頭の中のアルバムを一枚一枚、整理するお手伝い 傾聴ボランティア
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
小田急線「新百合ヶ丘駅」……、「しんゆり」と呼ばれて、「住みたい街」の上位にランクされる人気の街になっています。川崎市麻生区の中心地ですが、駅が開業したのは昭和49年、その後、山と谷だった多摩丘陵を、大手デベロッパーが開発しました。
駅を降りると、駅ビル、ショッピングモール、マンション、さらに昭和音楽大学、日本映画大学などもあって、文化と芸術が溢れる街でもあるんですね。そんなお洒落な街にも、実は、高齢化の波が押し寄せていました。
「この区は、移り住む住民が多く、お隣同士の縁が少ないことから、孤独なお年寄りや、高齢のご夫婦が増えているんですよ」というのは、麻生区でボランティア活動をされている松下元子さん。
もともと「いのちの電話」の活動をしていた松下さんは、人と会って話を聞くボランティアをしたいと、5年前、講習を受けて、ボランティアグループ『傾聴あさお』を始めました。
「傾聴」とは、耳を傾け、熱心に話を聞く、傾聴のことです。メンバーは親の介護の経験がある主婦や、シニア世代の男性が中心。7人のメンバーが、いまでは26人に増え、老人ホームをはじめ、区内14施設、さらに個人宅へも訪問しています。
『傾聴あさお』の代表は、初代・二代と女性でしたが、現在、3代目の代表を務めるのは、中原俊一さんです。11年前、横浜から転居し、麻生区の住民になりました。サラリーマン時代は、自宅と会社の往復だけの毎日で、近所には、知り合いが、ほとんどいませんでした。定年になって家でゴロゴロしていたら、妻とギクシャクしてしまう。会社人間から、地域密着人間になろうと決心して、自分に合ったボランティア活動を探していた時、社会福祉協議会から『傾聴あさお』を紹介されました。
講習を受けて、いざ老人ホームへ! お相手は男性のお年寄りでした。「こんにちは!」と声をかけると、思わぬ言葉が返ってきました。「あんたに話すことは、何もないよ」とそっぽを向かれてしまい、1時間、じっと座っていたときは、「自分は、何の役にも立たないのか」と落ち込んだそうです。
ある施設でのこと。軽い認知症の80代の女性が、子供の頃、柴又に住んでいたと、ぽつりと話してくれました。
「あ、じゃ、この写真、見覚えありますか?」
中原さんが、以前、遊びに行ったときに撮った帝釈天の写真をスマホの画面で見せると、パッと表情が変わり、涙を流しながら、子供の頃の話を、次々と話してくれました。
「久しぶりに、あの頃に戻れたわ。ありがとう」
とお礼を言われて、中原さんは、何か、キッカケを探し出せば、当時の記憶が、泉のように湧いてくるんだと、知りました。
また、こんなこともありました。個人宅へ訪問すると、99歳の元気なおばあちゃんでした。息子さんが昼間仕事をされていて、1日、話し相手がいませんでした。そのおばあちゃんが、中原さんに、こう言いました。
「早く、お迎えが来て欲しいの……」
突然のことに、返す言葉が浮かびません。よくよく話を聞くと、『同居する息子に迷惑をかけたくない』という親心から出た言葉で、「息子と一緒に暮らせることが、一番の幸せ」それが本心だと分かって、ホッとしたそうです。
傾聴ボランティアは、相談事や悩みを解決するボランティアではありません。ただ「話し相手」になるだけのことです。中原さんは言います。
「この活動をしていて、一番嬉しいのは、お相手の笑顔です。その人の一番楽しかった時代、一番輝いていた時代に戻ったとき、無表情だったのが、笑顔に変わっていきます。喜びが倍になり、悲しみが半分になれば、と思って耳を傾けています」
頭の中のアルバム……その思い出の写真を一枚一枚、整理するお手伝いが、傾聴ボランティアなのかもしれません。
*7月6日から、毎週金曜日、全4回の傾聴ボランティアの育成講座が開かれます。
『傾聴あさお』の問合せ先
社会福祉法人 川崎市麻生区社会福祉協議会
川崎市麻生区万福寺1-2-2 新百合21ビル1階
新百合ケ丘駅北口下車徒歩3分
電話:044-952-5500*この麻生区社会福祉協議会で、シニアのためのサロン「ぐったいむ」が8月7日からスタート。地域のみなさんが集まって楽しくおしゃべりするサロンです。ミニ講座(折り紙、手芸、絵手紙、健康体操など)も開催。
開催日は、第2・第4木曜日。午後1時30分から午後4時15分。参加費は100円。
上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ