淡路人形浄瑠璃~ユネスコにも表彰された文化継承のアイデアとは?
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番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
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忠臣蔵・殿中の演目の様子
淡路島には江戸時代から伝わり、500年もの間、人々を魅了して来た伝統芸能があります。それが「淡路人形浄瑠璃」。
後継者難などもあり、一時は消滅の危機にあった郷土の宝を再び復活させた、淡路島の人たちの熱い思いをめぐるストーリーをご紹介します。伝統文化を守って行くために、島の人たちが考え出したシステムとは……?
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淡路人形座の外観(上)と客席(下)
淡路島の最南端に位置する、兵庫県・南あわじ市。この地に500年前から伝わる「淡路人形浄瑠璃」は、同じく人形を操る「文楽」より人形がひと回り大きく、舞台と客席の距離も近いので、より臨場感のある動きを楽しめます。3人の黒子が人形を操り、太夫の語りと三味線が舞台を盛り上げます。
江戸時代の最盛期、淡路島には40近い人形座がありましたが、新たな娯楽の出現で、昭和の初めには5つほどに減ってしまいました。そこに追い打ちをかけたのが「戦争」です。人を取られ、島の人たちも食べて行くので精一杯。淡路人形浄瑠璃は、消滅の危機に直面しました。
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戎舞(えびすまい)の演目
淡路島が誇る文化をこのままなくしてはいけないと、1964年に有志たちが資金を出し合って設立。活動を開始したのが、現在の「淡路人形座」です。1日4回、年間1300回を超える公演を行っています。
その支配人を務めているのが、坂東千秋さん・55歳。
「私が小学3年のころ、地元の子ども会の活動に人形浄瑠璃を採り入れ始めたんですが、それがこの道に入ったきっかけです。面白くなって、中3までやっていました」と言う坂東さん。
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動物の人形も非常に美しい
高校を卒業後、地元の会社に就職しましたが、ある日「淡路人形座が、若い人が足りなくて活動が難しくなっている。手伝ってくれないか?」という依頼を受けます。手伝いに行った坂東さんは、まるで生きているように人形を動かすプロの技に感動。休日に人形座を手伝い始めました。
しかし、休みを潰しての掛け持ちはさすがに体にこたえ、坂東さんは会社のほうを辞めようと決意。19歳で淡路人形座に入団しました。
「若いんだし、まあ何とかなるだろう、と思ったんです」。
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演目中の舞台の様子
人形浄瑠璃は「技は見て盗め」という世界。厳しい修行に耐え、人形遣いとして舞台に上がっていたある日、坂東さんに再び転機が訪れました。当時の支配人が定年を迎え、坂東さんに「後継者にならないか?」と声が掛かったのです。「これも人形浄瑠璃のためだ、やってみるしかない」と引き受け、29歳で人形座の運営一切を取り仕切る支配人へと転身しました。
「人形浄瑠璃と言うと、古くさいとか難しいとか、敷居が高いというイメージがあって、それをどう打ち破って大勢のお客さんに観てもらうか、それがいちばん苦労したことですね」
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演目『「玉藻前」道春館の段』
坂東さんが大切にしているのが「参加型」の企画です。お客さんに舞台裏を見せたり、実際に人形を動かしてもらったり、人形浄瑠璃を身近に感じてもらうための工夫は何でもやりました。
また課外活動の一環で、南あわじ市の小・中・高校に座員を派遣、子どもたちの指導も行っています。学校で指導を受けた生徒が人形座に入り、その座員がまた子どもたちを指導するというシステムは、文化継承の優良事例として、ユネスコからも表彰を受けました。
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太夫、三味線の並び
この育成システムで入って来た、人形遣いの吉田廣の助(ひろのすけ)さん・48歳はこう語ります。
「観光でいらっしゃるお客さんが多いんですが、これまで人形浄瑠璃に全然興味がなかった方が『よかったわ~! 想像以上やわ~!』と感激してくれると、やっていてよかったと思いますね。外国のお客さんも喜んでくれます。人の感情、優しさ、思いやりは万国共通ですから……」
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艶やかな衣裳が並ぶ
淡路人形座では、ヨーロッパ公演などの海外公演も積極的に行っています。支配人の坂東さんは言います。
「わがふるさとには、こんな素晴らしい伝統文化があるんだ、と地元の人たちに誇りに思ってもらえる淡路人形浄瑠璃でありたいと思っています。新しいことも採り入れながら、先人たちがずっと守って来たものを、これからも大切に継承して行きたいですね」
八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50