それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
つかぬことをうかがいますが、小・中・高等学校の卒業記念文集に、「将来は、何になりたい」と書きましたか? そして、その夢は実現しましたか?
静岡市清水区で代々続く新聞販売所「河西新聞店」を営む河西健(かわにしたけし)さんが、高校の卒業文集に綴ったのは「喫茶店のマスターになりたい」という夢でした。現在、39歳の河西さんに、その理由をうかがいました。
「まだ高校生ですから、コーヒーが大好きで~というわけではありません。その頃、放映されていたテレビドラマの喫茶店のマスターのスタイルやコーヒーを淹れる所作を見て、カッコいいと思ったんですね」
まずファッションから、憧れの職業を決めるところが若かったんですね。
学校を卒業後、就職した愛知県の企業を、およそ10年前に退職。「河西新聞店」を継いだ彼の胸の中には、喫茶店のマスターへの夢がくすぶり続けていました。この夢が、ボッと燃え上がったのは、焼津市のコーヒー店「カフェバール・ジハン」で口にした一杯のコーヒー。
「僕は、酸味の強いコーヒーが苦手なんです。ところが、その店の味が酸味、苦み、香り、コク・・・ともに、最高にうまかったんです」
と振り返る河西さん。
2014年の暮れ、何と彼は無謀にも、この店に弟子入りしてしまいます。新聞屋さんのコーヒー修業。さぞかし先方も驚いたことでしょう。およそ1年、河西さんは、豆の配達をしながら焙煎やドリップの方法を猛勉強。コーヒーの表面に、クマの顔やハートを描くラテアートの技術も習得。イベント会場などで出張販売する、露天商の資格も取ってしまいました。
こうして着々と、準備万端を整えたとき、その胸にひらめいたのは、毎朝、新聞と一緒に焙煎したてのコーヒー豆を配達するというアイディア。鮮度のいい豆を少量ずつ配達するサービスを、2年前からスタートしました。
「朝、新聞のポストを開くとね、コーヒーのいい香りがするのよ!」
お客様のそんな声がうれしかったと、河西さんは語ります。
河西さんのサービスに、花を添えてくれたのは、妻の千鶴さんが焼き上げるパン。富士山の溶岩を使った特注オーブンで焼くパンは、モッチリふわふわ。あんパンの餡は宮内庁御用達の餡屋さんに特注。絶品だと評判です。
朝、新聞とコーヒー豆と焼き立てのパンが届く! ありそうで無かったサービスですが、お客さまはどこまでも贅沢です。
「豆だけじゃなく、淹れたてのコーヒーを飲める場所があればいいね」
こんな要望に応えて、河西さんはついに、店舗の一部を改築。去年の12月1日、9坪ほどのコーヒースタンドをオープンしました。店の名前は「NEWS」! 新聞販売店だからという意味と、お客様がニュースのように東西南北から集まってくるように~という願いを込めたそうです。
「NEWS」で選べる豆は、常時5種類。レトロな帽子とチョウネクタイ、ベストを着こんだマスター、河西さんが淹れてくれるコーヒーは、どれも雑味の無い澄み切った味わいを楽しむことが出来ます。
朝3時に起きて配達に出て、店に戻るとすぐさま午前10時の開店準備。毎日のスケジュールは厳しくても、河西さんはサービスの手を抜きません。最高においしいコーヒーを提供するために、豆をひと粒ずつ選り分けるピッキングを、生の豆の状態で3回、焙煎した後にもピッキングをします。焙煎中は、豆の弾ける音を聴きながら、こまめに温度を調整。コーヒー豆は、挽いてしまうと2日で40%の香りが飛んでしまうとか。だからこそ、胸を張って届けられるコーヒー豆のために、これだけの努力を積み重ねています。
河西さんは言います。
「新聞の宅配は、年々減る一方です。ニュースは、ネットやスマホで見るからいいよ~という声が多いことも事実です。でも、ネットやスマホの記事は『見るもの』毎朝、開く新聞の記事は『読むもの』この違いがあるのではないかと思っています」
毎朝届く、新聞とコーヒーとパンの香り・・・。あなたも欲しいと思いませんか?
上柳昌彦 あさぼらけ 『あけの語りびと』
2018年1月17日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ