ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月3日放送)に慶応義塾大学教授の松井孝治が出演。政策論争について解説した。
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衆院本会議で、新型コロナ特措法に基づく2020年東京五輪延期についての質疑に答弁を行う安倍晋三首相=2020年4月2日午後、国会 写真提供:産経新聞社
政策論争
日本の国会では与野党が対立しているだけで、踏み込んだ政策論争ができないと言われている。ここではその要因について、慶応義塾大学教授の松井孝治に訊く。
飯田)松井さんは、政策をきちんと国会で議論しなければいけないということを前々から訴えられていて、直近ではPHPの『Voice』や『政論』の5月号でもお書きになっています。コロナを目の前にしても「桜を見る会」の追及になってしまうのは、そもそもの建付けに問題があるのでしょうか?
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衆院予算委員会・集中審議で、全日空ホテルで開かれた「桜を見る会」前夜祭の領収書発行状況の調査結果を答弁する安倍晋三首相=2020年2月17日午後、国会・衆院第1委員室 写真提供:産経新聞社
すでに決定している予算・法案を野党はスキャンダルを追及して成立を遅らせるしかない
松井)日本の国会は限られた会期で、延長はできますが、通常国会は150日間です。予算は先日上がりましたが、そのなかでいろいろな予算を処理したり、今年(2020年)の場合は次にまた補正予算が来ますけれども、その法案を150日間で処理する。それが処理できなかったら、全部一旦リセットになるわけです。廃案と言います。国会に出る前に、政府がどのような予算・法案を出すのかを与党は議論しているわけです。もう全部、実は決定しているのです。野党からすれば、何のために国会で論争をするのかというと、成立を少しでも遅らせて、あわよくば廃案に追い込む。場合によっては強行採決という形で与党が強引に採決させることを、「横暴だ」と訴えることしかできないような状況になっています。どうしてもスキャンダルを追及したりして、「ときを止める」と言いますが、国会審議が紛糾して空転するという形に持って行く。あるいは審議拒否をして、欠席戦術に持ち込むという形になってしまう。本来は政策の中身について、野党はどういう対案を出しているのかという議論をしなければいけないのが、疎かになってしまうのです。今回の場合でいうと、コロナがこれだけ蔓延しているにもかかわらず「桜を見る会」の問題をやっているとか、あるいは森友・加計問題で自殺者が出てしまって、その手記が出たということになると、そこを追及するような形になってしまいます。
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衆院予算委員会で質問が終わった立憲民主党・辻元清美幹事長代行(左)へ安倍晋三首相(右)が閣僚席から不規則発言、審議は紛糾した=2020年2月12日午後、国会・衆院第1委員室 写真提供:産経新聞社
パイプを詰まらせて空転させるというビジネスモデルが伝統的にある~これを変えることが課題
松井)本来なら、それはそれで議会で議論はするけれど、大事なことは同時並行してやるべきなのです。しかし、どこかでパイプを詰まらせて空転させるという、ビジネスモデルと言うと言葉は悪いのですが、そういうものが伝統的にあるのです。いまの自民党が野党のときにも、そういうことがありました。それをどう変えるかは、大きな国会改革の課題です。
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新型コロナ特措法施行などについて会見で記者団の質問に答える安倍晋三首相=2020年3月14日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社
野党の追及に対する官僚のつくった答弁書による「官僚答弁」となってしまっている
飯田)スキャンダル追及や国会空転、あるいは質問を出すために野党が追及しようとすると、「これを聞きたい、あれを聞きたい、こういう資料を出せ」となり、霞が関がその対応でいっぱいになってしまう。永田町だけではなく、霞が関も込みで機能不全になってしまうということがありますよね。
松井)日本の国会の場合、特に「質問取り」と言って、「どのような質問を野党がするのか」という情報を事前に入手し、それに対する答弁書をつくって入念に準備するのです。他の国からすると、やり過ぎです。他の国はもっとディベートに慣れていますし、お互いが双方向で議論するということを、議会でも行っている国が比較的多いのです。しかし日本の場合、国会はあくまでも野党が疑問点を追及する場となってしまっています。官僚に対する負担が大きくて、連日連夜、徹夜状況で答弁書を用意している。逆に言うと、政治家の肉声が聞こえない。「官僚答弁」という言葉が定着しているように、国会の議論が活性化しないという問題があって、20年以上それをどうするかという議論をしているのですが、相変わらずこの50年変わっていないという状況ではないでしょうか。
飯田)そこをもう少し議論にしようということで、党首討論のアイデアが出たわけですよね。
松井)もうそれから20年経ちます。イギリスでは、「プライムミニスターズ・クエスチョンズ」というものがあって、毎週やります。しかも党首討論だけではなく、与党と野党の一般議員も質問できるわけです。そういうものを20年前に導入したのですが、いまはほとんどやっていません。野党からすると1日8時間、入れ代わり立ち代わり、首相に対していろいろな人たちが質問する方が、いろいろなものを追及するためには時間がたっぷりあるので便利なのです。閣僚を全部集めても、1日1問すら当たらない閣僚もいるのです。それを全部集めて、ただずっと追及するというモデルになっています。本当の党首討論というのは、そういうものに絡む野党に対して「そのようなことを言うなら、どんな対案があるのですか?」と議論するべきだし、イギリスはそうやっているわけです。ところが野党からすると、それが制度としてできても旨味がない。そのため、使われていないというのが現状ですね。