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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
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神田多町の多町大通りに大きく「ミルクホール」と書かれた暖簾が
JR神田駅西口から、淡路町へと続く一本道、神田多町の「多町大通り」。大通りと言っても、交通量が少なく、裏通りの雰囲気です。この通りは、オフィスビルやホテル、マンションが建ち並び、ポツンポツンと、戦前の古い商店が残っています。その中で、白地に黒い文字で、大きく「ミルクホール」と書かれた暖簾が、ひときわ目を引きます。
昭和20年創業、「栄屋(さかえや)ミルクホール」。二代目のご主人、高橋栄治さんは、昭和24年生まれの69歳。
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「栄屋ミルクホール」二代目のご主人・高橋栄治さん
「両親が、戦前から神田で、日本蕎麦屋をやっていてね、空襲で焼け出されて、被害がなかったこの店を借りたんだよ。蕎麦の材料が手に入らなかったので、ミルクホールを始めたわけ」
「ミルクホール」とは、牛乳やコーヒー、軽食を提供する甘味喫茶。夏は、かき氷、アイスクリーム、ソーダ水、あんみつ、ところてん、冬は、お雑煮、お汁粉、甘酒、安倍川餅、磯辺巻き、他に、大福、カステラ、水羊羹、どら焼き、お煎餅も売っていて、食事は、ラーメン、丼モノ、焼きそば、ワンタンなどなど。
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老舗の雰囲気が漂います
高橋さんは、8人兄弟の下から2番目の三男坊。店の2階に六畳二間があり、そこに家族10人が暮らし、両親は、8人の子供を食わせるために、必死に働いたそうです。
当時の神田は、一軒家が多く、日本橋の三越まで見渡せました。小さな公園では、ゴロベースで遊ぶ子供たちの賑やかな声! ピッチャーがボールをゴロで投げ、バッターは、低い姿勢で待ち構え、素手で打つ! バットやグローブがない時代、狭い場所でもできるゴロベースに、高橋さんも、夢中で遊んだそうです。
「このあたりの家は、ほとんど、内風呂がなくてね、その代わり、7〜8軒、銭湯があって、店の前に縁台を出すと、風呂上り、そこに座って、かき氷を食べていく客がたくさんいてさ、夏のこの時期は、夜中まで忙しくて、いい時代だったよ」
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着席したらこんな感じ
高橋さんは、三男坊ですから、店を継ぐ気はなく、大人になると、家を出て、サラリーマンに。神田から、世界へと飛び出します。旅行会社に勤めた時、ちょうど高度経済成長で、ハワイが大ブーム! ハワイ駐在から、さらにアメリカ本土へ転勤になり、日本からの団体客を相手に、ラスベガスだ、ディズニーランドだと、連日、大忙し! 頑張りすぎて34歳のとき、体を壊して、帰国。
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メニューはこちら どれも選びたくなってしまいます
「あの時は、疲れ果てて、半年間、何もしなかったね。そのあと、テレビの制作会社、リゾート会社など、いろいろ仕事をしてきたけど、まさに企業戦士で、いま思えば、サラリーマンが、一番、きつかったなぁ」という高橋さんが、実家の店を継ぐことになったのは、23年ほど前、明治生まれの父と、大正生まれの母が、高齢で店が続けられず、一時、高橋さんの姉が店を切り盛りしていましたが、その姉も体がきつくなり、誰も継がないのなら、俺が! と決意。
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さっぱりしていて味わい深い店内
「子供の頃、店を手伝っていたこともあって、なんとなく要領は分かっていたんだよ。コンビニが増えて、飲み物や甘味はやめて、いまは、ラーメンがメイン、夏は『冷やし中華』が人気で、定番は『ラーメンカレーセット』だね」
昔ながらのラーメンに、素朴な味のカレーライスが付いてくるので、働き盛りのサラリーマンに人気のメニューになっています。
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定番のラーメンカレーライスセット
「ミルクホール」の暖簾を掲げていると、年に1人か2人、牛乳が飲めるんですか? と聞いてくるお客さんがいるとか。「これは親の代からの看板だから、このまま変えるつもりはないね。景気? 景気は良くないよ。毎月トントンだったらいいかな」
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暖簾「ミルクホール」はこれからも変わらない
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夕方から厨房で煮込まれる自家製チャーシュー
お店の奥の厨房で、自家製チャーシューを煮込む高橋さん。滴る汗をタオルでぬぐいながら、こう言います。
「いままで、いろんな仕事をしてきたけど、この店を継いで、つらいと思ったことは、一度もなかったね。子供の頃から、親の仕事を見て育ったから、性に合っているんだね。10人が暮らしたこの家で、今は私一人だけど、お客さんが食べに来てくれる限り、この店を続けていきたいね」
栄屋ミルクホール
栄屋ミルクホール(サカエヤミルクホール)
東京都千代田区神田多町2-11-7営業時間
[月~金] 10:30~17:00
定休日 土・日・祝ラーメン 650円
夏限定 冷やし中華 950円
ラーメンカレーライスセット 950円※最近テレビ番組等で紹介され、混雑により営業時間が短くなっている場合がございます。
上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ