“50歳現役力士”華吹 親子ほど歳の離れた若手に勝つ秘訣

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、5月28日に昭和以降初の “50歳現役力士”となった大相撲・華吹関のエピソードを取り上げる。

“50歳現役力士”華吹 親子ほど歳の離れた若手に勝つ秘訣

大相撲夏場所2日目で土俵に上がった華吹(中央)=2019年5月13日 両国国技館 写真提供:共同通信社

(令和を迎えた心境は?)「何もありません。すみません、あまりしゃべらないようにしてるんで……」(2019年5月、大相撲夏場所にて)

この控えめなコメントの主は、立浪部屋所属の力士・華吹。シコ名は「はなかぜ」と読みます。「そんな力士、いたっけ?」と言う方も多いと思いますが、それもそのはず。華吹の現在の番付は序二段で、最高位も三段目。幕下に上がったことすらありません。地上波のTV中継には映らない力士です。

その華吹が、28日、「昭和以降初」となる大記録を達成しました。現役のまま、50歳の誕生日を迎えたのです。華吹は1970年(昭和45年)5月28日、東京・足立区生まれ。中学を出て、いまから34年前の1986年、立浪部屋に入門。このとき華吹はまだ15歳でした。

この年(1986年)3月の春場所に前相撲で初土俵を踏み、5月の夏場所に序ノ口でデビュー。11月の九州場所はケガで全休したため、いったん番付外となりましたが、翌1987年1月の初場所で、再び前相撲から復帰。以後、ほとんど休場することなく、今年(2020年)3月の春場所にも出場。入門から足かけ34年、現役力士として土俵に上がり続けているのです。

冒頭の華吹のコメントは、改元直後、2019年5月の夏場所で「昭和・平成・令和の3時代に本場所の相撲を取った唯一の力士」として注目されたときのものです。「あまりしゃべらないようにしてるんで……」という控えめな発言は、番付の低い自分が幕内力士より脚光を浴びてはいけない、という角界ならではの配慮もあってのことです。

とはいえ、華吹の偉業はもっと讃えられてしかるべきと思います。ここで、あまり知られていない彼の「すごさ」について触れておきましょう。華吹の通算成績は、658勝743敗13休(2020年春場所終了時)。通算204場所はもちろん史上最多。驚くのは「現役力士の通算勝利数ランキング」で、白鵬(1160勝)・琴奨菊(817勝)・鶴竜(785勝)・栃煌山(661勝)に次いで、5位にランクインしていることです。

「そりゃ34年も取ってりゃ、そのぐらい行くでしょ」と思った方、よく考えてみてください。華吹はずっと三段目以下で取って来た力士です。1場所に15番取る関取(十両以上)と違って、幕下以下は1場所7番だけ。6場所皆勤しても、年間42番。年に挙げられる白星は、勝率5割近くとしても、ぜいぜい20勝前後です。そう考えると、この「658勝」の凄味がおわかりいただけるのではないでしょうか。

しかも華吹は、今年3月、無観客で行われた春場所で4勝3敗と勝ち越しているのです! 相手はみな、親子ほど年の離れた力士。これまた、なにげにすごい話です。

さらに華吹は、立浪部屋の厨房を取り仕切る「ちゃんこ長」でもあります。稽古の後に食べるちゃんこは、力士にとってパワーの源になる大事なもの。最近の若い力士は嗜好が多様化し、舌も肥えて来ているため、たくさん食べてもらうには、味付けにも工夫を凝らさなければいけません。部屋にとっては重要な存在です。

ちゃんこ長は毎日、メニューを考えねばなりませんし、ちゃんこの仕込みは稽古中に行うため、自身が稽古する時間はほとんどありません。その状況でなぜ、年下の若い力士に勝てたのでしょうか?……実は華吹、ちゃんこをつくり終えた後、午後からジムに赴き体を鍛えているのです! こういう見えない努力も、長きにわたって土俵に上がり続けられる理由です。

そんな華吹に、立浪親方(元小結・旭豊)も絶大な信頼を寄せています。実は、華吹が入門したときの親方は先代(元関脇・羽黒山)で、現在の立浪親方は、華吹より入門が後。つまり「弟弟子」なのです(年齢は親方の方が上)。師匠が弟弟子とは、これまたすごい話です。

まだしばらくは現役を続けそうな華吹ですが、また1つ、大記録が視界に入って来ました。それは「史上最高齢力士」。記録に残っている最高齢力士は、江戸時代に関脇・宮城野が「52歳」、明治時代に小結・鬼ヶ谷が「51歳」でそれぞれ引退しています。あと数年頑張れば、陽が当たらなかった華吹にまた1つ、大きな勲章が加わることになります。

そこで八角理事長にお願いしたいのですが、記録達成のあかつきには、千秋楽の表彰式で、ぜひ華吹を表彰してあげてもらえないでしょうか? 筆者もそうですが、同世代の彼が現役で相撲を取り続けていることが、アラフィフ世代にとってどれだけ励みになることか。サッカーの三浦知良選手とともに、可能なら還暦まで現役を続けられますように……。

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