新型コロナウイルスの報道で問われる“メディアのあり方”
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月15日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。東京都が新型コロナウイルスに感染した軽症者が一時滞在するホテルを新たに借り上げたニュースについて解説した。
軽症者が一時滞在するホテル~東京都が新たに2棟借り上げ
東京都は14日、新型コロナウイルスに感染した人のうち、軽症者らが一時滞在するホテルを新たに2棟借り上げた。すでに軽症者が滞在している中央区のビジネスホテル1棟に加え、約1500室が追加されることになる。
飯田)東京都が新たに借り上げるのは、23区内のシティホテルとビジネスホテル2棟で、きょう(15日)にも移送を始めるということです。
佐々木)これを始めた時点で、入院患者数は2000人に近く、医療機関にあるベッド数が2000床しかないという状況でした。そこで1500室を確保して、ぎりぎり間に合った。都庁の方とホテルの方の努力に敬服するばかりです。
飯田)時間との戦いですものね。
佐々木)医療崩壊ぎりぎりだと言われていますが、感染症治療の専門家の話をいろいろなところから聞いていると、日本の状況はアメリカ、ヨーロッパで起きているような医療崩壊ではありません。ただICUの数などが足りなくなって来ていて、ぎりぎりの状況であることは間違いないので、欧米のようにならないためには軽症者をホテルに移す必要があります。
飯田)医療関係者の方からメールをいただいています。大阪市西成区、28歳の“たかひで”さんからです。「大阪市内の病院に勤務する医療従事者です。マスクは医師が1日1枚、その他の医療従事者は3日に1枚の配給です。医療用の手袋やガウン、消毒液が不足しています。必要最小限に抑えるように、感染対策チームから言われている状況です。疑いのある患者さんが来た場合はN95マスク、ウイルスを通さないマスクを使います。汚染された場合は廃棄しますが、汚染されていない場合は再利用となっています。でもこれは、目で見て判断ができませんよね。大阪府や大阪市の首長さんは、雨合羽を集めています。これは医療崩壊と言っても過言ではないのでは? 日本の医療は脆弱だと思います」。物資の部分は、病床とは別の話があるのかも知れません。
佐々木)ガウンは元来、毎回変えることを前提として生産していないので、どちらかといえば丈夫なものがつくられています。でも感染症治療となると、毎回変えなければならないので、足りなくなっている。平時の医療での対応と、緊急時の感染症での対応がずれていることが大きいと感じます。
東京都が軽症者が一時滞在するホテル名を公表しない理由~応援することと風評被害
佐々木)一時滞在施設のホテルに関して、武漢から日本人が帰って来て、勝浦のホテル三日月にみんなが泊まったとき、勝浦の人たちが三日月に一時滞在している人たちを応援したではないですか。今回も一時滞在施設となったホテルを応援しなければいけないと思いますが、ホテル名を公開していません。都の側が恐れているのは、ホテルに風評被害が起きてしまう可能性があるからだと思います。風評被害に遭わないために名前を伏せるということと、でも応援しようということです。しかし、それでも応援したくない人も出て来るわけで、そのバランスをどう共有し、対応して行くのかが難しいところだと思います。医療従事者に対しても、みんなで応援しようと言いながらも、お医者さんの子どもたちが学校から来るなと言われたり、おかしな差別を受ける状況が起きています。これは3.11の後に福島の人たちを応援しようと言う一方で、福島差別が起きてしまった状況と似ています。
飯田)社会全体の雰囲気が、専門家の意見をまったく信じないことや、その延長でデマが広がってしまうところなどが、3.11のときと似ていますね。
佐々木)両極端に走っている感じがします。医療従事者を信頼できないと言っている人もいます。確かにすべて信頼できるわけではありませんし、予測が外れることもあります。しかし医療の専門家を信頼しないで、誰を信頼するのかと個人的には思います。
メディアが専門家と一般社会の間の橋渡し役をできていない
飯田)専門家によっても言うことが少しずつ違いますが、大方の意見や数字、エビデンスを示して説明してくれる人たちは、信頼が置けると思います。
佐々木)横断的にいろいろな感染症の専門家の意見を見ていると、だいたいの共通見解がわかります。もちろん、そのなかに変なことを言っている人もいて、この人の意見は要注意だなという人も確かにいます。全員の意見を横断的に見て行かないと、何が共有認識で、何が共通の見解なのかよくわかりません。ある種、専門家と一般社会との間でコミュニケーションができていない感じがします。本当はそこを橋渡しするのがメディアの役割なのですが、メディアがそこをきちんと果たせていないのが、今回の問題として浮上しています。
メディアのあり方もアフターコロナの時代には180度変わる可能性も
飯田)メディアごとの色というか、新聞ならば右や左の色がありますが、結局は政権批判が頭に立ってしまって、そのための材料を集めるということになると、橋渡しの機能をしませんよね。
佐々木)そうですね。昨日(14日)もWHOの記者会見で、日本の対策がうまく行っている。クラスター対策によって、全員が感染させるわけではなく、5人に1人くらいしか感染させていないということがわかったのはよかったと、WHOが日本の感染症対策を評価していました。しかし、いろいろなメディアを見ていると、「日本はクラスターに対応しきれていない」と、まるでWHOが日本を批判しているかのように書いている記事もあります。メディアの記事を読んでも何が本当なのかよくわからず、もう1度ソースを見直さなければいけないという事態です。全員が記事のソースを見なければならないのなら、内容を紹介するメディアに何の意味があるのでしょうか。
飯田)その辺もソースがネットで全部上がっていて見られるので、メディアのあり方こそが、アフターコロナの時代でガラッと変わってしまう気がしますね。
佐々木)ソースを見ないと信頼できない記事なんて、記事として意味があるのかという根本的な話になってしまいます。確かに、メディアの意味は180度ひっくり返るのかも知れません。
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