで、熊本出身の映画監督・行定勲(ゆきさだ・いさお)さんご本人に伺った、グッとストーリーをご紹介します。
行定さんが映画監督を志すきっかけになった、運命の出逢い…その場所は「熊本城」でした。
1980年に公開された、巨匠・黒澤明監督の『影武者』。戦国武将・武田信玄と、その影武者を仲代達矢さんが一人二役で演じたこの作品は大ヒット、カンヌ映画祭でグランプリに輝きました。
ロケ地の一つに選ばれたのが、熊本城ですが、当時、撮影現場を見に行った小学生がいました。少年時代の、行定勲監督です。
「黒澤ファンの父が『黒澤監督が映画の撮影をしているから、見に行くぞ!』と、熊本城まで、私を連れて行ってくれたんです」
撮影用のライトに照らされ、宵闇の中、浮かび上がる熊本城。
撮影現場は立ち入り禁止でしたが、お父さんに「子供なら大丈夫だ、黒澤明を見てこい!」と言われた勲少年は、こっそり城内に忍び込み、ドキドキしながら撮影現場を覗き込みました。
そこで勲少年が見たものは…いくさの直後のシーン。大勢いる横で、侍たちの甲冑を、ひとつひとつ土で汚しているスタッフたち。スター俳優も、黒澤監督もそこにはいませんでしたが、映画独特の荘厳な雰囲気に、勲少年は圧倒されました。
「映画って、こうやって支える人たちがいて、作られてるんだ…」
あまりの迫力に、身動きができなくなったところをスタッフに見付かり、追い出されてしまいましたが、その後、映画館で『影武者』を観た勲少年は、偶然見たあのシーンが、本当に激しい戦いが終わった直後のように見え、歴史の一場面になっていることに感動したそうです。
「あのとき現場で感じた熱気が、間違いなく、自分の映画作りの原点になっていますね」
…そんな体験がきっかけで、映画監督になった行定さん。
それから40年近く経って、今度は自分が、熊本城を舞台に映画を撮ることになります。
熊本県菊池市で、映画好きの若者たちが集まって始まった「菊池映画祭」。おととし、10回目を記念して、熊本出身の行定監督はスーパーバイザーとして招かれました。
同じく熊本県人の人気俳優・高良健吾さんも参加。映画祭は大成功を収めますが、このとき「次は熊本が舞台の映画を、この映画祭で上映しよう」という話が持ち上がります。
もちろん、監督は行定さんで、どうせならキャストも熊本出身者で固めよう…ということに。
去年10月、高良さんの他、橋本愛さん、石田えりさんら熊本出身の俳優が集まり、オール熊本ロケの短編映画『うつくしいひと』がクランクイン。ロケ地の一つに熊本城がありました。
『うつくしいひと』予告篇 くまもと映画プロジェクト (くまもと映画製作実行委員会)
熊本城の石垣は、上に行くほど急な角度になっており、別名 “武者返し”と呼ばれています。
「この角度こそ、熊本の美しさなんです。黒澤監督も石垣のそばでロケをしていましたし自分の原点になった場所でもあるので、非常に感慨深かったですね」という行定監督。
映画は今年1月に完成、3月に菊池映画祭で先行上映され、大きな反響を呼びましたが、4月、大地震が熊本を襲い、行定監督は「このまま公開を続けてもいいんだろうか?熊本の人たちは、地震前の風景を見て、心を痛めないだろうか?」と悩んだといいます。
ところが、熊本の人たちの反応は「ぜひ観たい」。上映会場には長蛇の列ができました。
「この映画には、美しい熊本の姿が記録されています。失われてしまった風景を見て、熊本の人たちは『いつか、この姿を取り戻そう』と思っているんです」
いま、行定監督は、来年春の公開を目標に『うつくしいひと』の続編を撮ろうと考えています。
「今度は、被災した熊本の姿と、そこで生きていく人たちを撮ることで、全国に“熊本の今”をアピールしていきたいと思っています。そして未来の人たちに『熊本は、熊本人は、ここから復興したんだぞ』と伝えたいですね」
番組情報
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