日米貿易協定合意~今回の合意は永遠に続くリーグ戦の一戦にすぎない

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月27日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。日米貿易協定が合意されたニュースについて解説した。

日米貿易協定合意~今回の合意は永遠に続くリーグ戦の一戦にすぎない

日米貿易協定交渉の最終合意を確認した文書に署名した安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領(アメリカ・ニューヨーク)=2019年9月25日 写真提供:時事通信

日米貿易協定合意~各業界の反応は

新たな日米貿易協定が合意されたのを受け、北海道の鈴木知事は26日、農林水産省を訪れ、農畜産物や水産物の輸出拡大へ支援などを求める要請書を手渡した。今回の貿易協定ではバターや脱脂粉乳の新たな輸入枠は見送られたが、牛肉と豚肉などの関税は段階的に引き下げられる。一方、経団連の中西宏明会長は貿易協定の最終合意について、「国内総生産(GDP)のおよそ3割を占める日米が、実質半年に満たない短期間でバランスのとれた合意に達したことを歓迎する」とコメントしている。

飯田)焦点となったのは自動車の関税。これは日本からアメリカに輸出する方についての関税、あるいは数量規制なども含めて、制裁関税25%を課すのか、なども焦点となりました。これについて日本自動車工業会の、トヨタ自動車社長でもある豊田章男会長がコメントを出しています。

 

豊田章男会長)この協定により、自動車分野における日米間の自由で公正な貿易環境が維持、強化されることを歓迎したいと思っております。回避の方向に議論が進んでいること自体は、日米両国のステークホルダーにとっては大変いいことだと思っております。

 

飯田)回避の方向にというのは、自動車への追加関税を25%かけるかという部分が回避されたということで、業界としてもホッと一安心というところでしょうか。

日米貿易協定合意~今回の合意は永遠に続くリーグ戦の一戦にすぎない

貿易協定は永遠に続くリーグ戦~これで終わるものではない

宮家)そうですね。バランスのとれた合意に達したことを歓迎と、これが基本だと思います。各紙1面トップで大きく報じてもらうのはけっこうなのですけれど、これは甲子園の決勝戦のように、「泣いても笑ってもこれが最後の一戦です」というものではありません。貿易交渉とは、永遠に続くリーグ戦なのです。国際交易が続く限り、問題は生ずるに決まっているのだから。そこには関係者がいるわけで、その人たちは貿易マフィアですよ。お互いに強みも弱みも全部わかっていて、何年かしたらまた問題が必ず生じますから、交渉は続きます。日米は70年代、80年代に散々やって、90年代もやった。そのうちに中国の問題が出て来たから、少し陰に隠れていただけです。その日米貿易交渉今になって再開されただけですから。新しいリーグ戦がまた始まっただけで、これで終わりではないのです。これでも私は2年間だけ貿易交渉をやったことがあるのですが、私の経験から言って一方が100%勝ち、片方が100%負けるなんてことはないのです。大体は痛み分けです。引き分けは上出来なのですよ。そもそも、今回はひどいではないですか。アメリカが勝手にTPPから出て行って、腹いせに関税を上げるぞと喧嘩を売って来た。「ふざけるな、出て行ったくせに何を言っているのだ」と言いたいところです。でもこれも長いリーグ戦のなかではよくあることです。相打ちになった今回の結果は、上出来だったと私は思いますけれどね。しかも短期間でやっている、中国とは全然違うではないですか。

飯田)確かに、米中の交渉とは。

宮家)米中はもう何回やってもうまく行かないですよね。深刻ですから。日米の方は深刻だった時代もあるけれど、90年代がいちばんひどかったですよね。しかし、あれに比べたら早いし、お互いに手の内は良くわかっているから。

飯田)どこが譲れるかとか。日本はほとんどの市場を開放しているではないかと。

宮家)そうなのですよ。しかも中国と比べたら、いい意味で日本は、はるかにやりやすかったはずです、アメリカも。

日米貿易協定合意~今回の合意は永遠に続くリーグ戦の一戦にすぎない

トランプ米大統領(中央右)との再会談に臨む安倍晋三首相(同左)。左端は茂木敏充経済再生担当相。右端はライトハイザー米通商代表部(USTR)代表=2019年8月25日、フランス南西部のビアリッツ 写真提供:時事通信

貿易交渉の際に安保の話はしない

飯田)こういう貿易交渉の場面でよく新聞が書くのが、結局のところ日米安保もあるから日本はとにかく譲らなくてはいけない、みたいなことを言う人もいますけれど。

宮家)少し言い方は違うけれど、私も現役時代は日米安保との関係を常に考えていました。貿易の問題如きで、同じように、もしくはそれ以上に重要な安全保障の問題に悪影響が及ぶようなことは、あってはならないわけです。貿易の交渉をやっている人間にとっては、安保のことなんて関係ないですよ。安保をやっている人たちは別にオフィスがあって、専門の担当者もいるのですから。少なくともWTOでの交渉や、1対1のアメリカとの貿易屋同士の交渉では日米安保の話は絶対に出ません。そもそもそんな権限はないのだから。

飯田)お互いに権限もないし。

宮家)そういう発想をするとすれば、それは外務大臣、もしくは総理のレベルではあるかもしれません。

飯田)もっと上の、統合したレベル。

宮家)しかし日米は同盟国ですから、その部分についてはお互いにタッチしない。貿易は貿易で切り離してやらせて、絶対に日米安保の世界に悪影響が及ばないように、きちんとシールドしておく。それが当時も今も日本の基本的な立場だったと思うので、僕は安保も担当しましたけれど、貿易交渉が問題になったからといって、安保に影響があるなんて思ったこともないですね。関係があるようでいて、実は遮断しなくてはいけないし、実際に遮断されていました。

飯田)その遮断するメリットを、日米が共有していたと。

宮家)少なくとも上の方ではね。貿易屋は貿易屋で安保のことは知らないし、安保屋は安保屋で貿易のことなんて知らないけれども、組織の上の大臣レベル、総理のレベルまで行けばもちろんそうです。

飯田)中国とアメリカの関係は、安保も含めて扱うからまったく違うと。

宮家)安保を含めた覇権争いの一環として、たまたま貿易の側面が出て来て、しかもただ黒字がどうの、赤字がどうの、という話ではない。中国共産党が経済を政治的に仕切っている世界での米中貿易問題だから、体制の在り方まで直結してしまうのでもっと深刻です。それに比べれば、日米は相手の出方もよくわかっているし、どこが落としどころかもわかっているし、そしてお互いに選挙があるでしょう。そうしたらある程度、農業では色をつけなくてはいけない、などと落とし所が見えてくる。上手くやったと思いますよ。

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