番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、沖縄県が誇る「首里城」の将来の修復工事に備えて、地元産の木を長年かけて育てている団体の、副会長さんのグッとストーリーです。
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世界遺産としても有名な沖縄県の「首里城」(写真提供:首里城公園友の会)
かつて沖縄に存在した、琉球王国。中国と東南アジアを結ぶ中継貿易で繁栄しましたが、その政治・文化の中心だったのが、14世紀に造られたとされる「首里城」です。
しかし、かつてあった首里城は沖縄戦の際に破壊され、戦後、城跡に琉球大学が建てられたため、一部の城壁や基礎部分を除き、首里城は完全に消滅してしまったのです。
その後、琉球大学の移転に伴い、首里城の再建計画が持ち上がり、80年代末に復元工事がスタート。当時の設計図などをもとに、92年、正殿などが昔のままの姿でよみがえりました。
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「首里城公園友の会」の副会長を務める 高良倉吉 さん(写真提供:首里城公園友の会)
復元にあたり委員を務め資料の考証を行ったのが、歴史学者で、かつて沖縄県の副知事も務めた「首里城公園友の会」の副会長。高良倉吉さん・71歳。高良さんは工事の際、衝撃的な事実を知ります。
「首里城の修復には“イヌマキ”という沖縄産の木が欠かせないんですが、修復に使える大きさのイヌマキが、沖縄県内に1本も見つからなかったんです。……1本も、ですよ!」
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首里城の修復に欠かせないイヌマキの木(写真提供:首里城公園友の会)
その理由は、戦争でほとんど焼き尽くされたイヌマキを、誰も新たに植えようとしなかったからです。
イヌマキは建物の天敵であるシロアリに非常に強く、沖縄の風土にも適しているので、かつての首里城にもイヌマキの木が使われていました。しかし成長が遅いため、何十年もかけて育てないと、柱や壁などに使える大きさにはならないのです。
高良さんは鹿児島や宮崎から使えるイヌマキを調達して、なんとか現在の首里城を完成させましたが、沖縄のイヌマキで復元できなかったことが悔しく、非常に心残りでした。
「このままでは50年後、100年後に大改修を行うとき、また同じことになってしまう。いまから自分たちの手で、イヌマキの木をたくさん育てて行こう」
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倒れたイヌマキ木の立てお起こし作業(写真提供:首里城公園友の会)
高良さんは93年、「首里城公園友の会」の会員に呼び掛け、国頭村(くにがみそん)のダム近くにある通称「やんばるの森」のなかで1,200本のイヌマキの植樹を始めました。以後、毎年2回「育樹祭」を行い、草刈りや肥料をあげたり、枝の剪定などを行っています。
このほか、台風で傾いた木を持ち上げて立て直したり、木の芽を食べる蛾の幼虫を駆除したり、イヌマキを育てるのは結構大変ですが、「作業のあと、オリオンビールの工場で飲む1杯が最高なんですよ(笑)」と言う高良さん。
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イヌマキの手入れ(枝打ち作業)のようす(写真提供:首里城公園友の会)
活動を初めて25年経ち、更地だった土地は森になりつつありますが、現在のイヌマキの大きさは3mから5m。建築材に使えるようになるまでには、まだまだ長い年月が必要です。
この「沖縄産イヌマキ」を使って改修した首里城を、高良さんの世代は見ることができませんが、ボランティアでこの活動を続けているのは50年、100年先の世代に「ウチナンチューの心のシンボル」を、できる限りオリジナルに近い形でバトンタッチしたいという思いがあるからです。
「貿易の中心地だった琉球王国は、アジアのなかでも最先端の文化を誇っていました。首里城で中国の皇帝の使者を、みごとな踊りや楽曲でもてなした、という記録も残っているんですよ」
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琉球大学の研究室にて(写真1列目、右側に座るのが高良さん)
そんな琉球の人たちのたくましさに惹かれて、沖縄の歴史に興味を持ち、歴史学者になった高良さん。育樹祭に来た子どもたちに、沖縄や首里城の歴史を分かりやすく伝えることも大事な役目です。昔からよその文化を採り入れ、独自の文化を作ってきた沖縄の人たちですが、戦後間もなく生まれた高良さん自身も、米軍占領下の沖縄で、アメリカ文化の影響を受けて育ちました。
「ときどき気分転換に、車を飛ばしてイヌマキの森に行くことがあるんですが、途中でチーズバーガーとジュースを買って、それをかじりながらボーッと森の景色を眺めるのが好きなんです。私が子どもの頃は、憧れの食べ物だったもんですから……」
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イヌマキの手入れ作業のようす(写真提供:首里城公園友の会)
八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50