中国に近寄るしか道のないイランの憂鬱
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月5日放送)に国際政治学者の高橋和夫が出演。アメリカがイラン核合意を離脱したことによって立たされているイランの現状、それによって強まる中国の影響など、今後のイランと各国との関係について解説した。
イラン核合意存続を協議~6日に関係国外相会合へ
アメリカが一方的に離脱を表明したイラン核合意の存続を協議するため、イランと合意締約国のイギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国の外相会合が6日ウィーンで開かれる。
飯田)トランプ政権はイラン産原油の輸入停止を各国に呼び掛けるなど、圧力を強化しています。この協議はその前にアメリカの制裁がこれまでにもありました。
高橋)まずアメリカ企業はイランと取引をしてはいけない。2つ目はアメリカ以外の国もイランと取引した国とはアメリカは付き合わない。日本の企業がイランに車を輸出したら、もうアメリカには輸出できなくなる。それが二次制裁ですよね。それから3つ目はイランの銀行と取引した銀行とはアメリカは付き合わない。つまりドルの決済システムから排除されることになるわけです。そうすると日本の銀行も、もうイランの銀行とは付き合えない、大きなお金は動かせなくなる。それプラス石油も買わないでくれというのがアメリカの重層的な制裁の仕組みです。
飯田)ありとあらゆる手を使ってということですね。
高橋)イランの石油が一滴も国際市場に出ないようにしてやるという感じなんです。それを言い始めると石油の値段がどんどん上がり始めたでしょ。そうするとガソリンの値段が上がるとアメリカのドライバーが怒りますから、急にトランプさんが論調を変えて「まぁゆっくりやってくれればいいよ、そんなに全部止めなくてもいいよ」と言い始めた。あの人は微調整という人ではないですね。一気にブレーキを踏んだりアクセル踏んだり、両方踏んだりということですね。
飯田)ちょっと前にはサウジアラビアに増産してくれと頼んだこともありました。あれ、これ全部吹っ飛んじゃったじゃない? と思いました。
高橋)サウジも増産すると思います。今日から200万バレルって求めています。すぐには200万バレルも出てきませんから少し時間はかかります。トランプさんが思うようには世の中は回っていかないと思います。
米抜きのイラン核合意~EUよりも日本や韓国のイランへの影響のほうが強い
飯田)アメリカを抜きにした国々でイラン核合意について話し合うということですが、例えばEUは動けるものなのですか?
高橋)イランは自分の方は合意を守っているんだから、アメリカ側がいろんなことを言ってきて打撃を受けている、その分の補償をしてくれよお前らと、こう言っているわけです。ただEUにできることは限られていて、というのはイランは石油を売らなければ食べられないですよね。イランの石油を一番沢山買っているのは中国です。「日本や韓国はあまり買ってくれんな」とアメリカは言っています。インドに対しても日本と韓国に対するのと同じことを言っている。EUの諸国よりは実は日本や韓国、インドの方とどうするかということの方が影響が大きいんです。EUはイランからそんなに石油を買っているわけではないですから。
飯田)中国やロシアも入っています。この辺の国々というのはイランに対してシンパシーを感じている?
高橋)アメリカの思い通りにさせてはいけないと、実際に中国は沢山イランの石油を買っている。それはいいんですけど、ロシアは産油国ですから、イランの石油なんていらないです。ですからロシアは頼りにはなるけど役には立たないという感じです。
飯田)もともと核合意をイランの国内で推し進めてきた人が、いまのロウハニ大統領ですよね。この人の立場はどうなっているのでしょうか?
立場のないロウハニ大統領がするEUとの交渉の実情
高橋)立場はないですよね。だからみんなから「お前、交渉して経済良くするって言ったじゃないか」ってすごく叩かれていて、彼はヨーロッパに行って、みんなが俺を助けてくれるフリでもしてくれ、ということなんです。
飯田)フリでもいいから?
高橋)何もできないのはわかっているから、一応カッコだけでもつけてくれないと、俺、立場ないだろう、というところが大きいと思います。だからロウハニさんはわざわざヨーロッパに行って外交的な大歓迎を受けて「ほら、仕事してるだろ?」って国内向けにやっているわけです。でもロウハニさんがやれることも少ないと、みんな分かっている。問題はロウハニさんを嫌っている人が沢山いて、仮にやめさせたとしても、他に誰かいるのか? もっと他に過激な人がやれば石油はもっと売れるのかというと、そういう保証もない。だからロウハニさんは俺しかチョイスはないだろうと開き直っているところもあります。最近の演説も聞きましたけど「俺が辞めると思っている人は間違っている。俺は辞めないぞ!」って。「俺が辞めて困るにはお前らの方だろ」って、なかなか立派というか元気な演説をしていました。
飯田)イランという国は大統領もいるけど、宗教指導者はもっと偉い。イランイスラム共和国第2代最高指導者のハメネイさんは、イメージはより過激な感じもありますけど、実際はどうなんですか?
高橋)実は彼の方が権力を持っていて、大統領は権力を持っているけれども、何となく野党の代表みたいな感じです。宗教が世論を代表しているから最高指導者、宗教指導者の方を無下にできないというところで、2010年代の初め、経済制裁で追い詰められたときに、最高指導者の方もアメリカと交渉するしかないなと気が付いて、ロウハニさんに任せたんです。そしたらうまくいかないから「お前のせいだ!」と言っているのがいまです。自分のせいにはしたくないからロウハニのせいにしています。でもロウハニだって「何言ってんだ、俺が辞めたらお前だって困るだろ」と開き直っています。そういう状況です。
飯田)ロウハニさんの前に大統領をやっていたのは、アフマディネジャドさんという人で、アメリカとタイマンで勝負するんだという感じでしたが、そういう立場には戻れないのでしょうか?
高橋)アフマディネジャドが言いたい放題言ってイランは国際的に本当に孤立してしまいました。もうこれじゃ経済成りゆかない、ロウハニ、ニコニコして行ってこいと、代わりに行ってきたわけです。
中国に近寄るしかイランの道はない
飯田)イランにはいろんな問題があって外相会談が開催されますが、結局頼りになるのは中国だけということになりますか?
高橋)いまはイランは中国の方に近寄っていくしかないんです。でもあまりに中国に依存すると、中国の思い通りになってしまう。イランはそれが面白くない。イランの人はアメリカとケンカしたいとは思ってないのですが、アメリカがあの態度だと中国の方に行かざるを得ない。そうすると中国に石油は買い叩かれるは、中国のものを買わざるを得なくなる。イランの人にとっては中国製品よりも日本製品、ドイツ製品を買いたいんです。中国から物を買うと、中国からは他の国では売れないものを持ってくるんだという、そういう感覚をイランの人たちは持っているんです。かつて経済制裁が緩んだ時期、イランの人々は日本の鉄のパイプを買っていました。なぜ日本製品を? 中国製品を沢山買っただろう? って尋ねたら、中国製品はすぐにボロになってしまうから、買い替えているんだよ、中国は頼りにならないんだよと、日本人には言うんです。
ですからイランとしては中国だけに頼るという状況は避けたい。でもしょうがないですよね。
イランへの安倍総理の覚悟と決断
飯田)日本とイランはかつてつながりがありました。出光興産の出光佐三さんが築き上げた関係性もあっただけに、手を差し伸べたいけど、差し伸べられない。
高橋)今度は安倍さんの決断です。日本とイランとの関係を守りたいと思うかどうか。オバマ前大統領の時には経済制裁にも付き合いましたが、それは国連の決議もあり、国際社会のコンセンサスだからしょうがないと、イランに対しても説明ついたんです。でも今度はトランプさんのわがままじゃないかとみんな思っているわけです。
ですから安倍さんは筋を通すのなら、ヨーロッパと一緒になってトランプさんの圧力に抗するというのも、一つの考え方です。ただトランプさんとの関係を守りたいということであるならば、「トランプの言うとおりだよ」とアメリカの要求に応えるでしょう。
今度安倍さんはヨーロッパに行かれますから、どっちをとるか。行く前に決断しないといけない。大変ですね。
飯田)本来はそのあとの中東歴訪でイランも寄るつもりでいたようですが、それはさすがにキャンセルした。政権の真価が問われるところですか。
高橋)そうですね、野村監督じゃないですけど、覚悟と決断ですよ。
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