いまさら聞けないビジネスマナー
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「メディアリテラシー」では、フリーアナウンサーの柿崎元子が、メディアとコミュニケーションを中心とするコラムを掲載している。今回はコミュニケーションの手段「ビジネスマナー」について解説する。
【名刺の扱いってどうするの?】
「どうも~ご無沙汰しています。お元気そうですね。あ、実は私、先日部署が変わりまして…」
久しぶりに取引関係のオフィスに伺った際のこと。1人の若い男性が近づいて来ました。異動があったらしく手には新しい名刺を持っています。
私:「そうなのですね、お忙しくなりますね」
営業マン:「がんばっていますよ。新しい部署の名刺をお渡ししますね。ついでに私のチームの上司と同僚をご紹介しますね」
1.もらった名刺 どうする?
3人(複数)の方と1度に名刺交換するシチュエーションは日常茶飯事です。最初の1人と交換したあと、その名刺をみなさんはどうしていますか? 名刺入れの間にはさんだり、テーブルの上に置いて名刺だけ持ったり、どうしたらいいのかな? と思っていながら何となくその場をやりすごしているのではないでしょうか。
いまさら聞けないビジネスマナーの基本。今回は一応の正解をお知らせしましょう。
名刺入れを持った手の使い方がポイントです。名刺はその本人に準ずるぐらい重要なものだと言われて来ました。ということは、本人の前で名刺入れのなかに入れてしまったら「あなたは重要じゃない」と示しているようなものです。テーブルの上におきっぱなしというのも同様です。手に持ったまま私は次のような動作を行っています。
・名刺入れを親指と人差し指ではさむ
・右手の名刺を左手に持っている名刺入れの裏側に持っていく
・人差し指と中指でいただいた名刺をはさむ
・空いている薬指を中指に添えて補強する
これで1人目を通過します。もちろん通常の名刺交換であいさつをしっかり行うことが前提です。
次の方と右手で交換し挨拶を交わしたら、その名刺も名刺入れの後ろにもって行き、1枚目の名刺の下に重ねる。3人目の方も同じように2枚目の下に重ねる。手がつりそうなイメージですが、慣れるとそんなに難しくありません。そして、最後に重ねた名刺全部をそのまま名刺入れの上に乗せると終了です。最初に交換した人(多くはその場のなかで偉い人)がいちばん上に見える作法になります。
2.「○○してください」はNG?
次のいまさら聞けない例は、お願いする際の言葉づかいです。
“資料を3部コピーしてください”…この依頼の仕方は丁寧ですが語調が強く、命令に聞こえます。上から目線なのでお勧めできません。では、失礼にあたらないように依頼するにはどのように言ったらよいでしょうか。以下の例で考えてみましょう。
“契約書は今月末までに郵送してください”
新規にプロジェクトを始める際には契約を交わします。こんな会話も普通にしていると思いますが、お客様に対してこの文章では配慮が足りません。電話であれば紋切り型に聞こえるでしょう。顔を合わせて話していても、ちょっと嫌な感じを受けますね。依頼するときのコツは、ある言葉を足して疑問形にすることです。
“お手数ですが、契約書は今月末までにご郵送いただけますでしょうか”
だいぶソフトな印象になりました。疑問形にして相手にボールを投げ、相手にどうするか決めてもらう形に変わりますので、命令口調がやわらいで聞こえます。このように「お手数ですが」「恐れ入りますが」「失礼ですが」などの、動作の最初につける言葉をクッション言葉といい、日本語らしいビジネス用語です。
「おそれいります」を多用することで強い印象を残したのは、演歌歌手の大江裕(28)さんです。北島三郎さんのお弟子さんで、NHK紅白歌合戦にも出場したので覚えている方もいるでしょう。角刈り頭で和服を着こなし、口からは丁寧な敬語が出て来る28歳には想定外の驚きがありました。おじいちゃんっ子だったそうです。
さて、話は契約書の依頼にもどります。先のように“お手数ですが、契約書は今月末までにご郵送いただけますでしょうか”に対する、請け負ったという意味の言葉は何でしょうか。「承知しました」「かしこまりました」です。「了解でーす!」では、学生言葉の延長ですので気を付けましょう。
3.まちがった日本語
国会会期中です。大臣の言葉づかいがメディアで話題にのぼっており、改めて日本語の難しさや用法を考える機会となっています。口語で当たり前に使っている言葉を、いまさら違うと言われても簡単に直せないよと思われるでしょう。ただ、マナーや言葉遣いが時代によって変わって来るとは言え、次に挙げる言葉はどうしても頭に残ってしまうのです。
「ランチ、食べれたら食べてね」
「私が貸したDVD見れた?」
どちらも「ら」抜き言葉と言われるものです。「食べることができる」「見ることができる」を短くする際に、可能の助動詞「られる」で変換するべきところ、「ら」も省略してしまう形です。「食べられる」「見られる」というのが本来の日本語なので、「ランチ、食べられたら食べてね」「私が貸したDVD見られた?」が正解です。
可能と言えば、先日「韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はトランプ大統領に会えることができるでしょうか」とニュースでアナウンサーが言っていました。“会えることができる”とアナウンサーでも気づかない日本語の間違い。「会うことができる」とシンプルに言えばよかったのに、力が入って言葉を重ねてしまったようです。
最近実施した、外資系企業のベテラン社員向けのビジネスマナー研修。今回は、質疑応答で出て来た質問をもとにコラムを構成しました。新人の頃に教えられたことは時間が経って忘れてしまった…や、間違っているかなと思っていてもいまさら正解を聞けないという声がありました。しかし、多様化が進み、コミュニケーション手段もビジネスマナーも徐々に変化する時代になり、変化に対しては受入れなければならないでしょう。
SNSでの不適切動画の拡散から得る教訓もあります。私たちはその時代に醸成された慣習を受入れつつ、伝統的な感覚や人間としての礼儀を踏まえて、新しい時代の常識を作って行く必要があるなと感じるきょうこの頃です。
連載情報
柿崎元子のメディアリテラシー
1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信
著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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