車いすでも着物が着たい! その願いを叶えたつくば市の主婦
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
新成人の門出を祝う成人式・・・。江東区の成人式で今年、新成人を代表して挨拶をしたのは、リオデジャネイロ・パラリンピックに出場した瀬立(せりゅう)モニカさんでした。
当時、筑波大学の1年だったモニカさんは、カヌー女子のカヤックシングルで、見事8位に入賞! 2020年の東京大会に向けて、日々の練習を重ねている車いすのアスリートです。ステージの中央で、車いすに座ったまま、将来の夢を語るモニカさん。人々の目を引いたのは、彼女があでやかな振袖に、帯を締めている姿でした。着物に少し詳しい人なら、車いす生活をしている人が、振袖を着ることがどんなに難しいことかを知っているからです。
この日、瀬立モニカさんが着ていたのは、つくば市の主婦・浅倉早苗さんが考案した簡易式着物。高齢の方や障がいのある方が、5分足らずで着ることができる着物でした。モニカさんは、ブログに次のように綴っています。
『車いすだと着物も着れないし、成人式にも出られないと思ってた。しかし、素晴らしい出会いで着物を着ることも、また新成人代表として挨拶することも出来ました。座ったまま素人でも、30分もあれば余裕! 車いす女子には革命的! 車いすの新成人は私だけではないはず。もっと広まってほしいな』
考案者の浅倉早苗さんは言います。
「誰が着てもきれいに見えるよう、和裁士と打ち合わせを重ねます。襟の合わせなどはミリ単位で変更したこともあります。また、車いすの展示会に参加したり医師、介護士、義肢装具士などに話を聞き、障がい者にも対応できるデザインを模索しました。一方で反物の糸から国産にこだわるなどクオリティーも重視。車いすに座って着用するものだからこれくらいでいいだろう~といった妥協は、一切したくなかったんです」
浅倉早苗さんは、大学で芸術工学を学び、家電メーカーで、石油ファンヒーターなどのデザインを担当していました。ところが、入社2年目でお父様が急死。実家の家業を手伝うことを余儀なくされました。けれども、商品デザインのコンペへの参加など、デザインの仕事をライフワークと考えるようになっていました。
そんなとき、おばあさんのまさえさんが脳出血で倒れて入院。幸い一命は取り留めたものの、老人ホームへ入所しなければ生活できない体になってしまいました。パチンコが大好きで、明るい性格だったおばあさんが、みるみるふさぎ込むのが分かったといいます。一日のスケジュールをこなすだけの単調な生活。着たり脱いだりしやすく、洗濯が楽なように工夫された実用的な服では、おしゃれは、あきらめなければなりません。おばあさんは、いつも和服を着ているイキな人だったのです。
「おばあちゃんが何とかして、オシャレを楽しむことは出来ないのか?」
この想いが、簡易式着物を考えるキッカケとなりました。早苗さんは車いすに座ったままでも着やすい形を考え、正面から袖を通せるように着物の背中にハサミを入れました。周りの人は唖然としましたが、袖を通したおばあさんの顔がパッと明るさを取り戻し、まるで少女のように喜んでくれたのを見て、みんなが納得したといいます。
早苗さんの簡易式着物は、上半身と下半身に分離。座ったままや寝たままでも正面から袖を通すことができるよう開口部が背中にあります。背中や足元をボタンやマジックテープで留め、帯を前から回して、作り帯を背に差し込めば着付けが完了。腰や胸をひもで縛るなどの面倒もなく、和装で気になる締め付けや痛みもありません。早苗さんの元には、いろんな喜びの声が寄せられています。
*あきらめていた孫の結婚式に出ることができました。
*主人の陶芸作品の個展の会場で、記念写真を撮れました。
*着物を着たら、日舞をやっていたことを想い出し、扇子を持ちました。
浅倉早苗さんは、2015年夏、株式会社『明日櫻(あすさくら)』を起業。簡易式着物のレンタルと販売を開始すると全国から注文が舞い込みました。早苗さんの胸には今、一つの夢がふくらんでいます。
「2020年の東京パラリンピック・・・。世界中の車いすのアスリートのみなさんに、着物を着てほしいですね」
株式会社『明日櫻』
http://www.asusakura.jp/
上柳昌彦 あさぼらけ 『あけの語りびと』
2018年1月31日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
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