それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
男のロマン・・・と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?太平洋をヨットで一人旅!ラスベガスの夜で一攫千金!でっかいバイクでイージー・ライダー!そして、いくつになっても忘れられない夢が、自分の拳で、悪漢たちを撃破すること!
「男のロマンは女の迷惑」という言葉があるくらいですから、女性のみなさんには、あんまり理解できないかも知れません。ところが! 大阪に、男のロマンを実現させてしまった人がいるんです。キックボクシングの元・西日本ライト級チャンピオン、ガルーダ・テツさんがその人! テツさんが大阪京橋に、キックボクシングジム「テツジム」を開いたのは、2013年1月6日・・・31歳の時でした。
「昔、やってみたかったけど出来なかった。アッという間に、こんな年になってしまった。そういうオヤジたちに、楽しんでほしかったんです」と振り返るテツさんが掲げた看板は『オヤジキック』!オヤジたちのキックボクシングジムだったのです。
開設当初は閑古鳥が鳴いていた「テツジム」は、丸5年を迎えた今年、66人のオヤジたちが汗をほとばしらせる大所帯へと成長しました。35歳から57歳までのオヤジたちの平均年齢は、43歳。「自分の拳で相手を倒す」という男の夢に魅せられて、日夜、トレーニングに励んでいるのです。ガルーダ・テツさんは語ります。
「オヤジたちはみんな、それぞれの『歴史』を持っています。何かを背負って、リングに立つんですから、みんな熱い!色が濃いんです!」
『ただケンカが強くなりたい人、たとえば暴力団の用心棒のような人は、来ないんでしょうか?』という、いささか失礼な質問にも、テツさんは、やさしい声で答えてくれました。
「そういう人は見当たりませんね。練習が終わった後、車座になって『ああだ、こうだ』と雑談しながら、自分たちの物語を披露し合っていますよ」
「テツジム」がこれまでに開催した『オヤジキック』の大会は、この3月で7回目! がんの手術をした不動産会社の営業部長は47歳。思春期の娘さんと断絶したトラックドライバーは45歳。みんなが様々な事情を抱えて、何かのキッカケをつかもうと、リングに上がります。
家族や友だちの歓声に戸惑って、立ちすくむ人、一人の応援もいない孤独な戦いに挑む人、ヘッドギアを付けているとはいえ、その恐怖心は相当なものでしょう。テツさんは言います。
「試合に出るというのは、たしかに勇気のいることです。それなりの年齢を重ねてきたオヤジたちですから、『負けたらどうしよう』『ぶざまな格好を見せたら恥ずかしい』という想いが、人一倍強いんです。でも、勝負ですからね、負けたっていいんです。負けを恐れてほしくない。人間は負けたら、違うものが見えてくるんです。そしてまた一つ、いい味のオヤジになるんです」
恐怖に耐えながら全力で、1分30秒を2ラウンド戦うオヤジたち。終了のゴングが鳴って、勝者と敗者が和解するときの解放感は、大きな仕事や受験勉強を終えたときの30倍の歓びだといいます。
がんばれ! オヤジキック!
上柳昌彦 あさぼらけ 『あけの語りびと』
2018年4月25日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ