『ぬちどぅたから』生きていることが宝だった戦争の物語
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子供たちにとって、そろそろ夏休みの宿題が気になる頃ですね。読書感想文が苦手だったという人は多いはず……。でも歳を取って老眼が進むと、児童書の大きな文字が丁度いい! そこでこの夏、おすすめの児童書を一冊ご紹介します。
『はだしのゲン』など、平和に関する作品が多い「汐文社(ちょうぶんしゃ)」。
ここから出されている児童書、『ぬちどぅたから』……サブタイトルが「木の上でくらした二年間」。著者の真鍋和子さんが、沖縄を取材されて書かれた本です。
物語の主人公は、佐次田秀順(さしだ しゅうじゅん)さん、28歳。滑走路を作るために沖縄本島から伊江島に送り込まれた兵士です。
伊江島に米軍は上陸したのは、昭和20年4月16日の早朝。21日には日本軍の組織的戦闘は終了……、6日間の激戦でした。
島の周囲は22キロ、中央に標高172mの城山(ぐすくやま)があり、この山の地下壕に日本軍の戦闘本部がありました。芋畑を潰して迫ってくる戦車に、日本兵は突撃を繰り返しました。秀順さんも華々しく散ろうと突撃しますが、気づいた時、砲弾の破片を太ももに受け、芋畑に倒れていました。
戦車の後ろには、アメリカ兵が自動小銃を構えて近づいてきます。小さくて平坦な島は逃げ場がありません。
敵に囲まれ、もう逃げ切れない。あとは手榴弾で自決するのみ、と覚悟を決めた時、目の前に大きなガジュマルの木が見えました。秀順さんは必死に木に這い上がり、蝉のように幹にしがみつきました。自動小銃を構えたアメリカ兵がしばらく木の周りを捜索しますが、やがてどこかへ行ってしまいました。
命拾いをした秀順さんが木から降りると、周りは死体の山……。そんななか、手足に銃弾を5発も受け、息も絶え絶えの仲間の兵士、山口静雄さん(当時36歳)が倒れていました。
「山口さん、しっかり!」秀順さんは木の上に担ぎ上げました。この時から、二人の木の上の生活が始まります。
日が暮れて闇夜になると、秀順さんは木を降り、焼け落ちた民家からヤカンや茶碗を拾い、井戸水を汲んで戻ります。水を飲ませても山口さんは意識が朦朧としたままでした。星明かりのなか食べ物を探しに行くと、米軍のテントが見えて、その裏手のゴミ捨て場から食べられるものをあさりました。
嬉しかったのは飲みかけのジュースでした。山口さんに飲ませ、食べ残しのソーセージやパンを2人で分けあって食べました。すると次第に山口さんの体が回復し、手足が動き、1ヶ月ぶりに声が出て話すことが出来るようになりました。秀順さんは思います。「ぬちどぅたから」、生きていることが宝だと。
昼間、木の下はアメリカ兵の話し声がするので緊張が続きます。ある晩のこと、水を汲みに行った帰り、秀順さんは曲がり角でばったりとアメリカ兵と鉢合わせしてしまいます。
突然のことに足がすくみ、体がこわばり、逃げることもできません。それ以上に驚いたのが敵兵で、髪や髭がボウボウ、服もボロボロ、秀順さんがオバケに見えたのか、悲鳴を上げて逃げて行きました。
雨が続くと木の上でずぶ濡れになり、ガタガタ震えて過ごしました。1人が熱を出すと、もう1人が食料を探し、看病をしました。
2人で助け合いながら2度の冬が過ぎ、昭和22年の春を迎えると、なにやらガジュマルの周りが急に騒がしくなりました。なんと、日本人が畑を耕しているではありませんか。
「捕虜なのか? 変だぞ、笑い声が聞こえる……」
そこで手紙を書き、夜中、畑に置いて様子を伺うとこんな返事が。
(戦争は2年前に終わりました。安心して姿を見せてください。)
嘘だ! 騙されて、捕まったら殺されるぞ。でも本当だったら……。
秀順さんは、錆びた手榴弾を見つめながら決意します。
「この手紙を信じよう!」
「そうだ、死ぬ時ぐらい、人を信じて死にたいよな」
山口さんも同意してくれました。
こうして二人の木の上の生活は、昭和22年3月に終わります。米軍が上陸した日から2年近くが経っていました。
2人でいたから木の上でも生きることができた……。そして、ガジュマルのおかげ……。あのガジュマルの木は、いまも青々とした葉を茂らせています。
美ら海水族館からすぐそこに見える伊江島。なぜ米軍は、こんな小さな島を占領したかったのか? 日本軍が村人と共に1年半かけて、伊江島に建設した、東洋一の滑走路。これを、米軍は手に入れたかった……。
6日間の戦闘で、日本軍はおよそ2,000名、村民はおよそ1,500名が命を落としました。
佐次田秀順さんは、沖縄本島の家に戻って牛を飼い、2009年、92歳で亡くなっています。
一方、ふるさとの宮崎県に戻った山口静雄さんは、1988年、79歳で亡くなっています。
上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
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