いすみ鉄道・大原発上総中野行の「急行」列車は、国吉で9分、大多喜で8分停車。
大多喜からは各駅停車に化けて、1時間あまりをかけて終点の上総中野に到着します。
私が乗った「急行1号」は28分停車し、普通列車大多喜行として折り返し。
この程よい長さの折り返し時間も、魅力の1つ。
実はこの間に、鉄道好きにはたまらない“イベント”があるんです。
上総中野は、いすみ鉄道と小湊鐡道の接続駅となっています。
特に週末の10:38~10:47までの9分間は、ファン垂涎のひと時。
大原からやってきたいすみ鉄道の国鉄形気動車が停まっている所へ、小湊鐡道のレトロなキハ200形気動車が五井からやってきて、共演してくれるんです!
架線のない山間の小駅に生まれる、たった「9分間の昭和」。
この景色を眺めるだけでも、週末に早起きした甲斐があるというもの。
しかも、東京からのアクセスが考慮されていて、それぞれ外房線の「新宿わかしお」、内房線の「新宿さざなみ1号」からの接続列車が“共演”するダイヤになっています。
いすみ鉄道のキハ28は、平成25(2013)年に、JR西日本の富山エリアからやってきました。
私が撮った昔の画像データの中から探してみると、平成22(2010)年7月に、富山駅で高山本線の越中八尾行に充当されていたものが残っていました。
この時、メインで撮っていたのは、キハ28とよく相棒を組んでいた「キハ58 1114」。
運転席の窓周りが特徴的だったので、記録に残しておいたものと思われます。
いすみ鉄道にやってきたキハ28は、恐らくこの後ろに連結されている車両ではないかと・・・。
キハ28は、国鉄時代に急行用車両として作られた車両です。
急行用の車両には、ボックス席に少し大きめのテーブルが設置されていたのが特徴。
しかも、そのテーブル1つ1つに「センヌキ」が備え付けられていて、王冠で封がされた瓶入り飲料が主流だった時代を想起させてくれます。
この設備を活かして、大多喜駅などの売店では、これまた懐かしい瓶コーラが販売されています。
ちなみに、いすみ鉄道の沿線には、その昔「笑っていいとも!」でよくコーラを飲まれていた渡辺正行さんのご実家(焼き鳥屋さん)があり、車内放送で「案内」されることもあります。
さて、そんな大多喜駅の売店を日曜日にのぞくと、横長の折詰に入った「弁当」に出会えることも。
これは大多喜駅で販売されている、日本初の本格的なベジタリアン・ビーガンの方向けの駅弁!
その名も「ベジミール弁当」(1,800円)といいます。
肉、魚は使用していないのはもちろん、乳製品や卵も使わず、調味料にも動物性脂肪などは一切含まれていないという、インバウンドの方にも視野を広げた駅弁があるんです。
調製元は大多喜町にある「蔵精(くらしょう)」で、原則日曜限定の予約制、11:00以降の受取りとなっています。
【お品書き】
房総ひじきサラダ(自然栽培人参ドレッシング)
無農薬蓮根団子 おかき揚げ
精進伊達巻
長芋胡麻クリーム
香のもの
きのこご飯(自然栽培米土鍋炊き)
煮もの(自家製醤油)
自然栽培大根、原木平茸、自家製高野豆腐、紅葉人参
地柿焼きごおり
パプリカ醤油浸し
焼き物 そぼろ味噌あん
菊芋、まこも竹、蓮根、生木耳、里芋
自然栽培牛蒡の香り揚げ
素材は、いすみ鉄道沿線で採れる季節の有機野菜や根菜類を中心に、全国の契約生産者から取り寄せた無農薬食材を使用。
古くから伝わる日本の食文化の素晴らしさを、海外からの皆さんにも伝えようと、ニューヨークで修業を積んだ大多喜在住のシェフの方が腕によりをかけて作りあげたといいます。
動物性のものを一切使っていないとは思えないくらい、鮮やかな色どり。
地野菜を中心に、素材そのものの良さを、味覚を通して感じられそうです。
この駅弁を手にしていた時、偶然、海外出身のビーガンの方にお会いすることが出来ました。
実はニッポンの駅弁には、食べられるものが少なく、移動する際の悩みなんだそう・・・。
ほぼ唯一、安心して食べられるのは、「いなり寿し」の駅弁くらいだといいます。
その中で、実はこのような駅弁があったことに、とても感激されていました。
日本人は、様々な異文化を取り入れ、自分たちなりにアレンジしていくのが得意だといわれます。
「駅弁」を日本の食文化として世界へ広めていく上では、様々な食文化も受容して、日本流にアレンジ、より幅広い地域の皆さんに受け入れられるような試みが必要になってくるかと思います。
そんな試みの先駆けともいえそうな「ベジミール弁当」。
ビーガンの方でなくても、文化を知るという意味で、一度味わう価値のある駅弁です。
国鉄形車両を観光資源として活用、鉄道文化遺産の保存にも取り組んでいる「いすみ鉄道」。
JRでは非電化区間での蓄電池電車やハイブリッドタイプの車両が増えていく中で、蒸気機関車を駆逐した気動車も、やがて1つの文化遺産へと移っていくのかもしれません。
蒸気機関車の動態保存は静岡の大井川鐵道をパイオニアに、JRを含めた各社で行われる一方、国鉄形気動車の動態保存に1つの形を作っている、いすみ鉄道の取組みは大きな意義があると思います。
今、首都圏で一番面白い鉄道「いすみ鉄道」、まだまだ注目が集まりそうです。
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/