番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

熊本を突然襲ったあの大地震から2年。きょうは、おじいさんから会社を受け継ぎ、故郷の復興に奔走する二代目ガラス職人さんの、グッとストーリーです。

現在の「池田硝子店」の様子

ちょうど2年前のきょう・4月14日の夜9時過ぎに、熊本地方を突然襲った、震度7の大きな地震。熊本市東区にある「池田硝子（ガラス）店」では、工場内に立てかけてあった板ガラス100枚の大半が倒れて粉々に砕け、ガラスのかけらが散乱する悲惨な状況になりました。「夜中まで片付けに追われて、その日は女房と一緒に、工場の二階で寝たんです」と語るのは、現在社長を務める、土山幸治（つちやま・こうじ）さん・37歳です。

こちらが今回の主人公　土山幸治さん

ところが、揺れはこれで収まりませんでした。4月16日、土山さん夫妻が寝静まった深夜1時過ぎに、再び震度7の「本震」が襲ったのです。「その場にうずくまるだけで、どうすることもできず、一瞬、死を覚悟しました」という土山さん。幸い工場の建物は無事でしたが、残っていたガラスもすべて割れ、事務所も作業場も物が散乱。さすがに、心が折れそうになったそうです。皮肉なことに、翌日から会社の電話は鳴りっぱなし。ガラスが割れてしまった家や店舗からの注文が殺到しましたが、肝心のガラスは割れ、問屋さんも同様の被害を受けたため、仕入れもできません。土山さんは「すみません…」と頭を下げて、注文を断るしかありませんでした。

さらに当時、土山さんが住んでいたのは、特に被害の大きかった益城町（ましきまち）のアパートで、とても住める状態になく、しばらく湧き水をくんで、車の中で暮らす生活を余儀なくされたのです。再びガラスの仕入れができるようになると、今度は朝から晩まで取り付け工事に追われ、一日も休めない状況が続きました。家が全壊した同級生や、近所の人たちのことが心配で心配で、何かしてあげたいのに、目の前の仕事に追われ、地元のために何もできていない……「『俺はいったい、なんばしよっとか？』と、自分が情けなかったですね」

「池田硝子店」を経営していた母方のおじいさん

高校卒業後、母方のおじいさんが経営する「池田硝子店」に入社した土山さん。おじいさんは将来跡を継がせるつもりで、孫の土山さんを、福岡のガラス会社に7年間、修業に出しました。そこで妻の豊子（とよこ）さんと出逢った土山さんは、熊本へ戻った際に結婚。家庭を持ち、おじいさんから会社経営も任されるようになって、さあこれから、というときに地震が襲ったのです。

「はじめは『なんでこんな時に…』と思いましたが、『この試練には、何か意味があるのかもしれない。地震なんかに負けてたまるか！』……そう思うようになりました」

作業中の土山さん　真剣な眼差しです

去年の10月、地震による避難生活もこたえたのか、病気療養中だったおじいさんが亡くなり、二代目社長となった土山さん。

「それまでは、平凡に過ごしていければいいと思っていましたが、地震のあとは、地域にも社会にも貢献したい、という思いが強くなりました」

かつては、どこか他人行儀でクールな性格だったという土山さんですが、地震をきっかけに、自分の思いを前面に出し、人としっかり向き合うようになったといいます。

「被災した同級生を見舞ったときに、『お前、そんなに心配してくれるのか？』って驚かれました（笑）」

自分の思いを前面に出し、人としっかり向き合うように……

仕事の上でも、お客さんの気持ちに寄り添った、より丁寧な仕事を心掛けるようになった土山さん。他のガラス店が敬遠する面倒な仕事も「お客さんが望むなら」と進んで引き受け、細かい部分も手を抜かず、完璧に仕上げます。

「おたくに頼んでよかったよ。また次も頼むね！」……お客さんから、そんな嬉しいことを言われるようになりました。さらに新規事業として、ガラス素材を使った創作家具も製作。新しい顧客も、どんどん増えています。こんなに頑張るのも、熊本の街を活性化し、もう一度、みんなの笑顔を見たいから。土山さんは言います。

「益城町は、壊れた家の解体も進みましたが、まだまだ更地が目立ちます。人がいないと、街灯もつかないので、夜は街全体が真っ暗になるんですよ。でもスーパーやお店ができたり、活気は少しずつ、戻ってきています。まだ復興は道半ばですが、熊本のためにこれからも頑張っけん、見とってください！」

熊本のためにこれからも頑張っけん、見とってください！

【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY　2018年4月14日（土）　より