一律10万円給付のゴタゴタに思う
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「報道部畑中デスクの独り言」(第186回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、緊急経済対策として実施される一律10万円の給付について---
新型コロナウイルス感染拡大を受けて、緊急事態宣言の対象地域が全国に拡がりました。また、緊急経済対策の目玉とされた減収世帯に対する30万円給付は撤回され、代わりに国民1人あたり一律10万円を給付することになりました。
これを受けて、1度閣議決定した補正予算案は組み換えに。それに伴って、当初108兆円あまりとされて来た経済対策の事業規模はさらに膨れ上がり、117兆円あまりになりました。
「ほとんどの国民の皆様が外出を自粛しなければならない。どうなるかという不安のなかにある。ここは国民みんなでこの状況を乗り越えて行くということにおいては、一律10万円をすべての国民の皆様にお配りするのが正しいという判断になった」
安倍総理大臣は4月17日の記者会見で、一律10万円給付の理由を説明する一方、一連の経緯について異例のおわびもありました。
「ここに至ったプロセスにおいて混乱を招いてしまったことについては、私自身の責任であり、国民の皆様に心からおわびを申し上げたい」
総理は政府・与党で一律10万円という議論もあった一方、リーマン・ショックのときに一律に給付した1万2000円について「多くは寝てしまった、預金に回ってしまった」と述べ、反省点として挙げていました。そして、2段階の給付を検討していたと明かしました。
安倍総理が口にした「混乱」、会見ではもう少し具体的に知りたかったところですが、報道では主に政権内の暗闘がクローズアップされています。
官邸が減収世帯30万円給付で、与党をいったんは押し切ったものの、与党、特に公明党が連立離脱の可能性もちらつかせながら、一律10万円を主張。自民党内では二階幹事長と岸田政調会長との駆け引きもあったようです。「官邸主導にほころび」「岸田氏のメンツ丸つぶれ」という側面は確かにあると思います。
一方、政治と官僚の対立が背景という見方もできると思います。具体的には、あらゆる算段で財政負担を抑えよう、給付を渋ろうとする財務省、あるいは財務省の顔色をうかがう勢力に、与野党が“待った”をかけたというものです。今回はギリギリのところで踏みとどまったと言えるのではないでしょうか。
与党では安倍総理が述べた通り、一律10万円という議論もあったと言います。一方、野党も例えば立憲民主党の枝野代表が記者会見で、今回の経済対策について「景気対策ではない。困窮対策・緊急生活支援策・緊急経営維持施策である」と述べ、1人あたりの「線引きなし」の現金給付を主張していました。
となれば、まがりなりにも国民が選挙で選んだ国会議員=立法府の考えが通った…それは大いにもたついているものの、健全な過程であるように思えます。給付に関しては海外の例が比較されますが、「民主主義国家」であり、「官僚天国」でもある日本ならではの経緯と言えるのかもしれません。
一方、この人の発言を聞くと、やはり「言葉は大事」と思います。麻生財務大臣は17日の記者会見で「今回は手を挙げた方、挙げていただいた方に1人10万円ということになる」「富裕層の方々、こういった非常事態に受け取らない人もいるんじゃないか」と述べました。
前出のリーマン・ショックの際の一律給付では、多くが貯蓄に回り、景気対策にはならなかったと言われています。財務省だけでなく、そのときの総理大臣、麻生氏にとってもトラウマになっていたと思いますが、こうした物言いが財務省の代弁者とするなら、国民の空気を読み違えていると言わざるを得ません。
給付金を盛り込んだ新たな補正予算案は、週明け4月20日に改めて閣議決定。今後は国会で審議され、成立後は地方議会に舞台を移して補正予算が組まれ、執行という流れになります。
地方議会が開けない場合は首長の専決処分も可能ということで、高市総務大臣は「結果的にはシンプルに早く、多くの方々に現金が行き渡ると思う」と話しています。給付の時期については20日の記者会見で、「給付日は市区町村が決める」として明言を避けた上で、人口の少ない自治体では準備が整えば5月からの給付が可能という見通しを示しました。
基準日は4月27日に市区町村の住民基本台帳に登録されている人が給付対象、そして「自らが積極的に手を挙げることを想定しているものではない」と述べました。
いまはとにかく給付金が一刻も早く、困っている方々に行き渡るように知恵を絞るべきときです。今回は立法府が一定の面目を保ったように見えますが、野党からは「朝令暮改」などと、さっそく非難の声が出ています。
今後、それこそ国会内で「手柄合戦」や「足の引っ張り合い」になろうものなら、たちまち世論の支持を失い、政府不信をより深めることになるでしょう。(了)