コケ専門家・伊村智~南極や北極では、陸上植生のほとんどが“コケ”
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黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に、国立極地研究所・副所長であるコケの専門家、伊村智が出演。コケの専門家になった経緯について語った。
黒木)今週のゲストは国立極地研究所・副所長で、コケの専門家の伊村智さんです。国立極地研究所ということは、南極・北極の研究をするというところですよね。
伊村)そうです。もともとは国立だったのですが、いまは法人として独立しており、文科省の下にある研究所です。設立時の南極の研究から始まって、近年は北極も加え、地球の端っこの自然科学を扱う研究所になります。
黒木)端っこですか?
伊村)北の端、南の端、あとは高い山の上など、地上の極端な環境での自然現象を研究するところです。
黒木)コケの専門家でもいらっしゃいますが、コケ以外の物理学や生物学、環境などの観測実験もやっていらっしゃるのですか?
伊村)上の方から言うと、オーロラの研究者もいらっしゃいますし、風、大気、雪、氷、海、ありとあらゆる自然現象を研究するところと思っていただければいいです。
黒木)極地の、ありとあらゆるものを研究していらっしゃる。伊村さんは南極、北極に何度も足を運んでいらっしゃるけれど、コケに興味を持ったからではなく、たまたま職場として働かれたというお話を伺ったのですが。
伊村)私は広島大学を卒業しました。森の研究をしようと思って大学院に進んだのですが、そこはコケの専門家を育成する大学院でした。やっているうちに「コケも面白いな」となって、学位はコケで取りました。
黒木)どんな研究をされたのですか?
伊村)コケの増え方ですね。コケは繁殖力が強くて、有性生殖しなくても無性的に増えてしまうのです。人だったらポロポロと指先から細胞の塊がこぼれて、それが新しい人に育つような増え方をするので、放っておくとどんどん増えてしまうのですよ。
黒木)それは、増えていいものなのですか?
伊村)コケにしてみればいいですよね。人にとっては迷惑かもしれないですけれど。そういうコケの増え方が面白かったので、仕事にしてしまいました。南極や北極では、コケが陸上植生のほとんどなので、コケの研究者が必要なのです。私はたまたま先輩に引っ張られて、極地研に職を得ました。それからは南極、北極のコケを中心に仕事をしています。
黒木)南極には何回くらい行かれたのですか?
伊村)トータルで7回行きました。
黒木)1回行くと、どれくらいの期間行かれるのですか?
伊村)短くて4ヵ月。長いと、1年4ヵ月。
黒木)そんなに長く。それは研究ですものね。
伊村)3週間程度、荒海を渡って。
黒木)どんな荒海なのですか?
伊村)波のうねりが10メートルとか、それ以上になるのではないですかね。だから、とても大きい船なのですが、ザブザブと揺れます。最近は新しい船になって、そこまで揺れないと言われますが、海の荒れ方が普通ではないので。
伊村 智(いむら・さとし)/国立極地研究所・副所長
■1960年生まれ。栃木県宇都宮市出身。広島大学卒業。
■第36次越冬隊、42次夏隊、45次越冬隊、49次夏隊、イタリア隊、アメリカ隊に参加。第49次日本南極地域観測隊では総隊長(兼夏隊長)。
■北極、南極の陸上生物多様性と、繁殖生態に関する研究。
■南極湖沼中の大規模なコケ群落である「コケボウズ」をはじめ、蘚苔類を研究。国立極地研究所とコケボウズ
■南極や北極などの極地で、物理学や生物学など様々観測・実験・総合研究を行う機関。
■伊村副所長は、「コケ」の研究者。南極のコケを調査するため何度も観測隊に参加。南極の湖の海底に、コケなどが円すい形になった「コケボウズ」を発見。コケボウズと命名したのも伊村さん。
■南極大陸は気温が低いだけなく、空気中の水分が凍ってしまうので、利用できる水分も少なく、日照サイクルも異常なため、植物の生育には向かない。また南極の湖のなかは栄養が極めて乏しく、大型動物や魚はまったく生息していない。プランクトンもほとんどいない。その湖で「コケボウズ」が発見された。
■コケボウズは50センチ伸びるのに約1000年かかり、大きいものでは高さ80センチにもなる。似た環境でも生息しない湖もあるなど、生体に謎も多い。南極の一部地域でしか見つかっておらず、世界的にも例のない独自の生態系。
■コケボウズを構成しているのは、主にナシゴケ属のコケ。
ENEOSプレゼンツ あさナビ(12月2日放送分より)
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