文庫『蒼茫の海』に学ぶアジア外交の心得とは?
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3月27日 FM93AM1242ニッポン放送『高嶋ひでたけのあさラジ!』今日の聴きどころ!①
日本が失いつつある“敵を敬う気持ち”
6:31~ニュースやじうま総研!ズバリ言わせて!:コメンテーター富坂聰(ジャーナリスト・拓殖大学教授)
『蒼茫の海』に描かれたもう一つのストーリー、黄海海戦
ジャーナリストの富坂聰が元日本海軍軍人で作家の豊田穣・著『蒼茫の海』を紹介する。本作に記された史実には、今の日本に失われつつある外交での心得があると言う。
高嶋)中国は富坂さんの仕事の中心となる国です。そこで紹介したい本があるということですが。
富坂)アジアの人たちと、どのように付き合っていくか、ということの参考になるのではないかと思いますので。豊田穣さんが書いた『蒼茫の海』という本です。
高嶋)『蒼茫の海』。
富坂)ええ。ワシントン海軍軍縮会議という、日本の海軍力を抑えつけられたとされている会議があります。
5:5:3という、主力艦の保有台数の比率を米5、英5、日3とするというものです。米英よりも下だったのですが、実はこれは日本にとっては、有利な条件のものだったのです。
日本を抑えつけるための会議ではなくて、案外、日本にとっては良い条件だったのにそれが日本国内ではダメだと、メディアが煽ったりしたのですね。日本を抑えつけるための会議だということでワーッと反対が大きくなった。高嶋)世論がそれで固まっちゃった。
黄海海戦での日本海軍が行った敵を敬う態度とは?
富坂)沸騰したという話なのですが、その中の傍流にある話で、黄海海戦という、日本海軍が李鴻章の軍隊を敗って、その残党を処理する戦いが描かれています。
日本軍は伊東司令長官、清国には丁汝昌というトップがいるわけです。向こうは援助をもらえない状態で戦っていて、日本は勝った。そのときに向こうが負けると分かったときに、部下だけは許してくれという話になるわけです。そのときに将としてその最期を見届けるわけですが、日本からはその人が自決するときに、ワインとかシャンパンとか花束を送っているのですよ。高嶋)それは誰がですか?
富坂)こちらの伊東司令ですね。それで向こうがどうもありがとうということで亡くなっていきます。ところが亡くなった亡骸を運ぶ船が無いということで、全て取り上げる予定だったのに、わざわざ丁汝昌の遺体を運ぶためだけに立派な船を1つ残してあげたということです。
高嶋)戦中の美談ですね。
日本が失いつつある「他国への尊敬」
富坂)つまり私は、韓国であるとか中国であるとか、そういうところと対立しなきゃいけない、利害対立が起こるので、必ず戦いは起きますよ。競争しているわけですからね。でも、相手に対して一定の尊敬とかそういう気持ちを持って、それができるかどうかということですね。これで人間としてのレベルが決まります。
人間は生きていく上で、人とぶつかったり、競争してくことは避けられない。それが国と国とでは尚更そうなのですけれども。そこに一定の、相手に対する尊敬を持っていくということを、昔の日本人にはあったのです。たとえ開戦している相手でも、「俺は死んでいくから、部下を助けてくれ」という人間に対しては尊敬の気持ちを出して、ワインとかシャンパンをあの当時送っていたというのが非常に面白い。丁汝昌のほうもそれに応えて見事に亡くなっていきます。そういう戦う相手であっても、お互いの国同士の、尊厳を持つということを忘れてほしくないな、と思いますね。高嶋)日本だと侍の魂みたいな、そんなような感じもしますが。そういうのが失われつつあるということですか。心配であると。
富坂)本当にそう思います。私は心配しています。
高嶋ひでたけのあさラジ!
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