文在寅大統領は説得できるか~北朝鮮の非核化に対する思惑と現状

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月19日放送)に国際政治学者の細谷雄一が出演。昨日から行われている南北首脳会談について解説した。

今年3回目の南北首脳会談が始まる

北朝鮮の首都平壌で昨日、金正恩朝鮮労働党委員長と、韓国の文在寅大統領による今年3回目の南北首脳会談が行われた。会談は19日にも行われ、終了後には両首脳が揃って合意内容を発表する方向で調整が進んでいるということだ。

飯田)4月・5月は板門店で行われた南北首脳会談ですが、今回は北朝鮮側の首都である平壌で行われています。空港に到着しますと、文在寅さんと金正恩さんがハグをしました。更にオープンカーを使ってパレードをしましたが、韓国側は仲介に意欲を示していて、アメリカとの橋渡しをするのだということも言っています。実際はどうなのでしょうか?

北朝鮮に対して強硬論が出てきているアメリカ

細谷)今回の首脳会談で目立ったのはパフォーマンスです。とにかく南北の融和の雰囲気というものをアピールする。なぜいまアピールをする必要があるかと言えば、一言で言うとアメリカ政府が態度を変えつつあるということです。以前に比べると、北朝鮮の取り組みや中国の関与の仕方についてトランプ大統領が批判的になっています。従来はポンペオ国務長官がこのプロセスを進めていたわけですが、大統領補佐官の強硬派のジョン・ボルトンを始めとして、アメリカが北朝鮮に譲歩し過ぎではないかと、もう一度強硬論が出てきています。強硬論がこのまま続くと、アメリカの軍事攻撃になってしまうかもしれない。それを恐れているのがこの南北ということになります。融和ムードを作ってアメリカの意向が軍事攻撃や強硬方向に行かないように、思い切り強く引っ張っているというのが現状だと思います。

アメリカは北朝鮮への軍事攻撃をオプションとして持っていた~それが南北首脳会談につながった

飯田)ボブ・ウッドワードさんというワシントンポストの記者の方が書いた、『FEAR(フィアー)』という本が刊行されました。あのなかにはトランプさんが、韓国にいる軍人の家族を緊急避難させるというのをTwitterで書こうとした。しかし、それをやったら本当に戦争になりますと周りに止められたという話が出てきます。「え、そこまで考えていたのか」と、この辺りは北朝鮮に対してのプレッシャーになりますか?

細谷)そうですね。ウッドワードさんはアメリカの伝説のジャーナリストで、大変尊敬される、またバランスの取れた批評ができる方です。この方がいろいろなことを明らかにしています。
まずは、我々が考えているよりもトランプ大統領は相当極端な思考を持っている。もう1つは、アメリカは北朝鮮に対して本気で軍事攻撃をする気はないのではないかと言われていましたが、本のなかで、トランプ大統領は北朝鮮の軍事攻撃をオプションとして明確に考えていたということが書かれています。アメリカが本気で軍事攻撃をするかもしれない。それをどうにかして回避したいということが、韓国の文在寅大統領が南北首脳会談を用意した大きな動機だったと、非常に色濃く出ていると思います。

トランプ大統領はアメリカの利益のために朝鮮半島からアメリカ軍を撤退させたい

飯田)トランプさんは戦略的に脅しをやったのではないかという受け取り方もできるのですが、本の内容を見ると、そればかりでもないということが分かるのですか?

細谷)そうですね。一方でトランプ大統領は非常に気分が変わりやすく、基本的には軍事攻撃、戦争はあまり好きではないですね。アメリカの貿易上の利益というものを最優先して考えていますから、アメリカの利益を考えたときにトランプ大統領の関心は軍事攻撃ではなく、朝鮮半島から米軍を撤退させることなのです。これも流石にアメリカはやらないだろうと言われていましたが、この本では明確にトランプ大統領は部下に対して米軍撤退というものを公表しようとして、それを部下たちがボイコットして表に出なかったということです。ですからアメリカは朝鮮半島から撤退するかもしれないし、一方で軍事攻撃をするかもしれない、どちらも日本にとっては困るということですよね。

飯田)これは針の両極端みたいなものですね。

細谷)そうなのです。これまでの大統領はそうではなくて、この2つのバランスをとってきたわけですが、トランプ大統領は思考が極端で、場合によってはどちらも破滅的な結果になるかもしれないのだということを、認識すべきであるということだと思います。

飯田)北朝鮮にとっても最悪のシナリオと最善のシナリオが入れ替わるようになっているという、どちらかを引き出そうとしているわけですよね。

金正恩委員長が非核化に消極的になった理由

細谷)そうです。その結果として去年の秋以降、北朝鮮はかつてとは異なり、真剣に非核化を考えるようになった。ところが実際にトランプ大統領と1対1で会ったときに、どうも「アメリカ政府はそこまで真剣に非核をするつもりがないのではないか、しかもトランプ大統領はあまりこの問題に知識が無いのではないか」と、今度は北朝鮮が非核化に対しての手抜きをし始めたわけです。CVIDと呼ばれていますが、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化、これを北朝鮮が認めるかどうかということがカギなのですが、トランプ大統領がこのことをあまり理解せずに、米朝首脳会談で圧力をかけなかった。ですから金正恩委員長はこれに対してわざわざやる必要は無いのではないかと、態度を変えて消極姿勢になったということです。それがいままで続いている。

飯田)文さんが行くのは、あまりそうやって舐めていると、今度は別の針が触れるかもしれないからちゃんとやれよということですね。

細谷)そうですね。

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