番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょう12月1日は「映画の日」。今回は、傷んだり劣化したフィルムやビデオを修復、家族の貴重な思い出を甦らせているフィルム修復師さんのグッとストーリーです。
紅葉の名所で知られる京都・北野天満宮。そのすぐそばに、フィルムやビデオの修復を請け負う会社・「吉岡映像」があります。そこで小型ルーペを片手に、お客さんから預かった昭和のフィルムを1コマ1コマ丹念に点検しているのが、吉岡博行さん・63歳。この道20年のフィルム修復師さんです。
持ち込まれるのは、大正から昭和初期に使われていた9.5mmから、家庭用フィルムとして普及した16mm、8mm、VHSビデオテープなど様々。
「最近、昭和30年代に撮った家庭用フィルムが、急に数多く送られて来るようになりました。放っておくとどんどん劣化が進んで、家族の貴重な思い出が消えていくので、まさに時間との戦いなんですよ」と言う吉岡さん。急に持ち込まれたものでも、劣化が早いものは緊急病院のように、優先的に修復。再び映写機にかけられる状態に戻し、DVDにダビングしてから、お客さんのもとへ返送します。
修復のポイントは、年月とともに変形したフィルムをできる限り「平ら」にすること。そうすると映写するときピントが合うのです。従来はフィルムに圧力をかけ、平らにしていましたが、吉岡さんが使っているのはなんと「アイロン」。奥さんのものを借りて、ずっと使っています。
「フィルムは、トリアセテートという酢酸繊維素(さくさんせんいそ)でできています。繊維ならアイロンが使えるんじゃないか? と試してみたら、うまくいきました」
波を打って曲がったフィルムに、アイロンで100度近い熱を加えて押し伸ばす吉岡さんの修復方法は、温度が2・3度高いとフィルムが伸び過ぎて歪んでしまいます。アイロンをかけるのは、貴重な家族の思い出が詰まったフィルム。毎回、緊張が走りますが「限界点で勝負しています」と言う吉岡さん。
13歳から8mmカメラの撮影を始め、映像プロダクションに入社。フィルム時代からデジタル時代までずっと映像撮影の仕事を手掛けて来た吉岡さん。フィルムの扱い方や、修復の技術も独学でマスター。その技術を人の役に立てようと、2008年、フィルム修復を専門に手掛ける「吉岡映像」を設立しました。
「修復するフィルムは1本1本状態が違うので、機械ではなく全部手作業。常に真剣勝負です」
2004年、兵庫県北部を豪雨が襲ったとき、かつて兵庫の写真館で働いていた吉岡さんは心配になり被災地を訪れると、あまりの惨状にがく然。何か役に立てることはないかと、「水に浸かった写真やフィルム・ビデオを修復します」というチラシを避難所に貼って、無料で作業を行いました。
「被災した人に、お金の話なんかできませんよ」と言う吉岡さん。以来、水害や地震災害が起こるたびに、被災地へ足を運ぶようになりました。
2011年3月の東日本大震災のときも、福島へ赴きました。実は、震災前に福島県から「県民が集めた昭和のフィルム550本を修復して、DVDにしてくれませんか?」という依頼があり、その作業を進めている最中に震災が起こったのです。
修復とダビングを済ませた5月、現地へ行って被災者にDVDを手渡すと、身内を亡くした人も多く、亡くなった家族が写っているDVDを見て、泣きながら感謝する人も多かったそうです。
今年洪水に襲われた岡山県や広島県の災害に対して、いま吉岡さんの作業場では、特に大きい被害を受けた岡山県・真備町の被災者から預かったビデオテープ60本が修復を待っています。吉岡さんの高度な技術は海外でも評判になり、最近はハリウッドから昔の映画のフィルムや、外国から、国家的資料の入ったマイクロフィルムの修復まで依頼されるようになりましたが、あくまで家族の写ったフィルムの修復が優先。吉岡さんは言います。
「これから先、修復の必要なフィルムがどんどん出て来ます。後継者も育てないといかんし、手が動くうちは、死ぬまでこの仕事をやらないかんでしょうね」
八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50
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