コミュニケーションで重要な3つのパターンとは?
公開: 更新:
「メディアリテラシー」ではフリーアナウンサーの柿崎元子が、メディアとコミュニケーションを中心とするコラムを掲載している。今回は繰り返しの効果について解説した。
【親交を深める食事会を企画】
海外に赴任していた友人から連絡が来て、以前よく食事にでかけた3人で再び会おうという話が持ち上がりました。A君は入社後3年でニューヨークに赴任し、当初は英語も話せませんでしたが猛勉強し、いまでは独立さえ考えている優秀な人物です。B先輩は以前A君の上司でした。日本で小規模ながら会社を立ち上げ、毎年事業を拡大しています。
食事会の日程は割合すぐに決まり、何時に集まるかという点についてSNSでのやりとりが始まりました。私は「食事の前に寄るところがあるのでゆっくり始めてほしい」と希望を言い、B先輩は「子供がいるので早めに帰宅したい」と言いました。A君は「ふたりに合わせる」という返事だったので、スタートを18時ぐらいでどうかという結びで、やりとりは一旦終了しました。
帰国が迫って来たA君は、3人のグループSNSを作成。一気に3人で連絡を取れる形にしてくれました。そして「柿崎が寄り道して来るから19時半ごろからにしよう。場所は予約しました」という文章が送られてきました。私は「あれ?」と思いました。確か18時になったはず…そこで私は、話が違うじゃん! と言う気持ちで、「18時にしようと決めたよね」と先日のやりとりの画面をコピーして、わざわざA君個人に転送しました。すると、「ごめん忘れていました」「でも自分、非難されてます?」との返事が…。
「あー、やってしまった」…私は頭を抱えてつぶやきました。
【こちら言いましたよね+転送の失敗】
私はいくつかの失敗を犯しています。やらなければいけないことをやらず、してはいけないことをしてしまっています。考えや行動を振り返ってみましょう。
まず、確認を怠りました。最初のやりとりはLINEでそれぞれと1対1でしていたこともあり、会話のレベルと同じように「話しっぱなし」にしてしまいました。またね! とスタンプを送っておけば、会話は終了しても体裁はおかしくありません。しかし、できるだけ早い時点で時と場所を記載したメールを2人に送り、それでよいか確認するべきでした。時間の経過は記憶を薄れさせて行きます。1週間以上も確認せずに放置したことが間違いでした。
チャットはすぐに返事ができることがメリット。一言「あとで連絡する」と言えば問題は起きずに済んだのに、何も返さずそのままにしていたことは良くありませんでした。そして極め付きの失敗は、相手を非難するようなメールを送ってしまったことです。実際は「18時にしようと決めたよね」と前回のやりとりをコピペしただけです。でも受け取った側の感覚は以下のようだったと思われます。
「18時にしようと決めたよね。ほら、そのときのやりとりをコピーしたから見てよ。この通り話したよね。忘れたの? 私は言ったよね、だから悪くない。忘れたあなたが悪い」と。
【文字が示す感情】
「こちら言いましたよね」…この言葉は、自分は悪くないと相手を非難しており、証拠まで突き付けるわけですから、まるで犯人捜しをしているかのようです。言葉や文字が示す「感情」には大きなトゲがあります。勢いでメールを書いていたりすると、そのときの感情が文章に出てしまうのです。
また、チャットの機能は会話をさかのぼって見直すことができます。つまり「記載」した→「証拠」が残るのです。だから「言ったよね」「見たよね」「知っているよね」など、自分を守るために非がないことを相手に伝えたくなってしまいます。会話は互いの顔も見えた上で、言葉をキャッチボールするので「感情」がわかりますが、対面で自分を正当化する言葉、「言いましたよね」はなかなか使いにくいはずです。怒っている場面を想像してしまいます。「こちら言いましたよね」+転送の形は避けましょう。
ではどのように言ったらよいでしょうか。「前回◯◯とおっしゃっていたかと思いますが…」「私の記憶違いかもしれませんが…」など、自分にも非があるとする話し方の方が波風は立ちにくいですね。小さなボタンの掛け違いが、大きなビジネスのチャンスを失うことにつながらないよう気を付けましょう。
【繰り返すことの重要性】
今回、確認すれば防げたかもしれないと言いましたが、確認の手段として「繰り返す」手法が有効です。学校の授業でも、先生が「ここで大事なのは◯◯です」「きょうの話で重要なのは◯◯です」と何度も繰り返し話してくれました。また、私たちは宿題をすることで忘れないことも経験則で知っています。
子供に限らず、私たちの理解力には限界があり、1度だけ言ってすべてを理解することは難しいでしょう。何事も反復し、強く植え付けられることにより徐々に学んで行くのが普通です。ですから話し手は、手を変え品を変え、単調にならないように工夫して、相手に理解を促すことが重要です。
ある意見を話す際には、例えば3つのパターンで話してみましょう。
1.振り返り
どうしてその意見を言うのか理由を話します。振り返りとしてここまでのプロセスを話すと、最終的にもう1度その意見に行きつくことができます。
2.具体事例
その意見を具体的な事例で話しましょう。「先日こんなことがありました」と続ければ、よりわかりやすい形でその意見を示すことができます。
3.第三者の話
その意見について「別の人は違った視点で見ている」と、別の角度からの意見を取り入れながら、本来の意見を見直します。
このような3つのパターンを使って、ある意見を繰り返し、聞いている人に刷り込むことができます。手を変え品を変え「繰り返す」とはこのような手法を言います。
確認や繰り返しにはそれなりに時間がかかります。効率性を考えると無駄な時間のような気がして、私はどうしても削ろうとします。しかしこのプロセスこそが「伝わる」ことや「理解する」ことに必要であると考えると、省くことはできない作業なのだと実感しました。
久しぶりの友人との食事はとても楽しいものでした。私は彼らに繰り返し、今回のことをあやまろうと思っていましたが、心の広い彼らは笑って許してくれました。
連載情報
柿崎元子のメディアリテラシー
1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信
著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
Facebookページ @Announce.AUBE