エルサレム首都宣言~真の狙いはロシアゲートの目くらましとキリスト福音派の票

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12/8(金)FM93AM1242ニッポン放送『高嶋ひでたけのあさラジ!』今日の聴きどころ!③

国連安全保障理事会は8日に緊急会合開催
7:10~やじうまニュースネットワーク:コメンテーター宮家邦彦(外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹)

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トランプ米政権への抗議デモで叫ぶパレスチナ人ら=2017年12月7日、エルサレム旧市街 写真提供:共同通信社

エルサレムを首都認定を受け、中東諸国で批判や抗議デモ相次ぐ

アメリカのトランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都に認定したことを正式発表したことを受け、ティラーソン国務長官は、「国務省が、テルアビブにあるアメリカ大使館の移転に向けた作業を、直ちに始める」と表明。一方、ヨルダン川西岸の、パレスチナ自治区の各地で、7日に抗議デモが行われ、数千人が参加したと見られる。

アメリカのトランプ大統領が日本時間の昨日未明、「エルサレムをイスラエルの首都に認定する」と正式に発表したことで、中東諸国では反発が拡大し、イギリスやフランスといったアメリカの同盟国も含め、国際社会で抗議が広がっています。国連安全保障理事会は8日に緊急会合を開きます。また、東エルサレムを国家樹立の際の首都と位置づけているパレスチナは、自治政府のアッバース議長は、「和平に向けたすべての努力を台無しにした」と非難し、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区各地では、数千人のパレスチナ人が抗議デモを行い、一部で参加者が石を投げ、イスラエル軍との衝突で、およそ50人がケガをしています。

パレスチナ自治区ガザを実効支配する、イスラム原理主義組織ハマスは、「インティファーダ(反イスラエル闘争)を始めなければならない」と強調しています。さらに、中東イエメンを拠点とするアラビア半島アルカイダは、パレスチナを支援するための、武力闘争を呼びかける声明を発表しました。

トランプ大統領は、「アメリカが中東和平実現への取り組みを放棄するという意味ではない」として、「中東和平で新たなアプローチを始める」としています。アメリカの議会は、エルサレムの首都認定と、大使館移転を求める法案を、1995年に可決し、歴代大統領が先送りしてきましたが、トランプ大統領は「20年以上経っても、和平に近付いていない」と指摘し、「同じ手法を取るのは愚かだ」としました。ただ、パレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの共生を目指す、2国家共存について、トランプ大統領は「双方が望めば指示する」と言っています。

ティラーソン国務長官は、「アメリカの大使館移転には、土地の取得や建物の建設に時間がかかる。即座には完了しない」と述べています。

一方、日本政府の言動は歯切れの悪い印象です。昨日の菅官房長官の記者会見です。

菅官房長官)我が国として、本件を巡る動向について、大きな関心を持って注視しており、イスラエル・パレスチナ間の紛争の、当事者間の交渉により解決されるべきである。その立場であります。

ある外務省幹部は、「中東は非常に複雑だ。安易なコメントはしない方がいい」と指摘する人もいます。トランプ政権では、外交経験のないユダヤ教徒の、クシュナー上級顧問が、中東政策を主導しているとされていますが、今回の首都認定については、ティラーソン国務長官や、マティス国防長官は反対したとされています。

トランプはこれまで積み上げて来た不安定な基盤を壊してしまった

高嶋)いままでのトランプさんの、「オバマさんのしたことを全部ひっくり返す」とか。その流れで同じように考えると、「ああ、これもそうなのね」と判断できなくもないですが、今回のこのひっくり返しは、いままでとぜんぜん意味が違う。

宮家)やはり、規模が違うと思います。そもそも、50年前の1967年に、第3次中東戦争というのがありました。エルサレムは、西側をイスラエルが持っていたけれど、そのときに戦争をやって、東側も取ってしまった。占領しているのです。そして、「国連決議242号」ができて、それ以降、基本的に最終的な帰属はまだ決まっていない。占領中ということですね。
それを前提にして、今度はパレスチナの自治をやろうとか、2国を作ってやろうとか、いろいろ交渉はしてきたけれど、その大前提が、「東エルサレムを含み、エルサレムの地位はまだ未解決です」としてきたわけです。
ところが今回、トランプさんは「これは現実なのだから、それを認定しただけ」と言うけれど、それはつまり「イスラエルの、東エルサレムの占領を認める」ということなのですよ。それはパレスチナからしても、アラブからしても、ムスリムにしても、そして我々にしても、「え、ちょっと違うでしょう!?」ということですよ。

高嶋)世界の常識というか、日本風に言えば「触らぬ神に祟りなし」ですね。「不安定ではあるけれど、現状維持をしていることが、エルサレムの平和を保つ、根本的な要因になっている」と。そこに手を突っ込んでしまった。

宮家)交渉で最後に議論すべきところを、交渉する途中にイスラエルの言い分を認めてしまったような形になれば、いままでずっと積み上げてきたものが壊れていく、ということなのですよ。

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米ホワイトハウスでエルサレムをイスラエルの首都と認定すると発表したトランプ大統領=2017年12月6日 写真提供:共同通信社

狙いはロシアゲートの目くらましと、キリスト右派の3,000万の票確保

高嶋)1995年の議会が、そのエルサレムを首都とする、というような。それで、毎年、その時代の大統領が先延ばしにして。それがいちばん平和だったわけですが、この辺との整合性はどうですか? トランプさんは「過去の奴はできなかった」みたいなことを言っていますが。

宮家)おそらく彼は、いままで誰もやったことのないことをやりたかったのかもしれない。それは間違いなくやっています。だけど、やり方がまず問題。それから、先ほどの話にあったとおり、やはり実務をやっている人たちは、「これは大変なことだ」と分かっているから、反対したのでしょう。にもかかわらず、大統領は「やる」と決めた。それは何故か? 答えは非常に簡単で、彼の個人的な野心。「誰もやったことのないことをして、歴史に名を残したい」というのもあるかもしれない。
もう1つ大事なことは、やはり内政です。トランプさんはいま、ロシアゲートでいろいろな捜査が進んでいるから、尻に火が付いているかもしれない。そういうときに、あの人は“目くらまし”をやるのですよ。今回は、まさにこれじゃないかと思っています。何故、こういうことをするのか。よく「ユダヤ系アメリカ人のことを念頭に置いているのだろう」と言う人がいますが、僕は違うと思います。
これは、実は、相手はキリスト教徒なのです。キリスト教の右派に、福音派(エヴァンジェリカル)というのがいるのですが、福音派の1部の人が何を言っているかというと、簡単に言うと、「アブラハムとの契約で、神がエルサレムをイスラエルに与えた」と。だから、「イスラエルが支配して当然」という形の、キリスト教徒の、親イスラエル派がいるのですよ。その人たちの、福音派の票が、3,000万と言われているのです。それを、昔は共和党のブッシュさんとかも、票を取ろうと思ったのですが……ある意味で、トランプさんにとっては、それはもう彼らは熱烈な支持者ですから。そういう意味では、国内的な利益や、思惑が、国際的、あるいは外交的な国益よりも優先してしまった。

高嶋)ロシア問題の目くらまし、そして自分の支持者発掘と固定化。一石二鳥ですね。

宮家)そうです。そのかわり、外交的には無茶苦茶。これでいいのか。

直接は無関係の中東各国にまで被害が飛び火し、不安定化する危険が想定される

高嶋)それで、今日の新聞にもさっそく「パレスチナ、数千人デモ。イスラエル軍発砲」とか、そういう記事が出ていまして。

宮家)まだゴム弾ですけどね。

高嶋)これから先というのは、相当危険な状態に陥っていくのですか?

宮家)そうですね。テロリストの肩を持つわけではないですが、これは彼らは黙っていないでしょうね。危険はどちらも高まると思います。
問題は、どれだけ封じ込めるか。そして、最小限にしなければいけないでしょうが、悪影響は避けられないでしょうね。

高嶋)ある意味で、トランプ大統領は四面楚歌になるわけですよね。

宮家)そうですね。孤立しますよ。

高嶋)イスラエルのネタニヤフさん以外、誰もオーケーしていませんからね。

宮家)ということは、いくらイスラエルがよくても、こんな状態で和平交渉が進展するわけがない。
もう1つ大事なのは、これは単に暴動や抗議運動が起きるだけでなく、いままで穏健派の某アラブ諸国。アメリカとけっこう仲良くしていて、それでトランプさんと話をしていた人が、民衆からすれば「トランプさん、あんなことやってるじゃないか! あんたら、一緒にツルんだだろ!」となる。こうして、国内的に各国の穏健派の主導者たちが、もしかしたら窮地に陥るかもしれない。その2重の意味で、中東の不安定化に拍車をかける可能性があるので、私はそれを非常に恐れています。

高嶋)クシュナーさんとか、ホワイトハウス内部の身内はとにかく、他の、周り人は全部反対しているのですよね。だけど、あの性格だから、やってしまった。

宮家)大統領が決めたら、そうせざるを得ないでしょう……

ティラーソン 河野

政治 河野太郎外相がティラーソン米国務長官と夕食会談 ティラーソン米国務長官を迎える河野太郎外相(右)=2017年11月5日午後、東京都港区 写真提供:産経新聞社

この事態に収拾を付けるために、国務省がサボタージュする可能性すらある

高嶋)それで、どう収拾をつけようとしているのですか? いわゆる常識派というか、普通に物事を判断できる人は……

宮家)いずれにしても、もう害は生じてしまっている。英語では「the damage is done(もう手遅れ)」と言います。ダメージができてしまった以上、もうそれを最小化するしかない。ティラーソンさんはずっと反対していたのかもしれない。だから、「アホ」と言ったのでしょう。恐らく、いまはどうやって移転するのかをいろいろ議論するわけです。だけど、時間がかかる。捜査すればするほど、「これはヤバい」となる。そうなれば、お蔵入り。あるいは「動かさない」と、抵抗するしかないですかね……

高嶋)言いたいだけ言わせておいて、実際の行動は……

宮家)実際に大使館が移動したら大変ですよ。そこに自爆テロとかあり得るので。その意味では、サボタージュを、国務省がするかもしれない。

高嶋)そういうブレーキがかかると。

宮家)かけなければ、大変なことになりますよ。

高嶋)3,000万取ったからって、来年の中間選挙に勝てるとは限らないですからね……

高嶋ひでたけのあさラジ!
FM93AM1242ニッポン放送 月~金 6:00~8:00

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