それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
大きくなったら何になりたい……「忍者!」幼稚園児ならありそうな夢ですよね。これが大学生になって希望職種を「忍者」と書いたら「お前、大丈夫か?」と言われそうです。
ところが、「職業は忍者」という人がいます。甚川浩志(じんかわ ひろし)さん、48歳。東京都あきる野市、自然豊かな山里に暮らしています。頭巾を巻き、作務衣に袴、地下足袋で現れた甚川さんは「現代の忍者」といった雰囲気を漂わせていますが、丸顔で眉が太く、笑うと「忍たま乱太郎」の「しんべヱ」にちょっと似ています。
子供の頃、忍者に全く興味がなかったという甚川さん、なぜ忍者になったのか……大阪出身の甚川さんは大手自動車メーカーに就職、ここで企業リサーチの仕事に就きました。
「リサーチって面白い!自分に合っていると思ったんです。しかし、異動が多く、リサーチの仕事に専念できない。マーケティングリサーチのプロになりたいと思った私は、大手企業が顧客のリサーチ会社に転職したんです」
転職したその日、上司から、こう命令されます。
「きょうから、お前は忍者だ。自分の名前で仕事をすることもない!」
どうして忍者なのか? すぐには理解できませんでしたが、仕事を始めると、そうか……と分かっていきます。
その仕事とは……ある大手企業の内部で不穏な空気が流れている……例えば、不正経理や反社会勢力との交際、横領、パワハラなどなど。調査依頼はその企業からです。甚川さんは契約社員として雇われ、社内に送り込まれ、職場での不正を調べ、レポートする……それが仕事でした。
「忍者といえば忍者。でもこの仕事は正しいことなのか……」
思い悩む甚川さんに、上司はこう言い聞かせます。
「正義は捨てろ!それが忍者だ!」
忍者の極意とは、どっちが正義でどっちが悪か、その迷いを捨て去ること……なんだそうです。
5年間、大阪のリサーチ会社で鍛え抜かれ、現代に生きる「忍者」となった甚川さん!30歳を機に上京し、独立。探偵事務所を開いたこともありましたが、甚川さんは忍者を職業としてやっていくことを決意します。
伊賀や甲賀など忍者にもいろいろ流派がありますが、甚川さんは北条氏に仕えた「風魔(ふうま)」の忍術を学びます。
「風魔忍者は『忠義の忍び』だと思うんです。サラリーマンも会社に忠義を誓う忍者のようなもの……。そこで、新人研修など、企業の研修を受け入れるために、新宿から、かつて風魔忍者が暮らしていたこの地に移り住みました」
さて、どんな人が忍者修行にやって来るのか?
「ホームページを見て、意外にも、外国人が多いですね。手裏剣、剣術、吹き矢といった実技とともに、忍術は、単に闘いの為の術ではなく、無益な争いをやめ、より良く生きて行くための術であることも教えます」
さらには、幼稚園からの依頼もあって、甚川さんは「忍者スクール」を開いています。
「忍者修行は、大人も子供も関係なく、本気で教えます。発達障害の子供に忍術を教える機会もあって、落ち着きがなく、注意力が散漫な子供でも『黙想!』の一言で十秒も二十秒もピタッと集中します。情操教育にも忍術はとても効果があると思っています」
陣川さんに、これからの目標をうかがうと、「そうですね、無益な戦さをしない忍術で世界を変えたい。そして(大きくなったら忍者になりたい)、そんな子供たちのために、忍者としての職業を確立したいね」という甚川さん……忍たま乱太郎の「しんべヱ」そっくりに、小さな目を輝かせます。
甚川浩志さんは、東京都あきる野市養沢1252番地 野忍庵で、野人流忍術「野忍(やにん)」を主宰。
■山里で野生に還る、野人流忍術修行
・忍術日本文化体験・講演
・忍術修行プログラム
・企業研修、日本型経営導入支援
・地方創生活動支援◆著書「職業は忍者」(新評論)
~激動の現代を生き抜く術!日本にあり~
上柳昌彦 あさぼらけ 『あけの語りびと』
2018年5月16日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ