番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

石窯でパンを焼き、いつも焼きたて・できたての商品を提供。行列のできるパン屋さんを創り上げた人がいます。その成功の陰には、2度も閉店を経験するという辛い時期もありました。

そんなご主人を、奥さんは何と言って励ましたんでしょうか？　焼きたての石窯パンに秘められた、温かい夫婦愛のストーリーをご紹介します。

※画像はイメージです

九州の南部・大隅半島に位置する、鹿児島県・鹿屋市。ここに、スペイン製とドイツ製の石窯で焼くパンが自慢のお店があります。「石窯パン工房・トリガル」。「トリガル」はスペイン語で「小麦」という意味です。

そのご主人であり創業者でもあるのが、秋山英男さん・61歳。実は英男さん、育ったのは東京・新小岩です。

「鹿屋市は女房のふるさとなんです。埼玉の店をたたんで、こっちに移って来ました」

高校卒業後、英男さんははじめ紳士服の店で働いていましたが、20歳のとき「自分で商売をしたい。食べ物で人を幸せにしよう」と思い、パン職人になろうと決意。修行中、友達の紹介で、当時東京の会社に務めていた美智子さんと知り合ったのです。

お互いに惹かれ合い、英男さんは美智子さんの両親を粘り強く説得して結婚。仕事先で嫌なことがあっても、美智子さんは笑顔で迎えてくれました。

「私がときどきグチをこぼすと、女房はこう言うんです。『自分で決めた道なんだから、最後までやり通そうね。途中で投げ出すようなら即、あなたとはお別れするから』」

そんなゲキを飛ばしつつ「でも、あなたはきっといいパン職人になれるわよ」と励ましてくれた美智子さん。そんな叱咤激励もあって、「30歳までに店を持つ」という目標を持っていた英男さんは、29歳のとき念願かなって、埼玉県にあるマンション1階の店舗を借りてベーカリーを始めました。味には自信がありましたが、お店はいっこうに繁盛しませんでした。

「住民はたくさんいたんですが、人の流れが駅の方に向かい、私の店はその流れと逆の方向にあったんです。しかも奥まった所だったので、わざわざパンを買いに来る人は少なくて…」

少しでも売上げを伸ばそうと移動販売も始めましたが、自転車操業が続き、結局5年で閉店。とり壊される店舗を見ていたら涙が出て来たと言う英男さん。「あの光景はいまも忘れませんね」。

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英男さんは借金を返すため、住んでいたマンションを売って心機一転、出直すことにしました。新天地に選んだのが、美智子さんの実家がある鹿児島県・鹿屋市です。

「長男がぜんそくにかかっていたので、空気のいいところに移ろうというのもありました。久々に行ってみるとバイパスが通って、人も増えていたんです。これは商売になるぞと」

英男さんはトラックの運転手をしながら家族を支え、再びパン店を開業する日を待ちました。鹿屋市に移って4年目、38歳のとき、近くの志布志市に新しいショッピングセンターやスーパーができ、「ベーカリー部門の店長」を募集していることを知った英男さん。「これだ！」とさっそく応募。

久々にパンを焼き始めましたが、何と1年経たずに撤退。英男さんは2度目の閉店を経験することになりました。パンの売り上げは上々だっただけに、英男さんの心にはモヤモヤが残りましたが、3ヵ月後、ベーカリー部門を再びやってくれないか？　という話が英男さんのもとに舞い込みます。

「だったら、私の店としてやらせてください！」

こうして、3度目のチャレンジをすることになった英男さん。地元の人たちに愛される店作りを心掛けた結果、客足も伸び、2011年に場所を移して現在の「石窯パン工房・トリガル」をオープン。石窯でパンを焼くと、遠赤外線の効果で水分を含んだまま短い時間で熱が通るので、焼き上がりがふっくらしています。

朝に行っても夕方に行っても、いつでも焼きたてのパンを提供してくれる「トリガル」は、たちまち行列店になりました。美智子さんは専務として、会計から販売まで英男さんをサポートしています。4年前、美智子さんが膠原病で倒れて入院したときは、毎日回復を祈りながら必死で看病しました。

「ここまで来ることができたのは、女房のお陰ですから」

いまは再び、夫婦でお店を切り盛りしています。そんな英男さんの現在の夢は……「味も売り上げも九州一のパン屋になって、みんなに笑顔になってもらいたいですね」

八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送　土曜　8:00-10:50