番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、都内に去年、期間限定でオープンした「料理を運んでくるスタッフが、時々注文を間違える」という不思議なレストランをめぐる、グッとストーリーです。
去年の9月中旬、東京・六本木に3日間限定で、不思議なレストランがオープンしました。お店の名前は…「注文をまちがえる料理店」。お客さんが怒って帰りそうなネーミングですが、なぜかテーブルはどこも笑顔。「ええと、こちら、このメニューでよかったんでしたっけ?」……そんなふうに、スタッフが頼んだのとは違うメニューを持ってきても、お客さんはクレームを付けるどころか、逆にニコニコしています。……実はこのレストラン、注文を取って、料理を運ぶホールスタッフは全員、認知症を抱える人たちなんです。
このユニークなお店を発案したのは、小国士朗(おぐに・しろう)さん・38歳。テレビ局のディレクターとして、認知症の人たちが入居する、あるグループホームを取材したことがきっかけでした。その施設は「認知症になっても、最期まで自分らしく生きる姿を支える」という介護方針で運営されており、入居者が適切なサポートを受けながら、炊事や洗濯を自分の力でこなし、普通に暮らす姿を見て、小国さんは衝撃を受けました。
取材中、入居者から料理を振る舞われた小国さん。ところが「ハンバーグを作る」と言っていたのに、出てきたのは「餃子」でした。一瞬「あれ?」と思いましたが、そこで間違いを指摘すると、その人が萎縮して「普通の生活」が崩れてしまう気がして、グッと思いとどまりました。そのときふと浮かんだのが「注文をまちがえる料理店」のアイデアです。
「ハンバーグが餃子になったって、おいしければ別に困りませんよね。『間違えちゃったけど、ま、いいか』と周りがほんのちょっと寛容になるだけで、認知症であっても、普通の暮らしが続けられるかもしれないということを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思ったんです」
さっそく、実現に向けて動き始めた小国さん。広告代理店に勤める知人や、飲食業界のプロも巻き込んで、去年の6月、試験的にプレオープンを実施。そして「世界アルツハイマーデー」のある9月に、六本木のビストロを3日間借りて「注文をまちがえる料理店」がオープンしたのです。
場所代や、運営にかかる費用は、ネット上で広く資金を集める、クラウドファンディングで調達。料理を運ぶホールスタッフは、小国さんが取材したグループホームの入居者を中心に、44歳から90歳までの、認知症を抱える20人が担当しました。料理はプロのシェフが作り、会計など絶対に間違えてはいけない部分は、健常者のスタッフが対応。介護士さんもお店に待機するなど、万全のサポート体制を敷いた上で、料理を運び、メニューについてお客さんに説明するところは、認知症のスタッフが、自分の力で行います。
「この料理の召し上がり方はですね……あれ? どうするんだったかな?」
そんな光景があちこちで見られましたが、お客さんはむしろ楽しそう。ホールスタッフのエプロンには「てへっ」と笑って舌を出す口が、デザインされており、そんな「ま、いいか!」の精神のもと、3日間で300人近いお客さんがお店を訪れました。お客さんのほとんどは、趣旨に賛同してクラウドファンディングに応募してくれた人たちなので、「間違いも楽しみのひとつ」と、温かい目で認知症のホールスタッフを見守り、楽しそうに会話を交わしていました。
小国さんが特に印象に残っているのは、昭和2年生まれ、最高齢・90歳の女性スタッフです。その人は、かつて高級料亭のおかみさんでしたが、「私にできるかしら」とドキドキしながらお店へ。そのとき、料理を運んだテーブルのお客さんが、こう言ってくれました。
「90歳なんですか! うちの母と同じです。いま母は元気がないので、あなたが元気に働く姿を見せてあげたいです。写真を撮らせてもらっても、いいですか?」
その90歳のスタッフは、1ヵ月後に亡くなりましたが、「認知症でもうダメかと思っていたけれど、自分はまだまだできる、自信がついたわ」と、生前、家族に嬉しそうに語っていたそうです。
小国さんは言います。「認知症を抱える方も、そうでない方も、一緒に楽しく笑いあう。そんな場所がもっと当たり前になるように、これからも全国に拡げていきたいですね」
小国さんの活動内容について、詳しくはあさ出版『注文をまちがえる料理店』にまとめられています。
特設サイトはこちら
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2018年3月17日(土) より
番組情報
あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
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