トランプ次期大統領の移民政策におびえる移民たち【やじうま好奇心】

By -  公開:  更新:

今週1週間は高嶋ひでたけさんが休暇ということで、2日目のピンチヒッターパーソナリティ、ジャーナリストの増田ユリヤが『トランプ次期大統領の移民政策におびえる移民たち』と『私が10年取材を続けているフランスの移民問題』について語りました。

米各地でトランプ氏に抗議  9日、米シカゴで、米大統領選で勝利を決めた共和党のトランプ氏に抗議する人々(ロイター=共同)

米各地でトランプ氏に抗議 9日米シカゴで、米大統領選で勝利を決めた共和党のトランプ氏に抗議する人々(ロイター=共同)

私がこのところのライフワークとして取材を続けているのが、日本の人にはでは遠い話と思われがちですが、世界のあちこちで問題となっている「移民たち」です。
トランプが選挙戦当時から厳しい移民政策を取ることを明言してきたことで、実際に私がアメリカのあちこちを取材した時、移民たちはかなりおびえているのを見てきました。

特にイスラム圏からの移民。「まずは市民権を取ろう」とか「40年行ったことのないけど、今年初めて選挙に行く」といった動きがありました。

その中でも象徴的な人に出会ったのが、ニューヨークの隣、ニュージャージー州に住んでいるパキスタン人移民のショーンさん。IT会社の社長をしています。
両親はパキスタン人ですが、政情が不安定で中東クウェートに脱出、ショーンさんはクウェートで生れました。ところが1990年にクウェートにイラクが攻め込んできて、家族でパキスタンに戻りました。その後、アメリカに留学していたお兄さんを頼ってショーンさんはアメリカへ。タクシードライバーをしながら市民権を得ようとしていましたが、なかなかできなくて不法移民になってしまった。仕方なく移民に寛容なお隣のカナダへ行って市民権を得て、またアメリカへ戻ってきてやっとアメリカの市民権を得る、という二重国籍となっています。こうやってがんばってもなかなか市民権を取れない人もいるんです。
今でこそ、会社を経営していますが、ショーンさんにとってはトランプの排他的移民政策は「自分たちに差し迫った現実的な問題」だと言います。第2次世界大戦時に、ユダヤ人が強制収容所に入れられたり、アメリカの日本人が西海岸の収容所に入れられたりしたのと同じように、イスラム教の人たちが一カ所に集められて収容されることになってしまうのではないか、と本気で恐れています。
せっかく政情不安定な国を逃れてなんとかアメリカで移住して市民権を取って会社を立ち上げたのに、自由や暮しが奪われる憂き目に遭うのではないか。

ニューヨークにあるイスラム教の学校にも取材に行きました。
11月8日投票日の前日、小学校2年生の教室を訪れると、模擬投票が行われていました。
スカーフをかぶったりしている女の子たちもいるような生徒20人の教室で、本番の選挙さながら、投票箱があって、投票する紙があって、一人一人「ヒラリー」か「トランプ」か書くのです。
実際の選挙では投票が終わると「私は投票しました」というシールをもらえる仕組みですが、子供たちにもそれがもらえるような同じ仕組みとなっています。
「誰に入れたの?」と聞くとある男の子は「ヒラリー・クリントン」。「だって、トランプに入れると時代が戻っちゃうんでしょ?」。よく分かっているのです。
先生に聞きますと、トランプが出てきてから子供たちが政治にとても関心を持つようになったと言います。その理由は「トランプが大統領になるとどうなるのか?」「自分はアメリカで生まれたけど、国に返されてしまうのか?」といったことにおびえるようになったからなのです。子供たちがこうした心配をすることは日常になってしまいました。

イスラム学校の中学生になるとまたちょっと状況が違います。
トランプが問題発言をするたびに、中学生たちが先生に「きのう、こんな暴言を吐いていた」などと報告し、先生の顔色を読み取ろうとします。それによって「先生は反トランプだ」と思いたいようなところがありますが、先生はそれにリアクションすることはなく、公平であろうとしていたといいます。
イスラム教徒にとっては、トランプの移民問題発言や女性蔑視発言をどう捉えればいいのか、学校でどう教えたらいいのか、教育の現場で大きな戸惑いが広がっていました。

こうした動きを見ていて、フランスでの移民たちを思い出しました。
ちょうど1年前の11月13日、フランス・パリで同時多発テロが起き、130人が亡くなりました。トランプ大統領誕生で、“あれから1年”のニュースがかき消されているのは残念です。
テロが起こった理由の一つとして挙げられていたのが「同化政策」。
同化政策とは、「公共の場ではスカーフはしない」とか「フランス語をちゃんと話せるようになる」といったフランスになじむための政策。これがイスラム教徒への締め付けになったと言われている。これは、みんなが同じ立場に立っていかないと移民政策はうまくいかないとという考えからこの政策は生まれた。ただフランスにもアメリカにも「テロリスト=イスラム教徒=怖い」という図式が人々の心にあって、ゆえにイスラム教徒が虐げられている現状はあります。
ただフランスの中で私が希望を見たのは、あるフランスの裁判官が言った言葉。
「移民で同化できるのは6割、できないのは4割。それでも困って入国してきた目の前の子を助けるのがフランスだ」。この正義と理想の言葉を私は信じたい。でも、危機管理となると、現状はなかなか難しく、フランスのイスラム教徒の高校生が突然「アラーは偉大だ」と叫んだり、イスラム教徒の礼拝がある金曜日、わざわざイスラムの装束を着て学校に現れたり、などフランス国内でも宗教の扱いが難しいのが実情です。
「目の前の子どもを助けたい」というフランスの言葉を信じたい気持ちがある一方で、フランスもトランプのアメリカも移民の問題をどう取り扱っていくのか、これからもしっかりとみていきたいと思っています。

radiko_time_1123

11月15日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

Page top