さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回の「しゃベルシネマ」は、究極のダーク・ファンタジー映画『五日物語−3つの王国と3人の女−』を掘り起こします。
大人にしか堪能できない?! 濃厚で過激なファンタジー
むかしむかし、3つの王国が君臨する世界。
不妊に悩むロングトレリス国の女王は“母となること”を追い求め、魔法使いの教えどおり、国王の命と引き換えに得た怪物の心臓を食べて美しい男の子を出産する。
やがて成長した彼は親離れの年頃となるが、女王はそれが不満でならなかった…。人目を避けて暮らす、老婆の姉妹。好色なストロングクリフ国王にその美しい声を見初められた姉は、不思議な力で“若さと美貌”を取り戻し、妃の座に収まる。
しかし、姉に見捨てられた妹もまた若さと美貌を熱望し…。父である王とともに城で暮らすハイヒルズ国の王女は、まだ見ぬ“大人の世界への憧れ”を抱きながら、城の外に出ることを切望していた。
ある日、王が屈強で醜いオーガ<鬼>を彼女の結婚相手に決めてしまったことから、華やかな城から連れ出され、鬼の住処で暮らすことになってしまう…。
グリム兄弟などにも多大な影響を与えたという、17世紀初頭に生み出された世界最初のおとぎ話「ペンタメローネ(五日物語)」を、独創的な美的感覚で映像化した『五日物語−3つの王国と3人の女−』。
「母になること」「若さと美貌」「大人の世界への憧れ」と、異なる世代の3人の女たちが抱く醜い「女の性(さが)」をテーマに、3つの異なる物語を1編の物語として再構築しました。
この美しくも残酷な映像美を実現したのは、カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを2度受賞した鬼才、マッテオ・ガローネ監督。
彼にとって初の英語作品となる本作には、サルマ・ハエック、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズ、ジョン・C・ライリーといった国際派キャストが集結。
まるで絵画を愛でるように美しくて不気味な、唯一無二のファンタジーワールドが完成しました。
映画監督になる前は画家だったガローネ監督。
その感性を十二分に発揮して、ゴヤの版画集や古典ホラー映画からインスピレーションを得て制作した本作は、壮麗かつ幻想的。
特に時代背景の基軸となっている17世紀バロック期を彷彿させる美術や衣装は目を見張るほどの美しさで、大きなスクリーンで観ると、ドレスの立体的な布の重なりやアクセサリーの細かなデザインまで、じっくり堪能することが出来ます。
そしてその美しさは、目を背けたくなるようなグロテスクな造型にも通じるトコロがあり…。
私は個人的にホラー的表現やグロテスク描写は、どちらかと言えば得意ではない方。
本作で登場するオーガの表情やノミの造型、そして表皮がはがれた老婆が映し出されると、いつもの私なら「ひゃぁ〜(汗)」と目を背けそうになってしまうのですが、本作ではむしろその逆。
イビツなものに潜む“美”に心を奪われて、凝視してしまいました。
おとぎ話とは元来、子どもだけが楽しむものではなく、万人が楽しめる娯楽性の高いもの。
しかし本作は、ファミリーで楽しむには、あまりにも淫らで残酷で過激。
むしろ、大人にしか楽しめない娯楽映画と呼べるでしょう。
“美”の中の“醜”、それとも“醜さ”の中に潜む“美しさ”。
あなたは、どちらに惹かれますか?
五日物語−3つの王国と3人の女−
2016年11月25日からTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
監督・脚本・製作 : マッテオ・ガローネ
出演:サルマ・ハエック、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズ、ジョン・C・ライリー ほか
© 2015 ARCHIMEDE S.R.L. – LE PACTE SAS
公式サイト http://itsuka-monogatari.jp
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/