いま、「文豪の文体模写」が、ちょいとしたブームになっている… という話をご存じでしょうか。「もしもアノ有名な小説家が、違うモノを書いたらどんな文章になるか?」というパロディ遊びです。
この「文体模写」なる遊び。
5年ほど前から「ブログ」や「2ちゃんねる」で細々と行われ始めたのですが…
TwitterをはじめとするSNSが浸透するにつれ、またたくまに、火が付き始めました。
そして、「出来がいいパロディ作品」が誕生しますと、「コレはいいネ!」ってんで、不特定多数の人々にバーッとリツイート(拡散)されるようになったんです。
さらに、Twitterが基本的に「140文字制限」であるというところも、ブームに拍車をかけました。文字数に制限があるだけに、逆に短くピシッと締まったパロディも、生まれるようになったんです。
「でも、所詮はシロウトが作ったパロディだろ?」
「どうせ、つまんないんじゃないの?」
…そう思うかもしれません。
確かに、「ネット空間から生まれた遊び」なんていうのは、大抵、くだらないものが多いですよね。
ところが…この「文豪の文体模写」は、パロディ作品として、非常によくできている!我々オジさんの鑑賞にも堪えうる、ちょいと高尚で、しかもニヤリと笑える作品が多いんです。
さっそく、「2ちゃんねる」などで発表されたちょいと長めのモノから、Twitterで発表された短いモノまで、いろんなパターンの「文体模写」を御紹介しましょう。
分かりやすいように、昔話の「桃太郎」を下敷きにしたモノを、選んでみました。
ひとつ、お馴染みの桃太郎のおはなしをアタマに思い浮かべてみてください。
■ノーベル賞候補の大常連!『ノルウェイの森』の村上春樹が桃太郎を書いたら?
「桃太郎」村上春樹
「そんなに鬼は怖いものじゃないんだよ」
彼は言った。
彼は桃太郎という名前で、つい先週、鬼が島に行き、そこで鬼退治をしてきたのだと言う。
そう…そんな波乱に満ちた人生もあるのだ。
■『坊ちゃん』の「夏目漱石」が桃太郎を書いたら?
「桃太郎」夏目漱石
桃譲りの無鉄砲で、小供の時から損ばかりしている。
小学校に居る時分、単身鬼ヶ島に殴り込みをかけて、一週間ほど入院した事がある。
なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。
別段深い理由でもない。
同級生が冗談に、一人で鬼退治はできまい。弱虫やーい。と囃したからである。
■歴史小説の大家「司馬遼太郎」が桃太郎を書いたら?
「桃太郎」 司馬遼太郎
桃、という果物がある。
黄河上流の高山地帯で生まれ、古来より大陸では不老長寿の果物として、仙人伝説と深い関わりがある果物である。
日本へは弥生時代ごろ伝わり、鎌倉時代においては、水菓子と呼ばれ、珍重された。
そんな桃が、である。
京の足利家の治世も落ち着きを見せた三代義満の時代、吉備の国(今の岡山県南部)で、子を成したというのだ。
「そんな馬鹿な」
と、子を取り上げた当の老夫婦も、狼狽したに違いない。
唐天竺ならいざ知らず、この日の本で、このような事が起きたためしなどない。
これはきっと神意に違いないと悟った老夫婦は、その子を「桃太郎」と名付け、大事に育てた。
ところが、である。
更に老夫婦を驚かす出来事が続いた。
この桃太郎、日に数寸も背が伸び、あっという間に成人してしまったのだ。
しかもついこの間まで、婆の乳房をまさぐっていたその口で、「鬼を退治に行く」と言い始めたのだ。
──(怪物か。)
爺は、違う生き物を見るような眼で、桃太郎を見た。
■じーんとくるポエムでお馴染み。「相田みつを」が桃太郎を書いたら?
「桃太郎」相田みつを
あのね
きびだんごもらっても
鬼はこわいんだなあ
逃げ出したっていいんだよ
動物だものみつを
■『蟹工船』をはじめとするプロレタリア文学の代表格。
学生運動、組合運動に大きな影響を与えた「小林多喜二」が桃太郎を書いたら?「桃太郎」小林多喜二
「諸君、その時は来た。我々は待っていた。もうやるしかないのだ」
犬が叫んだ。
「その通りだ。やっちまおう」と、猿も、勢いよく叫んだ。
しかし、それまで部屋の隅で黙っていた雉が、勢いに水をさす。
「でもだなあ。あいつは、刀を持っているじゃないか。万一斬られでもしたら、どうするんだ」
だが、犬は、自信ありげに言った。
「大丈夫だ。次の鬼との一戦は決戦だ。桃太郎の奴は、我々に構っている暇など、ないはずだ。
それにどっちにしろ、このような労働条件で働かされていては、我々はいつか命を失ってしまう」
その言葉に、猿も激しく頷いた。
「そうだそうだ、やられる前にやっちまえって話なんだ」
きび団子一つという薄給で、命のやり取りをさせられている桃太郎の部下たちは、もう限界だった。
確かに、自らきび団子をくれと言ったのは、彼ら自身だったかもしれない。
しかしその状況は、決して彼らの望んだものではなかったのだ。
今ここに、動物たちの、桃太郎への闘争が始まろうとしていた。
■イギリスの推理作家「アーサー・コナン・ドイル」が桃太郎を書いたら?
「桃太郎」コナン・ドイル
「ワトスン君、僕は行かなきやなるまいと思うよ」
ある朝、一緒に食卓についている時、ホームズが言った。
「行くってどこへ?」
「鬼ヶ島さ─―桃太郎事件だ」
べつに驚ろきもしなかった。
むしろ私は、いま、ロンドンじゅうで噂の種になっているこの事件にホームズが関係しないのを、不思議にさえ思っていた。
■『人間失格』で有名な「太宰治」が桃太郎を書いたら?
「桃太郎」太宰治
桃から生れて、すみません。
…これは、太宰治の『二十世紀旗手』という短編に出てくる、「生れて、すみません。」という有名なフレーズのパロディですね。
まぁ、こんな感じの出来のいいパロディ作品が無数に発表されるという活況を呈している「文体模写」。
今月には、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』という本も出版されて、これまた、売れに売れているそうですよ。
注)上記の文体模写パロディですが、放送上ふさわしい表現を鑑み、幾ばくかの構成を加えてあります。
6月28日(水) 高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より