【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第417回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、5月25日に公開されたばかりの『ゲティ家の身代金』を掘り起こします。
孫が誘拐されたのに身代金の支払いは断固拒否!? 実話を元にしたサスペンスフルな人間ドラマ
世界一の大富豪であり石油王のジャン・ポール・ゲティの17歳の孫、ポールが誘拐された。母親ゲイルの元には、誘拐犯から1,700万ドルという巨額の身代金を要求する電話がかかってくる。ゲイルは夫との離婚によりゲティ一族とは距離を置いていたが、息子の命を助けてほしいとゲティに懇願。しかし希代の富豪であると同時に守銭奴としても知られていた彼は、身代金の支払いを拒否する。ゲイルは息子を救うために、誘拐犯だけでなく孫を助けようとしない義父の大富豪とも対立していく…。
1973年に起こったアメリカの大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐されたという実在の事件をベースに脚色したサスペンスドラマ『ゲティ家の身代金』。メガホンを取ったのは、『オデッセイ』『グラディエーター』など数々の名作を生み出してきた巨匠リドリー・スコット監督。
二転三転する事件の行方を濃密な映像でサスペンスフルに描いた意欲作なのですが、本作が制作された舞台裏では、思いもよらぬ“大事件”が起こっていたのです。
事件の発端は、全米公開を1か月後に控えた2017年11月、ゲティ役を演じるケビン・スペイシーのセクハラ疑惑が浮上したこと。映画は完成直前でしたが、リドリー・スコット監督と製作陣は急遽、別キャストでの再撮影を決断。『人生はビギナーズ』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したクリストファー・プラマーを起用し、なんと9日間で撮了。公開日も変更することなく、スクリーンにかけてしまったのです。
完成した作品は、たったの9日間で再撮影したシーンがあるとは思えないほどのクオリティ。ゲティ役は元から彼のものであったかのように、熟練された演技を見せるクリストファー・プラマーの存在感が光り、同時に彼と対峙するゲイル役のミシェル・ウィリアムズや元CIA交渉人チェイス役のマーク・ウォールバーグとのやり取りは緊迫感に溢れ、実に見応えあるものに。
それもこれも、俳優各々の高い技量と、リスクを恐れず作品を世に送り出すことに心血を注いだリドリー・スコット監督の才能と手腕によるところが大きいと言えるでしょう。
そんな“大事件”を乗り越え、ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞でもノミネートされるなど大逆転を果たした本作。サスペンス映画としても極上の出来ですが、その奥で交錯する人間ドラマも見どころです。
ただの“ケチな金持ち”とは片付けきれないゲティの金への執着と、お金には変えられない母の愛情。息が 詰まりそうな攻防戦をじっくり堪能して。
ゲティ家の身代金
2018年5月25日から全国ロードショー
監督:リドリー・スコット
音楽:ダニエル・ペンバートン
原作:ジョン・ピアースン「ゲティ家の身代金」(ハーパーコリンズ・ジャパン刊)
出演:ミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、ロマン・デュリス、ティモシー・ハットン、チャーリー・プラマー、マーク・ウォールバーグ ほか
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公式サイト http://getty-ransom.jp/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/