香港の混乱についてヨーロッパが中国を批判できない理由

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月20日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。警察とデモ隊の衝突が続く香港理工大学の現状から、国際社会における中国の今後について解説した。

香港の混乱についてヨーロッパが中国を批判できない理由

香港理工大前の路上で、大学に突入しようとする警察車両に火炎瓶を投げる若者たち=2019年11月17日夜、香港(共同) 写真提供:共同通信社

香港林鄭月娥行政長官が区議会選挙の延期を示唆

香港の林鄭月娥行政長官は、警察とデモ隊の衝突が続く香港理工大学の現状について、平和的に解決するにはデモ隊が自ら投降しなければならないと話した。また24日に予定されている区議会選挙については、デモ隊の対応次第で延期もあり得ると示唆している。

飯田)自ら投降しなければと言いますが、自ら出て行くと催涙弾を浴びて、投降できないという状況のようです。

佐々木)ついに大学のなかにまで入ってしまった。この状況についていろいろな人の現場の記事を読むと、警察が相当挑発して暴力的なことをして、それに対抗せざるを得なくなったデモ隊側が、若干暴力的な行為に入り始めているという状況のようです。いまの時代はメディアやSNSで、情報が拡散するではないですか。中国香港行政側とデモ隊側で、「どちらが暴力的に見えるか」という戦いのようなことをやっています。いまのところ海外の声を含めて見ると、デモ隊側への同情の声が圧倒的に多いです。

香港の混乱についてヨーロッパが中国を批判できない理由

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

中国経済に依存しているヨーロッパは中国に対して批判できない~かつての冷戦時代とは違う

佐々木)ここで考えなくてはならないのは、国際社会、国際秩序(ワールドオーダー)と言われる国際社会が、どう介入し得るのか。現状は誰も介入していません。ウイグルもそうですが、中国の内政問題に介入していません。なぜ介入できないかと言うと、中国経済が圧倒的に強いからです。EUのメルケルさんやマクロンさん、フランスやドイツ、イギリスという、かつてのリベラルの世界秩序を担った国は、ほとんど何も声をあげていません。それはおかしな話で、天安門事件のときと違います。ヨーロッパは中国経済に依存しきっているところがあり、ドイツは典型ですよね。車の輸出先は大半が中国という状況です。中国とアメリカの間で新冷戦と言われていますが、かつての冷戦時代のソ連対アメリカの構図とは全然違います。ソ連は50年代以降の経済が脆弱で、いつ転んでもおかしくないところに追い込まれていました。当時のアメリカとしては、放っておいてもソ連は自滅すると。自滅を押していればなくなって行くから、大丈夫だろうという発想でした。いまの新冷戦は放っておいても消えてなくならない、圧倒的な経済力が中国にあります。仮に経済と世界秩序が分断されて、中国とそれ以外に分かれてしまっても、中国は14億人いますから、国内市場だけでも十分成立する経済力を持っています。この強大な経済力は、もうすぐGDPでアメリカを抜くと言われていますが、そういう国に対して国際社会がどのように向き合って行くか、とても難しい問題です。

飯田)価値観がまるで違いますよね。ヨーロッパは価値観を大事にしています。基本的人権の尊重や法の支配など、商売のためであったらそういう原則も捨ててしまうのかという話ですよね。

香港の混乱についてヨーロッパが中国を批判できない理由

日中首脳会談 中国の習近平国家主席中国の習近平国家主席(右)と握手する安倍晋三首相=2019年6月27日午後、大阪府大阪市北区 写真提供:産経新聞社

ソフトパワーがないことが中国のイメージを悪化させて行く

佐々木)普遍的なリベラリズムと言っていたのに。そうは言ってもSNS上の戦争で、イメージ的に中国政府は負けつつあります。ウイグルに関してもニューヨークタイムズが、中国政府の内部文書400ページを、中国政府の関係者から入手してスクープを出しました。こういうことによって「中国はやばいよね」というイメージが積み重なって行く。中国は対外的に「どう見られるか」を気にしています。太平洋戦争が終わり、アメリカが日本にやって来て、日本はアメリカに対して不快感を持ったかと言うと、持ちませんでした。なぜならアメリカの持っている文化、ハリウッド映画などに憧れたからです。これを「ソフトパワー」と政治学者は言いました。しかし、中国はソフトパワーを持っていません。これが徐々に中国のイメージを悪化させて、ボディブローのように効いて来るのではないでしょうか。

飯田)中国側としては、莫大なお金をかけて映画を撮ることは可能ですが、そこで表出される文化的なイメージや豊かさが欠けているのです。

佐々木)中国に移住したくならないし、どちらかと言うと、行ったら逮捕されそうなイメージがあります。この前も北海道大学の教授が逮捕されました。

飯田)未だに日本人は、10人近く拘束されています。

佐々木)そういう強権的なイメージがなくならない限り、長い目で見るとアメリカがかつて持っていた力は持ち得ないし、21世紀半ばのパックス・アメリカーナのような、パックス・チャイナが来ることは難しいと思います。いまはその狭間で揺れ動いているというところだと思います。

飯田)その強権をやめたら、中国共産党の一党独裁がどうなるかという話になります。

佐々木)中国の広大な大陸、14億の人口を維持するためには、かつての古代王朝の時代からずっと政権維持に苦労して来た歴史があり、そのための強権であるというロジックがあります。民主化した瞬間に、国が分裂して春秋時代のようになり、あちこちに軍閥が誕生して混乱する可能性もあります。中国がどう国と向き合い対処して行くかは、21世紀の最大の課題となりつつあります。

飯田)それを最も近くで直面している民主主義国家は、日本ですね。

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