それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
あなたは子どもの頃、どんな仕事を夢見ていましたか? 男の子なら、蒸気機関車の運転士、消防士、プロ野球選手。女の子なら、花屋さん、ケーキ屋さん、看護師さん。様々な夢は、叶わないまま消えてしまったものの、その後の人格形成に、何らかの影響を与えていることでしょう。
山口県北部の日本海に面した城下町、長門市は人口の減少によって今、深刻な問題を抱えています。かつて沢山の買い物客でにぎわっていた商店街の店は、次々に閉店。閑散としたシャッター通りになってしまいました。
「その通りを歩いているとね、ああ、ここの店には、怖い親父がいて、よく叱られたなぁ。ここにはいつも、うまそうな和菓子が並んでいたっけ、などなど、いろんな店と人の顔が想い出されるんですよ」
こう振り返るのは、長門商工会議所青年部の辻泰典(つじやすのり)会長。
衰退の一途をたどる長門市の商業を、何とか盛り立てなくては! それは、青年部の悲願でもありました。こんな中から浮かび上がってきたのが、子どもたちの「夢の力」でした。子どもたちに、いろんな「お店屋さん体験」や「職業体験」をしてもらいそれを将来の夢につなげよう! いわば、街ぐるみ、地域ぐるみの大がかりな「お店屋さんごっこ」! この構想がまとまったのは、今から13年前! プロジェクトの名将は「ちびっこ」の「ちび」と「長門市」の「なが」を合わせた『ちびなが商店街』に決まりました。
それから13年。今年も2月4日「立春」の日、長門市総合公園内にある公共施設「ルネッサ」のメインアリーナで、沢山の子どもたちの歓声や笑い声がこだましました。
13回目の「ちびなが商店街」に開設された店舗は、45店舗。そして、消防、自動車整備、ごみ収集などの体験型職業コーナーが4つ! あらかじめ受け持ちを決められた高校生が、ジュニアオーナーとなって、次々にやってくるアルバイト希望の小学生を指導するという仕組みです。
ピザ屋さん、花屋さん、ハンバーガー屋さん、駄菓子屋さん、おでん屋さん、焼き鳥屋さん、クレープ屋さん・・・まだまだ、あります! 歯医者さん、交番、消防署まで、様々なお店屋さんや職業体験コーナーで、「ルネッサ」のメインアリーナは、埋め尽くされます。子どもたちは、思い思いのユニフォームに身を包んで、「いらっしゃいませ! いらっしゃいませ!」と、声をからしています。外のグランドでは、ちびっこ消防士たちの放水が始まったようです。
「お店屋さんごっこ」とはいえ、あらかじめ「ちびなが商店街」の「銀行」で「チビー」に両替しておけば、本当に買い物もできます。「チビー」というのは、「ちびなが商店街」だけで使えるお金のことです。
「子どもの頃、『ちびなが商店街』で、美容師を体験したというので、本物の美容師になった子もいるんですよ!」と、声を弾ませる辻会長に、今後の抱負をうかがいました。
「手抜きの無い本気のイベントですから、準備には1年かかります。でも、いつまでも続けたいですね。こうした地道な積み重ねが、将来の長門市の繁栄につながることを信じています」
そうです! 子どもたちの目の輝きは、決して未来を裏切らないはず。子どもたちがいる限り、「ちびなが商店街」がシャッター通りになることは、有り得ないのでしょう。
上柳昌彦 あさぼらけ 『あけの語りびと』
2018年3月21日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ