【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第600回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、大ヒット公開中の『麻雀放浪記2020』を掘り起こします。
昭和の大傑作を大胆にアレンジした、平成最後のセンセーショナル・コメディ
昭和の大小説家・阿佐田哲也の大傑作「麻雀放浪記」。1984年にイラストレーターの和田誠の演出により映画化され、さらに大胆なアレンジと解釈を加えてリメイクされたのが『麻雀放浪記2020』。35年の時を経て、平成最後のもっとも危険なセンセーショナル・コメディとして蘇った本作が、再び話題となっています。
そもそも映画業界では、何かと物議を醸し出していた本作。2020年の東京オリンピックが中止になってしまった…というストーリーが原因で政治的圧力がかかったとか、公開前のマスコミ試写は一切行わないとか、何やら不穏な(?!)前評判もあり、そのきな臭さに、むしろ期待を煽られている部分も多々ありました。
そこにダメ押しのように飛び出したのが、出演者のひとりであるピエール瀧被告逮捕というニュース。一時は公開そのものが危ぶまれる事態にもなりましたが、様々なスキャンダルを乗り越え、4月5日全国公開となりました。
出演者による不祥事を受けて、映画やドラマの公開・オンエアを中止・延期する動きが高まっている昨今の動向。場合によっては、キャストを差し替えて再撮影・編集のうえ、公開・オンエアするケースもあります。そんななか、公開自粛ムードが広がる現状に一石を投じるかのように、ピエール瀧被告の登場シーンをカットせず、当初の予定どおり劇場公開に踏み切った配給元である東映の“決断”は、おおむね好意的に受け取られたのではないでしょうか。
マスコミ試写は行わないものの、東映は関係者にムビチケ(映画前売券)を配布。私の手元にも、公開決定の記者会見後にプレス資料とムビチケが届き、公開直後の映画館で本作を拝見しました。
主人公の“坊や哲”が、第二次世界大戦の焼け跡が残る1945年の東京から、オリンピックが中止となってしまった2020年の東京・浅草にタイムスリップしたことから始まる『麻雀放浪記2020』。
原作小説も前作の映画も、昭和の“大傑作”。諸々の“事件”を抜きにしても、前作をぶっ壊す勢いの、あまりにもアバンギャルドで支離滅裂な展開には驚愕の連続。それでも、これでもかと言わんばかりのブラックユーモアの応酬の底辺に流れているものが、原作&前作へのほとばしる愛情とリスペクトだということも見逃せません。
そして何よりも痛感したことは、やっぱり映画は人に観てもらって初めて“映画”として成立するということ。全国50スクリーンと公開規模は決して大きくないものの、蓋を開けてみれば想定を上回る観客動員数を記録。その一方で、公開の異議を唱える声も多く届いているとか。
映画の出来具合に対する賛否も含め、観客の“声”をしっかりと受け止めることも、映画の持つ意義なのではないか。そんなことを改めて考えさせてくれる“映画体験”でした。
麻雀放浪記2020
2019年4月5日から全国ロードショー
原案:阿佐田哲也(文春文庫刊)
監督:白石和彌
脚本:佐藤佐吉 渡部亮平 白石和彌
プロット協力:片山まさゆき
主題歌:CHAI「Feel the BEAT」(Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:牛尾憲輔
コミカライズ(上・下巻/画:清水洋三/近代麻雀コミックス・竹書房)
オリジナルサウンドトラック(牛尾憲輔 /LPレコード & 配信 アルバム)
出演:斎藤工、もも(チャラン・ポ・ランタン)、ベッキー、的場浩司、岡崎体育、ピエール瀧、音尾琢真、村杉蝉之介、伊武雅刀、矢島健一、吉澤 健、堀内正美、小松政夫、竹中直人
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
公式サイト http://www.mahjongg2020.jp/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/