今後のトランプ政権の外交はどう変わるのか?

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月8日放送)に上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘が出演。トランプ政権の今後の外交ついて解説した。

アメリカの国務長官が北朝鮮高官との会談を突然延期

アメリカのポンペオ国務長官はニューヨークで8日に予定されていた、北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長との会談を突然延期した。理由は明らかにされていない。「検証可能な形での非核化」を求めるアメリカと、「制裁解除」を強く要求する北朝鮮との間で対立が解けず、北朝鮮側が中止を申し入れた可能性がある。

飯田)5日に「会談をやる」と正式に発表したばかりでしたが、延期です。これは穿った見方ですが、中間選挙で下院を落としてしまい、国内政治がなかなか動かないなかで「外交で強硬に出るのでは」と言われていましたが、その証明のような気がします。

前嶋)これだけでは、まだ何とも言えません。そもそも北朝鮮とアメリカは、この前まで本当に戦争直前でしたからね。

飯田)去年のいま頃はそうでしたよね。

前嶋)それが現在では話すようになって来たのだからいいとは思うのですが、腹の探り合いですからね。何があって「話をするか止めるか」ということは常にあるから、その状況だと思います。

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選挙集会で演説する米国のトランプ大統領=2018年10月22日、アメリカ・ヒューストン 写真提供:時事通信

来年の新議会以降にトランプ外交が大きく動く

前嶋)トランプさんが考えていることは「内政が動かなければ外交でポイントを上げて行こう」です。自分が優先的に動ける方でポイントを上げたい考えが頭にあると思います。それを考えると、北朝鮮の話も「アメリカにとって、これだけの成果を上げたよ!」と人々に言いたい気持ちが常にトランプさんの方に出て来るでしょうね。
特に、来年以降の新議会になってからかもしれません。まだ選挙が終わったばかりですからね。

飯田)議会が新体制でスタートするのは来年1月からですね。

前嶋)これからのトランプ政権1期目の最後の2年間は、議会がもめて、トランプさんがそのイライラを外交に持って行く。「日本や北朝鮮、中国はどうなるのか!?」みたいな話になるかもしれませんね。

ペンス副大統領の発言の真意

飯田)外交の話ですが、先月の頭に、ペンス副大統領がハドソン研究所で演説したのがかなり話題になっています。中国に対して、かなり厳しくいくという姿勢は変わらないですか?

前嶋)微妙なところですね。ペンスさんの演説は、中間選挙の前ですからね。10月頭の段階では「11月の中間選挙まで、どんなことがあっても中国に厳しく行く」というタイミングなのです。

飯田)あのタイミングはそういうことなのですね。

前嶋)絶妙なタイミングです。国内で例の最高裁判事の件でもめた直後にパッと出しました。ずっとタイミングを待っていて、10月頭が最後のタイミングだと考えたのでしょう。そこで出して、基本的な路線は中国に厳しいですが、これも条件付きだと思います。中国とは安全保障の問題になっていて、ハイテク覇権争いということで話が大きくなるけれど、貿易戦争のなかでアメリカ経済に大きく影響が出て来たら、少しずつディールしていく可能性はありますね。それもアメリカ国内のトランプ支持者がどう思うかを見ながら、中国側にできるだけ多く妥協させる。「中国はやり方を変えろ」というメッセージですから、変えさせる案をいくつか出させる感じかもしれません。しかし、基本路線は「知的所有権は絶対に悪用や軍事転用させるな」ですね。

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米中関係~安全保障と貿易を切り離していく可能性がある

飯田)中国側としては、実際盗んでいるのもある意味で国有企業。それを使って何か作っているのも、国有企業。取り締まるに取り締まれないですね。

前嶋)その辺が、根本的に難しいところです。中国はどんどん大きくなっていて、ハイテク覇権争いでもライバルです。安全保障の話と貿易の話を来年以降は切り離して行く可能性があります。貿易のところはある程度妥協するけれど、知的所有権については妥協しない。中国側も「嫌だ」と言うようなやり方になって行く。でも、アメリカのなかの安全保障コミュニティはできるだけ強く推したい。そして、貿易の部分である程度関税を変えたとしても、ポイントは中国に対する厳しい制裁と考えているのです。

飯田)中国と対峙する米中関係のなかで日本を考えると、対中国ということでは、ある意味でトランプさんと与しやすいのですか?

前嶋)そうですね。ただ、一方で日本も、この間安倍総理が日本の首相として久し振りに中国に行きました。アメリカとの関係も最重視しながら、でも中国とも付き合う。そしてその後すぐにインドのモディさんと会ったり、なかなか上手い外交だと思います。
「中国に取り組まれないように」とか、いろいろなことを考えながら動いて行くのです。そのなかで、トランプさんとしては日本と中国が近付くのがいいかどうか、という議論がいろいろありますが、あちらも分かっているのではないでしょうか。トランプさんと安倍さんの関係のなかで、日本は中国と喧嘩していても仕方がない、ということでしょう。

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笑顔で会談するトランプ米大統領(右)と安倍首相=2018年9月26日、米ニューヨーク(共同) 写真提供:共同通信社

日本へ向けてアメリカは本気で交渉を行って来る~複眼的な観察が求められる

飯田)来週の頭の12、13日にペンス副大統領が来日して、安倍総理と会談します。これはやはり貿易の話が1つメインとなりますか?

前嶋)北朝鮮や中国に関する安全保障の話がまずあって、貿易もそうでしょうね。貿易は基本的に例のTAG交渉に移って行きます。「麻生・ペンス」から「茂木・ライトハウザー」に移るわけです。日本としてはなるべく引き延ばして、アメリカからの追求を上手く誤魔化したいところですね。

飯田)自動車関税とか言ってくる、あの辺ですね。

前嶋)TAGをやっている間は自動車の話は出て来ないようですが、アメリカの本丸は自動車ですから、その辺が難しいと思います。

飯田)「TPPに戻る」みたいな話を今年の頭の、ダボス会議に行く前くらいに言っていましたよね。

前嶋)あれはトランプさん的には「ダボス会議に行くから、みんな注目してね」というPRメッセージです。実際に我々は注目しました。実はトランプ・マジックだったのです。実際は何も考えていなくても、「とりあえずこれを言えば世界は注目する」という考えです。

飯田)TAG交渉はなかなか一筋縄で行かないですか?

前嶋)これは日本としては難しい。アメリカが本気で来ますからね。メキシコとの新NAFTAや、米韓FTAの見直し、中国とは貿易戦争。残すは日本だけですよね。だから、次は日本。そういう流れです。

飯田)NAFTA見直しのなかに、「もし中国とメキシコがFTAを組んだりしたら許さない」という条項が入りましたが、あれが日本にも要求される可能性がありますか?

前嶋)あります。あの条項が入ったということは、アメリカはかなり本気で中国と戦うことを考えているわけです。

飯田)すると日本としてはRCEP交渉がどうなるかですか?

前嶋)そこですね。それが難しいところです。アメリカと中国の関係、特に貿易の話がどう動いて行くか睨みながら、RCEPの話も日本としては動かなければいけません。本当にいろいろと複眼的に見る必要があるのが、日本の外交でしょうね。

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